ファンタジー小説「魔法使いサキの物語」の、第12章・第5話です。
この作品は、前回の更新から、かなり期間が開いてしまいました。その間、他の小説を書いたり、フィギュア作りにいそしんだりしていましたが、そういう寄り道を経ることで、滞っていた筆が走りはじめることを期待していたわけです。

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魔法使いサキの物語 第12章・第5話 『密航』

その夜、サキたちは農場を出て、街から離れた人気のない海岸に向かうと、砂浜に引き上げられていた穴の開いた小舟を手早く修理して、肩を寄せ合うようにそれに乗り込み、カイザールの魔法の力で、風と波を操りながら船出しました。
「この小舟でシンギ半島まで行けないかしら。交易船に審問官が乗っていたらと思うと、近づくのが怖いわ。」
ホピンは寒さにショールをかき合せると、船首に立って舟をあやつるカイザールに問いかけました。
「無茶を言うな。シンギ湾は海流が早くて波も荒い。俺の頼りない魔法では、途中で力尽きてしまうぞ。」
カイザールは舟の操縦に集中しているらしく、振り向かずに答えました。
そして、
「なに、取り締まりが厳しいのは、船が港から出るまでさ。審問官も、国境を越えてまでは追って来るまい。」
と付け足しました。
「お母さん、大丈夫よ。いざとなったら、こっちには腕の立つ魔法使いが三人もいるんだから。捕まえようなんて来た日には逆にやっつけちゃえばいいのよ。」
とレカが言いました。
「ははは。その通りだ。俺たちより、レカの方がどうすればいいか分かってる。」
カイザールが朗らかに笑ったので、ホピンも少し安心して、「みんなで、力を合わせて乗り切りましょうね。」と言いました。
サキは、牢番から聞いた、フラトでの革命の勃発が本当ならば、サドゥの地方長官は出国する交易船よりも、東の国境から流入する人々の取り締まりに人手を割くよう、審問官に命じるだろうと思いました。ただ、サキは革命のことを、カイザールにはまだ話していませんでした。
彼が再びフラトに戻って、今度は革命軍に身を投じようとする事を、心配したからです。
カイザールの操る小舟は沖合に出ると、波を鎮めながら夜明けまでそこに留まりました。
まだ薄暗いうちに、交易船はサドゥの港を出て、波をかき分けながら小舟の方に近付いてきました。
朝霧がうっすらと立ち込めた上、小舟はカイザールの魔法のもやに厚く包まれていたので、交易船の船尾に小舟を付けて、ロープを伝って四人が交易船に乗り込んでも、船員や乗客に気が付かれることはありませんでした。
カイザールはサキたちを物陰に隠れさせると、魔法で船員の一人に扮装して、船長室に忍び込み、船底の三等客室の乗客名簿に、四人の乗客の名前を書き足しました。
これで、密航者たちの船旅の安全は、ひとまず確保できたというわけです。
サキは、カイザールの魔法を操る力、そして用いる魔法の多彩さに、ただただ感心するばかりでした。

つづく

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 きょうは、ファンタジー小説、『魔法使いサキの物語』の、第12章・第4話をご紹介します。
サドゥの審問官カニエに捕らえられ、危うく処刑されるところだったサキは、寸でのところで護送馬車から助け出され、難を逃れることができました。
今回は、どうやってサキを護送馬車から助け出したのか、その種明かしのお話です。

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魔法使いサキの物語 第12章・第4話 『生きた心地』

サドゥ郊外の農場の納屋では、つい今しがた、空飛ぶ幌にまぎれて助け出されたサキが、干し藁の上に寝かされて、カイザールやホピン、それにレカから介抱を受けているところでした。
「ものの見事に上手く行ったわね!ああ、あのみんなの驚きようといったらなかったわ!」
ホピンはすっかり有頂天で、歌い出しそうなくらいはずんだ声でそういうと、冷や汗をかいたサキのひたいに濡れたハンケチをあててやりました。
サキは震える手でホピンの手を握ると、涙目で見上げながら申し訳なさそうに、
「助かった事が分かったら、力が抜けてしまって……。」
と言いました。
「無理もないわ。本当に奇跡みたいな救出劇だったものね。」
ホピンが手を重ねて握り返すと、サキもようやく気持ちが落ち着いてきたようで、ホピンに支えられて少し体を起こすと、みんなを眺めながら、
「火刑にされると聞いて、気を失いそうになったんだけど、その時すがり付いた鉄格子が、封印の魔法の力をあまり受けていない事に気が付いて、もう無我夢中で、鉄を腐らせる魔法を唱え続けたの。」
と話しました。
「護送馬車の檻に刻まれた封印の魔法を、ねずみにかじらせて改ざんしたのさ。全体の封印の効力を増す代わりに、一部分に負荷をかけてもろくするようにな。封印に用いられていた魔法が、ごく一般的なものだったのが幸いだった。しかし、時間的に細工が完全でなかったから、仕上げにお前の力を借りなければならなかったがね。」
カイザールが言いました。
ホピンはうんうんと大きくうなずきながら、
「あなたがカイザールさんの細工に気が付くかどうかが、脱出が成功するかどうかの鍵だったのよ。」
と言い添えました。
サキはカイザールを見あげて、
「助けてくれてありがとう。」
と言いました。
するとカイザールは首を横に振って、
「礼はこの子に言ってくれ。俺たちはあきらめていたんだ。」
と言って、レカの肩に手を置きました。
「ありがとう。」
サキが手を差し伸べると、レカはうれしそうに握手をして、
「カイザールさんは、ねずみをあっという間に調教したり、穴を掘らずに落とし穴を作ったり、風を操って自在に幌を飛行させたり、すごかったのよ。どうして、サキさんを助けられないなんて思ったのか、分からないくらい、すごい魔法使いだわ。」
と言って、羨望のまなざしでカイザールを見ました。
「いや、まったく、驚きなんだが、魔法の力が、少し戻って来ているらしいんだ。」
カイザールは自分の手を、珍しい物でも見るように眺めながら言いました。
サキは、自分が助かった事もさることながら、この三人が、うれしそうにお互いの事を話す様子が、とても幸福に思えて、微笑みながらしきりにうなずいていました。
そうするうちに、生きる喜びが、温かく心と体に満ちて来て、気が付くと、いつの間にか、不安や恐怖は、どこかに行ってしまっていました。

つづく

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【ホピンとレカ】



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 きょうは、ファンタジー小説、『魔法使いサキの物語』の、第12章・第3話が書けたので、ご紹介します。
ナーグリアの東の国境に近いサドゥの町で、審問官に捕らえられたサキは、いよいよ刑を受けるために町の広場に引き出されます。絶体絶命のサキが助かるすべは、はたしてあるのでしょうか?
それでは、描き下ろしの挿絵といっしょに、お楽しみ下さい。

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魔法使いサキの物語 第12章・第3話 『脱出』

翌朝、サドゥの目抜き通りには、刑場の広場へ引き出されるフラトの魔法使いの姿を一目見ようと、町人たちが集まって、護送馬車が通りかかるのを待ち構えていました。
魔法使いの自由が認められていたフラトと違って、多くの国では人々が魔法や魔法使いを目の当たりにする機会が少なく、ナーグリアのように魔法使いを取り締まる目的で、下僕として魔法使いを使役している国であっても、その存在は極力目立たないようにせよとの規定が設けられていました。
ですから、魔法使い狩りで捕らえられた魔法使いへの刑罰を見物することは、町人たちにとって大きな関心事であり、またその量刑の重さ(審問官から魔法使いと断定されただけで死刑)からいっても格好の話題の種なのでした。
そして、今回刑に処せられる魔法使いが若い女であることも、人々の興味をかき立てていました。
「おれは、女の魔法使いというと、ほうきにまたがった婆さんを想像してたがね。」
「そういうのは、魔女というんじゃないか。魔法使いは、老若男女問わず居るもんだ。」
「どちらにしても、妖しい術で人をだましたり、呪いをかけたり、ろくでもない連中だぜ。おれも先日、いつの間にか、ふところの金を盗まれていたし。」
「それはおめえ、博打で全部すっちまったんじゃねえか。どさくさに紛れて何でもかんでも魔法使いになすり付けるのは気の毒ってもんだぜ。」
「ハハハ、おや、来たようだぜ。」
通りの向こうから、頑丈そうな檻付の荷台を引いた馬車がやって来ました。檻には金髪をおさげに編んで男装をした女、サキが入れられていましたが、サキは痛ましいほど真っ青な顔をして、鉄格子にすがりついたまま力なくもたれかかっていました。
魔法使いの処刑は、火あぶりによって行われるのが決まりだったので、炎への恐怖症を克服できていないサキはそれを知って、すっかり腰が抜けてしまったのでした。
その情けない姿を見て、町人たちは魔法使いへの嫌悪をいっそう露わにしました。
「見ろよ、まるで死人みたいな面をしてやがるぜ。もう半分悪魔になっちまってるんだ。悪魔に魂を売っちまうとああなるんだな。」
「よっぽどあくどい事を重ねて来たんだ。自分の罪の重さにふるえてやがるぜ!ざまあみろだ。」
「うちの亭主がわけの分からない病気になっちまったのも、きっとお前たちの仕業なんだろう!子供をたくさん抱えた上に、病人までいて、どうやって暮らして行けってんだい!」
何人かの見物人が、怒りに任せて檻に向かって拾ったつぶてを投げつけました。
そのいくつかは、サキの頭や胸にあたりましたが、魔法を封じられたサキには防ぐ方法がないので、通りを進む間、町人たちのなすがままに仕打ちを受けるしかありませんでした。
やがて、馬車が通りの角にさしかかると、民家の二階の窓から見物していた女が、「あれをごらん!」と大きな声で叫んで空を指さしました。幌馬車用の大きな幌が空に舞い上がっていて、それが護送馬車めがけて落ちてきていました。気が付いた町人たちからざわめきが起こり、その間にも、幌はきりもみしながらまっしぐらに飛んできて、護送馬車の檻に覆いかぶさるように勢いよくぶつかりました。
その拍子に、貨車がガクンと片側に傾いて、まるで幌に押されるようにゆっくりと片輪を浮かせて横ざまに転倒しました。
ものすごい音があたりに響き渡り、見物人たちは魔法使いの力だと思って、恐怖に駆られて悲鳴をあげながらその場から右往左往と逃げまどいました。
幌は強風にあおられてすぐに貨車から引きはがされると、再び勢いよく空に舞い上がり、家々の屋根をゆうゆうと越えて、役人たちがつかまえる間もなくどこかへ飛んで行ってしまいました。
町人たちが騒然とする中、役人たちが駆け寄って、横倒しになった檻を確かめると、鉄格子の一部が折れて外れていて、檻の中はもぬけの殻になっていました。
それらは、ほんのわずかな間の出来事でした。

つづく

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毎日暑いですね。最近私は、ミネラルウォーターを冷やして飲むのが習慣になっています。
メーカーや取水地によって、味がずいぶん異なるので、飲み比べて、好きな味の「サントリー天然水・南アルプス」を飲むようにしています。苦味が無く、後味がすっきりしているのが良いです。

さて、きょうは、ファンタジー小説、『魔法使いサキの物語』の、第12章・第2話を書き進めたので、ご紹介します。

場面は、サドゥの審問官に捕らえられたサキのその後の様子です。



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魔法使いサキの物語 第12章・第2話 『サドゥの牢番』



サドゥの牢獄の地下には、魔法使いを収容するための特別な牢が設けてありました。
牢の石壁には、魔法使いの力を弱める呪文が刻んであり、さらに天井や床、鉄格子には、セイ(声に出す呪文)を無力化するために、音を響かせないようにする呪文が刻んでありました。牢自体が一つのミステル(魔法具)になっていたのです。
今朝がた、審問官の手下の魔法使いたちに捕らえられたサキも、この牢に収容されていました。
サキは何度か、魔法で脱出を試みましたが、声が出せず、牢全体がとても強固な魔法で封じられていることも分かると、あきらめて部屋の隅に座り込みました。
「やっと観念したかね。」
見ると、鉄格子をへだてた通路に、牢番が立っていて、薄ら笑いを浮かべながらこちらを見ていました。
サキは自分に何の罪があるのかと訴えようとしましたが、口がパクパク動くだけで、声がちっとも出ないので、もどかしそうに口をつぐんでにらみ返しました。
牢番は通路のはじの椅子に腰かけて、
「フラトで魔法使い追放の王命が発せられた後、ナーグリアでは魔法使いを入国禁止にした。お前はその禁を破って入国したフラト人なのだから、立派な重罪人さ。」
と言うと、隠しから小瓶を取り出し、これ見よがしに一口あおりました。牢番が長々と息を吐くと、強い酒の臭いがあたりに立ちこめました。
サキは、彼が声のない言葉を聞き取れたことに驚きましたが、すぐに、唇の動きを読んだのだと気が付いて、
『入国禁止の措置が取られているなんて、知らなかったのよ。』と、口の動きだけで反論しました。
「お前が知っていたかどうかなんて、誰にも証明できないことさ。それに、カニエにしてみれば、魔法使いを一人でも多くつかまえて冥土に送るのが仕事なんだ。」
牢番はそう答えると、鉄格子のそばまで来たサキの顔を指さして、
「お前もつくづく運がないよ。フラトにいれば良い思いも出来たろうに、わざわざ死地に赴いて来るとはね。」
『どうしてフラトにいれば良い思いができたというの。魔法使い狩りで、ここと同じように私たちには居場所なんてないのに。』
サキがたずねると、牢番は、再び小瓶から酒をあおって、苦々しそうな、それでいて半笑いのような、よく分からない顔つきになりながら、
「革命が起きたのさ。魔法使いたちが組織する革命軍が、アモス王率いるフラト軍を破って、テトの都を一日で陥落させたのだ。」
と言いました。
サキが息をのんで鉄格子に身を寄せると、牢番はますます得意になって、
「これはまだ、この街の奴らも知らん話でね。カニエが魔法使いをつかまえようと躍起になっている理由が、これでわかったろう。」
と、あたりをはばかることもなく大きな声で言いました。
『革命なんて、魔法使い狩りをしていた市民が、許すはずがないわ。』
牢番は、サキの口つきを見てとると、片方の眉を吊り上げて見せて、小瓶に残った酒をぐいっと飲み干してから、ふっふと笑って言いました。
「魔法動力によって繁栄した国の人々が、便利なものを一切捨てて昔ながらの不便な生活に戻るなんて、我慢ができるはずもなかったってわけさ。」

つづく



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 きょうは、ファンタジー小説『魔法使いサキの物語』の、第12章・第1話を書き進めてみます。

第12章は、久しぶりにサキとカイザールの旅のようすを書いて行きます。


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魔法使いサキの物語 第12章・第1話 『サキ捕まる』



「波止場で今朝、魔法使いが審問官に捕まったらしい。」
こんなうわさが、ナーグリアの、サドゥの街の人々の間に広まりました。
その魔法使いは、若い女で、混乱するフラトから逃れて来たのだが、シンギ半島へ渡る船に乗ろうとしたところで、審問官の検問に引っかかったのだ、ということでした。
それから、連れのやはり魔法使いの男が、その場から逃れたらしい、ということもあわせて伝わりました。
「まったく、魔法使いというものは、どこにでもそ知らぬ顔で紛れ込んでいるからたちが悪い。」
「審問官は、“はざめ石”というものを使って、相手が魔法使いかどうかを見分けることができるのだそうだ。それが無ければ、奴らは城中へだって何食わぬ顔で仕官できてしまうだろうよ。」
「逃げた男は、褐色人だったという事だ。一目見れば分かるのだから、よもや隠れおおせはすまいて。」
そんな話が交わされる、サドゥの市場の雑踏を、カイザールは顔を隠すこともなく、恰幅のよい婦人と、その娘らしい八つくらいの子どもの後に連れられて歩いていました。
カイザールの顔は、魔法によって、褐色ではなく、ナーグリア人と同じ黄褐色に変えてありました。
「もう少し行けば、私たちの宿がありますから、ひとまずそこに落ち着きましょう。」
婦人は振り返ってカイザールに言いましたが、カイザールはすっかり意気消沈して、言葉もない様子でした。
市場の裏手の、せまい路地へ少し入ったところに、入り口の開け放たれた民家があって、婦人はそこに入って、階段を上ったつき当たりの部屋にカイザールを案内しました。
婦人は窓をとじると、カイザールをきたないテーブルに着かせて、娘に手伝わせて茶器を並べ、急須で紅茶をいれはじめました。
「助けてくれてありがとう。」
カイザールは、やっと顔を上げて婦人に言いました。
「魔法使い同士、困った時はお互い様よ。でも、兵隊たちがもやい綱に引っかかっていっせいに転んだ時は、気分がスカッとしたわね。」
「お母さん、声に出して喜ぶんだもの。私は役人たちから気が付かれやしないかと、背筋がヒヤッとしたわ。」
たのしそうな婦人をなじるように、娘が言いました。
婦人は屈託なく笑うと、落ち込んだ様子のカイザールを見て、
「あそこでお連れさんを助けようとしなかったのは、賢明でしたよ。審問官カニエの奴隷たちはいずれも手練れの魔法使いですからね。いくらあなたが腕に覚えがあっても、立ち向かえば数の力であっという間に取り押さえられてしまっていたでしょう。」
と言いました。
カイザールは名前を名乗って、捕らえられた娘がサキという名前である事や、彼女と連れだってフラトからナーグリアに来ることになった事情を、二人に話して聞かせました。
婦人はホピンと名乗り、娘をレカだと言って、シンギ半島のアスタカリアからフラトに向かっていたが、ナーグリアまで来てみると、フラトで魔法使い追放の王命が発せられたと知らされ、やむなくアスタカリアに引き返そうとしているところだったのだと話しました。
「アスタカリアでも、この頃は魔法使い狩りが起きるようになって来たんですよ。だから、もっと安全なところがあれば、引き返したくはないのだけれど・・・。」
ホピンはカイザールにも勧めると、小さくため息をついてから紅茶をすすりました。
「俺たちも、アスタカリアへ行こうとしていたのだ。だが、条件の悪さはどこも同じようだな。」
「ええ、それに、フラトでこんな事が起きてしまっては、ますます私たちの肩身は狭くなるばかりよ。」
その時、二人の話を静かに聞いていたレカがたずねました。
「サキさんはどうするの?」
言葉に詰まった二人は、顔を見合わせると、
「助けたいのはやまやまだが、俺の力ではもうどうにもならんよ。」
「そう、残念だけど、こうなってはもう助けようがないわ。」
と、申し訳なさそうに口々に言いました。
レカは、
「サキさんが捕まる時、あんなに抵抗したのは、カイザールさんを逃がすためだったんじゃないかしら。」
と、二人の顔色をうかがいながら言いました。
カイザールはハッとすると、目を伏せて、何も言えなくなりました。

つづく

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 きょうは、ファンタジー小説『魔法使いサキの物語』の、第11章・第11話を書き進めてみました。

第11章はこの短いお話で終了です。第12章からは、再びサキたちの旅のようすに話が移ります。


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魔法使いサキの物語 第11章・第11話 『タダニへのお礼』

サンバロの埋葬を終えて、三人がタダニのところに戻ると、タダニはずいぶん具合が良くなっていて、すり寄って来たブーの頭をなでてやっているところでした。そこでウルは、タダニをブーに乗せると、ダンケルとマイネを、谷地の西の外れまで、案内して行くことにしました。
一頭残ったあし毛の馬を伴って、岩場を歩き、いくつかの丘を越えると、急に視界が開けて、地平まで続く広々とした枯草の平野に行き着きました。
「ここからは、開けた土地が続くし、領地を争う部族もないから、お前たちだけで進めるだろう。タダニは、俺がマヒャライ族の集落まで送り届けるから、安心しろ。」
ウルはそう言って、タダニと一緒に谷地の方へ引き返そうとしました。
ダンケルは二人を呼び止めると、背負っていた木箱を下ろして、中から黒曜石でできた手水鉢を取り出しました。
そして、
「これはな、スナクフ様という、フラトで一番えらい魔法使いが使っていた、占いを行なうための道具なんだ。お前ならきっと、上手く使いこなせるようになる。」
と言って、ブーを下りて歩み寄ったタダニに手渡しました。
タダニは、その手水鉢を胸に抱いて、両目をとじ、ほほえんでから、
「ああ、おれはこれを使いこなすようになるよ。」
とうれしそうに言いました。
ダンケルとマイネは、タダニが二人に気遣わせないためにそう言うのか、それとも、本当にそう感じているのかよく分かりませんでしたが、これまでと同じように、タダニの言うことを信じることにしました。
タダニは再びブーにまたがり、時々振り返って二人に手を振ると、ウルに付き添われて、谷地をずんずん下り、暮れなずむ弱光の中を、東へ向かって遠ざかって行きました。

つづく


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水鏡のミステルをゆずられたタダニ



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 きょうは、ファンタジー小説、『魔法使いサキの物語』の、第11章・第10話を書き進めてみようと思います。
今回のお話で、11章全体にまつわるいつくかの謎が解き明かされます。


前回までのあらすじ
サキを追って大陸を西へと向かう魔法庁の役人、ダンケルとマイネは、シェルの荒野を、マヒャライ族の少年タダニの案内で横断することになりました。
タダニは未来を予知する不思議な力を使って、二人がどう猛な獣サンバロに追われている事を告げ、サンバロを避けるために北側の谷地へと二人を導きますが、そこにはガリリ族の戦士ウルと、彼を今にも襲おうとするサンバロの姿がありました。
混乱のうちにタダニとはぐれたマイネは、サンバロに危うく襲われそうになりながら、タダニを追って谷地の底へと下りますが、そこで見たのは、気を失ったタダニと、絶命したサンバロ、そして、崖から落ちたと思われていたウルの姿でした。



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魔法使いサキの物語 第11章・第10話 『サンバロとウル』


マイネは空を向いて、高く笛を吹きました。するとやがて、それを聞きつけたダンケルが、辺りをうかがいながら、さっきの岩棚を駆け下って来ました。
マイネはダンケルに紹介しようと、ウルを見あげましたが、彼はいつの間にか、そこからいなくなっていました。けれど、マイネが先ほどの出来事をダンケルに話していると、ウルはダンケルの馬と、タダニのブーを連れて戻って来ました。
マイネの馬は、荷だけ残して、どこかへ行ってしまっていた、という事でした。
その時、タダニが小さくうめいて、うっすらと目を開けました。
タダニのそばにしゃがんだウルが、「お前のおかげで、俺は死なずに済み、サンバロを仕留めることができた。ありがとう。」と声をかけました。
タダニは安心したようにかすかにほほえんで、うなずきました。
「全部分かっていたのか?ウルとサンバロがここに来ていることや、俺たちがここで、サンバロに出くわすことになるって事も。」
ダンケルが、タダニを上からのぞき込んで聞きました。
タダニは、マイネが持ってきた皮袋から水を飲ませてもらうと、少し元気が出たらしく、
「ごめんよ。黙っているのが、一番いいと思ったんだ。」
と答えました。
「まったく、大した奴だよ、お前は。いずれ世界一の勘の達人になるぜ。いや、もう世界一なのかもな。」
苦笑して、ダンケルが言いました。
するとタダニは、困ったようにほほえみながら、首を横に振って、
「おれの勘、もうないんだ。」
と言いました。
「ないって、どうして?」
「サンバロが欲しがったから、あげてしまったよ。」
ダンケルもマイネも、これには言葉を失いました。
「お前は、未来を見通す力を失くすことを承知で、ここへ来たんだな。」
ウルがたずねると、タダニは返事の代わりに、両目をとじて、ふうっと静かに息を吐きました。
タダニがまだしばらく、起きられそうもなかったので、みんなは、人間の姿のサンバロを、砂が厚く積もった場所まで運んで、そこに埋めてやることにしました。
マイネは穴を掘り終えると、「どうしてこの人は、獣の姿になっちゃったんだい?」と、ウルに聞きました。
ウルは穴底に、男を横たえると、砂をかけながら答えました。
「サンバロは俺の幼馴染だったのだ。子供の頃に、流れ者の魔法使いに教わって以来、こいつは簡単な魔法が使えるようになった。サンバロはそのことを、ずいぶん得意にしていたのだが、だんだん、自分を特別だと思うようになり、悪い道にそれて、魔法で人をだましたり、ひどい目に合わせたりするようになった。手を焼いた族長たちは相談の上、サンバロに三年間のスルガニ(難行)を課すことにした。スルガニを乗り越えれば、九つの部族の長(おさ)という地位が与えられるが、成功した者はおろか、無事に帰って来た者さえ一人も居ないのだから、実際は罰を言い渡したのと同じだった。
サンバロは負けず嫌いで、なによりうぬぼれていたから、たった一人の身内の、幼い妹を俺に託して、勇んで出かけて行ったが、二年ほどして、人目を忍んで俺のもとを訪ねて来た時には、人相が変わるほどやつれはてて、何かにおびえたような目つきになっていた。
そして、彼はこう言った。
『スルガニは全て乗り越えた。だが、そんなことはどうでもいい事だったんだ。俺はつまらない欲望のために、俺自身を信用できないものに変えてしまった。もし、俺がすっかり変わり果てて、だれかれ見境なく傷つけるようになったなら、どうかお前の手で、俺を始末してくれ。そして、俺の妹はお前の身内として育てて、俺という兄が居たことは絶対に話さないでくれ。』
俺は彼の話の半分も理解できなかったが、あまりのせっぱつまった様子に、『分かった。約束する。』と返事をしてやるしかなかった。
サンバロは、俺の手を握って、魔法の契(ちぎ)りを結ばせた。
その契りによって、俺はサンバロが今どのあたりに居るのかを、いつでも察知できるようになった。
日が暮れて、サンバロは逃げるように荒野に去って行った。見送っていると、彼はあの、まがまがしい獣の姿に変わって、夜の闇の中を振り返ることなく消えて行った。」

つづく


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 きょうは、ファンタジー小説、『魔法使いサキの物語』の第11章・第9話を書き進めてみたので公開します。

前回のあらすじ
大岩が林立する入り組んだ谷地を通って西の大国ナーグリアを目指していたダンケル、マイネ、タダニの一行でしたが、タダニの案内にしたがって谷地を進んだその先には、『いやしい心の者をおそう』というどう猛な獣、サンバロの姿があったのです・・・。



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魔法使いサキの物語 第11章・第9話 『追う者と追われる者』

大岩や岩壁のすき間を通って、ただやみくもに逃げたので、間もなく、ダンケルにもマイネにも、自分たちがどちらへ向かっているのかさえ分からなくなりました。
さらに悪い事には、タダニが、「ブーをおいて行かないで!」と言って、二人の腕からもがいて逃れると、もと来た方へ走って行ってしまったので、二人は「もどってこい!」と叫びながら、彼を追いかけなければならなくなりました。
しかも、追い始めてすぐの、大岩のせまいすき間で、体格のいいダンケルが行き詰まってしまったので、通り抜けることができたマイネが、「別の道を探してきて!」と言い残して、一人でタダニを追う事になりました。
マイネは足音をたどる魔法を唱えて、タダニの進んだ方角が分かると、その斜面を勢いよく下って行きましたが、不意に頭上に気配を感じて、凍り付いたように体をこわばらせると、ゆっくり振り返って背後の大岩を見上げました。
そこには金色の目をぎらぎら光らせたサンバロが、大蛇のように静かなうなり声を発しながら、マイネをじっと見下ろしていたのです。
マイネはとっさに笛を取り出して、聴いた者が躍り出さずにはいられない魔法の旋律を奏でました。
サンバロは身構えたまま、じっとその音色に聴き入っていましたが、やがて上体を起こすと、まるで酔ったように、頭を前後左右にゆらしはじめました。マイネは手ごたえを感じて、いっそう高らかに笛を響かせましたが、サンバロは、それをあざけるように、ゆっくり体勢を低くすると、両目をいっそうらんらんと光らせながら、マイネを凝視して、大岩を一脚ずつ下りはじめました。
マイネは別の魔法を唱えなければと焦りましたが、なぜか体は、石のように固まって、サンバロの燃える目をじっと見続けてしまうのでした。
突然、サンバロが表情を変え、横を向きました。すると、斜面を駆け上がるように、激しい突風が吹き抜けて、サンバロはその砂利交じりの風をまともに顔に受けると、目をつぶってどう猛な叫びをあげて、大岩の頂上に退いて行きました。
マイネは急に体が動くようになったので、その場をよろめきながら逃げ出して、誰が助けてくれたのかと、斜面の下の方を見やりました。すると、そこにはマイネの乗って来たあの栗毛の馬が、まるでこっちへ来いとでも言うように、激しくいななきながら、首をめぐらせて走り去って行くところでした。
マイネは斜面を下りきると、馬が去って行った方へさらに走って、階段状の岩棚を、息せき切って一足飛びにかけ下って行きました。
すると、谷地の底の方で、確かにタダニらしい、かん高い叫び声があがりました。マイネは岩棚から谷底の砂地へ走り出ると、その光景を目にして、声にならない悲鳴を上げて立ち尽くしました。
ぐったりしたタダニを口にくわえて、サンバロが大岩に体を寄りかからせて、うつろな目でこちらを見ていたのです。
サンバロはタダニを脚もとに下ろすと、あえぐようにあけた口から、血の混じったよだれをしたたらして、頭を巡らせ、体を引きずるように、大岩の後ろへ歩いて行きました。
そして、岩陰に半分体を隠したところで、どさりと重い音をさせて、砂地に横ざまに倒れ込みました。
すると、サンバロが倒れた岩陰から、一人の、槍を持った背の高い男が現れました。
それは、サンバロに追われて崖から落ちたはずの、あの、ウルという腰巻き姿の男でした。
ウルは倒れたタダニのそばにしゃがむと、そっと首に手を当てて、脈をとってから、マイネを見上げて言いました。
「生きている。」
マイネはほっとして、タダニに駆け寄りました。タダニは血で汚れていましたが、どうやらそれはサンバロの血らしく、タダニ自身は、肩に浅い切り傷があったものの、気を失っているだけのようでした。
マイネは念のために、サンバロの倒れた岩陰を確かめて、ぎょっとしました。そこにサンバロの姿はなく、代わりに、誰だかわからない、人間の大人の男が、はだかで倒れていたのです。
マイネはその男もサンバロにやられたのだと思って、「サンバロも生きてるよ!」と震え声でウルに伝えましたが、ウルは首を横に振ると、「これがサンバロだ。」と、その倒れた男を、じっと見おろして言いました。
マイネは、あまりにおかしな事ばかり起こるので、悪い夢でも見ているような気がしました。
でも、ともかく、サンバロはもういないらしいのです。それは、何にしても、ありがたいことでした。

つづく



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 きょうは、ファンタジー小説、『魔法使いサキの物語』の、第11章・第8話を公開します。

ちなみに、副題の“谷地”は、やち、と読みます。谷地には、谷あいの土地、という意味と、低湿地、という二つの意味があります。
宮沢賢治の名作童話、『土神ときつね』の中で、この言葉を初めて知りました。(土神ときつねの中では、低湿地という意味で用いられていますが、私の小説では谷あいの地域、という意味で用いています。)

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魔法使いサキの物語 第11章・第8話 『谷地』

ガリリ族の暮らす領地は、コンバ族の領地から、半日ほど馬で南下したところにありました。
木の枝を交差させた骨組みに、アシの葉を分厚く編み込んだ高床式の小さな住居が、寄せ合うように並んでいるのが、ガリリ族の集落でした。
尖った枯れ枝の垣で囲まれた集落の、入り口近くの住居の前で、ブーを下りたタダニが、「キローク!」と、鳥の鳴きまねのような言葉をかけると、住居の中から、「コローク!」と、やはり鳥の声をまねた返事があって、間もなく、青く染めた麻の衣をつけた、タダニと同い年くらいの少女が、入り口から浅黒い顔を出しました。
タダニは、ダンケルとマイネをいぶかしそうに見る少女に、簡単に事情を説明して、
「ベーエナ、おまえの兄さんに、コンバ族のとりなしを頼みたいんだ。会えるだろうか?」と聞きました。
ベーエナという少女は、うつむいて、足をもじもじさせながら、
「丘地のふもとで、サンバロが出たんだ。ウルは五日前からそっちへ行ってる。」と答えました。
「やられたのは旅の人だろう。」
タダニがたずねると、ベーエナはこくりとうなずきました。
ダンケルは、タダニが言葉を継げずに青ざめて立ち尽しているを見て、「だいじょうぶか?」と声をかけて肩を支えました。
タダニの熱病にかかったようなはげしいおののきが、ダンケルにも伝わって来ました。
マイネは、ダンケルと顔を見合わせると、タダニに、「ここから先はぼくらだけで行くよ。君はここで、ウルの帰りを待つといい。」と、言いました。
ところが、タダニは、かぶりを振って、「おれも行くよ。ウルは一度サンバロを追いに出ると、当分戻って来ないし、この先には入り組んだ谷地があるから、お前たちだけでは迷ってしまうと思う。」と言って、マイネやダンケルが留まるように言っても、聞こうとはしませんでした。
タダニはベーエナに、ウルが戻って来たら、コンバ族のとりなしの件を伝えてほしいと頼んでから、マイネたちと共にガリリ族の集落を後にしました。
タダニは道中で、マイネたちに、
「ウルが見張っているおかげで、サンバロは丘地から出て来られない。内陸の部族はみんな、そのことを知っている。だから、ウルの取り決めに、従わない部族はないんだ。」
と、ウルが周辺の部族から一目置かれている理由を説明しました。
「ウルのところに行くつもりじゃないだろうな。」
ダンケルがこわごわたずねると、タダニは、
「まさか。うんと北寄りに進むさ。それに、ここから先の北側の土地には水源がないから、領地を通ってもどの部族もきつくとがめないからね。」と答えました。
馬を進めるうちに、砂や砂利ばかりだった土地は、しだいに赤茶けたごろ石や大きな岩石が目立つようになって来ました。そして、日が暮れかかる頃、タダニは「谷地の入り口だ。」と言って、ゆるやかな傾斜の先に、薄暗い森のようなものが見える場所で、ブーの歩みを止めました。そこで三人は、へとへとに疲れた体を大きな岩の根方に横たえて一夜を明かしました。
翌朝、タダニはまだ薄暗いうちに、ダンケルとマイネを揺り起こすと、干し肉の食事も早々に切り上げて、馬とブーを連れた徒歩で、慌ただしく谷地を下りはじめました。
ダンケルとマイネには、タダニが焦っているのが分かりましたが、その理由を問いただすことは、なぜかためらわれるようで、黙って後について行くことにしました。
谷地は岩でできた森のような、複雑な地形をしていて、たしかに、慣れない者が迷い込むと、目的の方角に抜け出すことも容易ではなさそうでした。
大きな岩の角を曲がると、その先は二間も落ち込んだ断崖だったりするので、馬を連れたダンケルとマイネは、何度もひやりとさせられましたが、タダニは立ち止まって考えたりせずに、すいすいと道を選んで進みました。それが、もともとこの土地に詳しいからなのか、それとも予知の力によるものなのか、ダンケルたちにも分かりませんでしたし、また、それを聞く事を許さないほど、タダニは憑りつかれたように道を選ぶことに集中していました。
そして、少し開けた場所に出た時、タダニは行く手の小高い丘の上に、身をかがめて立つ男の姿を見つけると、「ウル!うしろだ!」といきなり叫びました。
その男の背後には、熊のように大きなきはだ色の獣が、今にも男に飛びかかろうと、身を低くしてしのび寄っている所でした。
男は体勢を崩しながら後ろに飛びのいて、獣に追い落とされる形で、丘の向こうの崖に落ちて姿が見えなくなりました。
獣は少しの間崖下を見下ろしてから、こちらを振り向いて太い牙をむき出しにしてうなりました。
「サ、サ、サ、サンバロだ!」
ダンケルとマイネが同時に叫んで、タダニを抱えると、馬も荷も置いて逃げ出しました。

つづく


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 早くもゴールデンウィークですねぇ。お出かけの予定を組んでいる人が多いのかな。私は出不精なので、一念発起して図書館に行くくらいが関の山です。
きょうは、ちょっと久しぶりになりましたが、ファンタジー小説、『魔法使いサキの物語』の、第11章・第7話を書き進めたので、ご紹介します。

前回のあらすじ
サキを追って旅を続ける元魔法庁の役人ダンケルとマイネは、マヒャライ族の少年タダニの案内で、少数部族が領地を分け合って暮らすシェルの内陸側を横断する事になりました。


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魔法使いサキの物語 第11章・第7話 『本当の追手』

翌日、三人がたずねたコンバ族は、他部族との交流を極力避けて暮らす、誇り高い戦士の部族でした。
タダニもこの部族には知り合いがいないという事で、「ともかく、失礼がないようにしなきゃいけない。命が惜しければね。」と、二人によく言い聞かせました。
ところが、集落に入ると、三人は挨拶もしないうちに、槍を持った数人の男に、低い声で追い立てられて、広場の祭壇に座った、白髪を長く垂らした族長の前に平伏させられました。
族長は杖でタダニをつつきながら、「お前は厄災を連れてきた。我らの誇りと土地を荒した報いを受けさせる。」と、乾いた声で言いました。
「何の事だかわからないよ。この人たちなら、これから良い行ないをするために旅をしているんだ。」
タダニがふるえながら答えると、族長は、
「いいや。お前は分かっている。白い影が神像を奪い去り、北の泉を枯らしてしまった。お前が連れてきた厄災の仕業だ。」と言って、いきなりタダニの背中を、振り上げた杖でひっぱたきました。
ダンケルが怒って身を起こそうとしましたが、タダニがそれを制して、
「神像はこの人たちが必ず取り戻すよ。代わりの泉も俺の部族がきっと見つけるから。ね、それで許しておくれ。」と族長に深々と頭を下げました。
「だめだ。神像は取り戻せないほど遠くに持ち去られた。北の泉は枯れない泉として我らが祈りを捧げる場所だったのだ。お前たちは今この場で裁かなければならない。」
取り囲んだ男たちが槍の柄の尻で地面を叩きながら口々に奇声を発し、その叫びが最高潮に達した時、タダニの横に立っていた背の高い男が、おもむろに逆手にかざした槍を、タダニの背中めがけて真っすぐに振り下ろそうとしました。
「ピ------ッ!」
不意に、透き通った笛の音が響き渡り、男たちは雷に打たれたように身をこわばらせると、やがていっせいに腕をかかげ足を振り上げ、こっけいな踊りを舞い始めました。
タダニが顔を上げると、マイネが笛を吹き鳴らしながら、タダニに目配せをして、後ずさっているのが見えました。
あっけにとられたタダニを、ダンケルが引き起こすと、彼らは輪になり踊りまわる男たちの間をくぐり抜けて、広場の外れにつながれていた馬とブーに飛び乗って集落から逃げ出しました。
タダニは脚の遅いブーを急かして駆けさせながら、
「マイネをおいて行くの?」とダンケルに聞きました。
「笛の魔法は、届く範囲が限られているんだ。だから、マイネは俺たちが十分逃げた頃合いを見計らって脱出するつもりなのさ。」
ダンケルの言うとおり、二人がコンバ族の領地の西の端に差し掛かったころ、マイネは馬を駆けさせて追いつきました。
タダニは、コンバ族を怒らせたことに気をもんでいて、「放っておくと、おれの部族に手を出すかもしれないから、南のガリリ族のウルという戦士に相談しに行こう。彼は一帯の部族に一目置かれているから、事情を話せば、コンバ族をとりなしてくれるかもしれない。」と言いました。
ダンケルとマイネは、彼に従うことにしましたが、マイネは馬を進めながら、
「君が以前言っていた、『僕らにかかった追手』というのは、革命軍の連中のことじゃないんだね。」と聞きました。
タダニはぶるっと身震いをして、
「お前たちを追っているのは、コンバ族の族長が言っていた“白い影”さ。」
と答えて、「そいつは、今でも俺たちを見はっているんだ。そして、お前たちを自分の望む道へ誘い込むために、周りの人たちの行動を操っているんだ。」
と、消え入るような声でつぶやきました。

つづく



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笛の魔法で難を逃れる三人




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