クリスマスが近いという事で、今日はそれにちなんだ短編の小説を発表します。
タイトルは、『物語が書けなくなったマヤさん』です。
この作品は、実は1年前の2015年のクリスマスに書き上げていた作品なんですが、『ペンギンのアッチシリーズ』(クリスマスだけに発表していた童話シリーズ)の2作目も同時に書き上がったので、2015年はそちらを公開することにして、『物語が~』の方は、一年の保存期間をおいて、いよいよ2016年の今日、皆さんにお披露目できる運びとなりました。
創作を趣味にしている人なら、誰もが一度は経験したことのある嫌~な期間、それが“スランプ(低迷期)”です。
スランプを乗り越えるには、どうすればいいか。
この作品には、私の経験も踏まえた、その方法が書いてあります。

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物語が書けなくなったマヤさん

マヤさんは、今朝からもう幾度も、あっちの部屋からこっちの部屋へと、行ったり来たりしていました。
マヤさんは、物語を書くのが仕事なのですが、その肝心の物語が、今日はちっとも、思い浮かばないのです。
こんなに発想が湧かなくなったのは、二十何年もこの仕事をしてきて、はじめてでした。
「すっかり物語が出尽くしてしまって、すっからかんになったのか。しかし、今日の夕方には、編集者のコツガイさんが原稿を取りに来る。何かひねり出さなくちゃならんよ。」
マヤさんは、居間にあった本や雑誌や新聞を、手当たり次第に読んでみたり、とっておきのレコードをかけてみたり、ふだん飲まない、とびきり苦いコーヒーを、顔をしかめて飲んでみたりしましたが、浮かんできたのは、猫のモリーの爪を、そろそろ切ってやらないといけないな、という用事だけでした。
「いよいよ困ったぞ。いつもなら、もうけっこうというくらい、次々とアイデアが浮かんでくるんだが。」
こんなことを考えながら、マヤさんは、上の空でモリーの爪を切るものですから、モリーは気が気でなくて、とうとう「ふにゃー!」と鳴くと、マヤさんのひざの上から、ひとっ飛びで、逃げ出してしまいました。
マヤさんは、「爪切り・・・もとい、締め切りの事ばかり考えるから、かえっていかんのだ。他の事に熱中して、締め切りを忘れてるくらいの方が、かえってすんなり良いアイデアが出るかもしれないよ。」と思って、先週やりかけにしておいた、客間の本棚の組み立てに取り掛かることにしました。
先週は、図面通りにねじが入らないので腹を立ててやめてしまったのですが、今日はすんなり入るので、「あの日は雨だったからな。湿気が邪魔をしたのだ。」と、ひとりごちながら、機嫌よく組み立てを進めました。(本当は、先週組み立てようとした時は、たて板が上下逆さまだったので、ねじが入らなかっただけです。)
やがて、ねじがすっかり取りつけられた本棚ができ上がると、マヤさんは、部屋のすみに積んだ本や雑誌を一束ずつ棚の前に運んで来て、一冊ずつ内容をあらためて、読みふけりそうになるたびに、あわてて本をとじながら、考え考え、棚の各段に並べて行きました。そして、「上の段と下の段には、めったに手に取らない本を、まん中の段には、しょっちゅう手に取る本を並べる。これが、整頓家に言わせると、賢い整頓術なのだそうだ。だけど、私の場合、手に取ったら、後ですっかり読んでしまおうと思って、とりあえずまん中の段に置くだろうから、だんだんみんな、まん中の段に集まって来てしまうような気がするんだが。」と、こんなことを考えながら、種類や大きさごとに、時間をかけて、念入りに並べて行きました。
そして、気に入った感じに整頓がすむと、後ろの窓際まで下がり、すっかり本で埋まった本棚を満足そうにながめてから、祝杯をあげようと、初夏に浸けておいた梅酒を取りに、軽い足取りでキッチンへ向かいました。
すると廊下で、キッチンの窓辺で日向ぼっこをし終えたモリーと、鉢合わせしました。でもモリーは、さっきマヤさんから、上の空で爪を切られたことを、根に持っていたので、「ふにゃー!」と不機嫌そうに叫ぶと、きびすを返して、もと居たキッチンへ、逃げ込んでしまいました。
その、モリーの去りぎわの、仏頂づらを見た時に、マヤさんは、「あっ!締め切り!」と言って、すっかり原稿のことを忘れていたことを、思い出しました。
マヤさんは、腕組みをして、肩をすくめると、
「やれやれ、我ながら、よくここまでうまく忘れられたものだ。しかし、もしこのまま、原稿のことを思い出せずにすごしていたら、夕方になって、編集者のコツガイさんがやってきた時に思い出す、という事になっていたぞ。そうしたら、コツガイさんからあきれられたな。」
マヤさんはしかたなく、今朝と同じように、あっちの部屋からこっちの部屋へ、あてもなく、行ったり来たりしはじめました。でも、物語を書けそうな方法は、今朝からみんな試してしまったので、他に何をしたらいいのかなんて、いくら考えても、浮かんで来るはずもないのでした。
すると、玄関のそばを通りかかったところで、待っていたように呼び鈴が鳴ったので、マヤさんは飛び上がるほどびっくりしました。でも、壁かけ時計を見て、まだコツガイさんが来るには早過ぎると分かったので、誰だろうと思いながら、こっそり扉を開けてみました。すると、そこにはお隣のウニさんが、なにやら美味しそうな物をたくさん詰めたバスケットを抱えて、にこにこ笑って、立っていました。
「なんだ、ウニさんか。」
「なんだとはご挨拶だね。他にもお客さんがあるの?」
そこでマヤさんは、今朝からのことを話して、どうにもなりそうにないが、どうしたものだろうか、と相談しました。
ウニさんはマヤさんの話を聞き終えると、頬に手を当てて、しばらく考えてから、
「それなら、今日が、どんな一日だったか、書いたらいいじゃないの。」
と言いました。
マヤさんは、きょとんとしていましたが、やがて、「おや、そういえば、そうだね!」と言って、さっそく書斎に駆け戻って、机に向かいました。
するとどうやら、これまでのすったもんだがうそのように、すらすらと書き進めることができるのでした。
「ウニさんの言葉は、まるで魔法みたいだ!」

その日の夕方、コツガイさんが原稿を受け取って、上機嫌で帰った後で、マヤさんとウニさんは、キッチンのテーブルで、ウニさんが持参したローストターキーと、マヤさんが大好きなトマトたっぷりのロールキャベツと、きゅうりと大根とトビウオの酢の物をそれぞれ取り分けて、マヤさんの自家製の梅酒で乾杯をしました。(モリーは、ウニさんから好物のささみがもらえたので、いっぺんに機嫌が直りました。)
「ところで、どうして今日は、こんなご馳走を持って来てくれたの?」
マヤさんがローストターキーをほおばりながら聞くと、ウニさんはあきれて、
「なに言ってんの。今日はクリスマス・パーティーをしようと、一週間も前から約束してたんじゃないの!」
と言いました。
「あっ、そうだった!」
そうです。マヤさんは、ウニさんとのクリスマス・パーティーの約束も、今日がクリスマス・イブだった、という事も、ここへ来てようやく、思い出すことができた、というわけです。


おしまい


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クリスマスの小説 読み切り短編 『物語が書けなくなったマヤさん』|Kobitoのお絵描きブログ