きょうは、ファンタジー小説、『魔法使いサキの物語』の第11章・第9話を書き進めてみたので公開します。

前回のあらすじ
大岩が林立する入り組んだ谷地を通って西の大国ナーグリアを目指していたダンケル、マイネ、タダニの一行でしたが、タダニの案内にしたがって谷地を進んだその先には、『いやしい心の者をおそう』というどう猛な獣、サンバロの姿があったのです・・・。



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魔法使いサキの物語 第11章・第9話 『追う者と追われる者』

大岩や岩壁のすき間を通って、ただやみくもに逃げたので、間もなく、ダンケルにもマイネにも、自分たちがどちらへ向かっているのかさえ分からなくなりました。
さらに悪い事には、タダニが、「ブーをおいて行かないで!」と言って、二人の腕からもがいて逃れると、もと来た方へ走って行ってしまったので、二人は「もどってこい!」と叫びながら、彼を追いかけなければならなくなりました。
しかも、追い始めてすぐの、大岩のせまいすき間で、体格のいいダンケルが行き詰まってしまったので、通り抜けることができたマイネが、「別の道を探してきて!」と言い残して、一人でタダニを追う事になりました。
マイネは足音をたどる魔法を唱えて、タダニの進んだ方角が分かると、その斜面を勢いよく下って行きましたが、不意に頭上に気配を感じて、凍り付いたように体をこわばらせると、ゆっくり振り返って背後の大岩を見上げました。
そこには金色の目をぎらぎら光らせたサンバロが、大蛇のように静かなうなり声を発しながら、マイネをじっと見下ろしていたのです。
マイネはとっさに笛を取り出して、聴いた者が躍り出さずにはいられない魔法の旋律を奏でました。
サンバロは身構えたまま、じっとその音色に聴き入っていましたが、やがて上体を起こすと、まるで酔ったように、頭を前後左右にゆらしはじめました。マイネは手ごたえを感じて、いっそう高らかに笛を響かせましたが、サンバロは、それをあざけるように、ゆっくり体勢を低くすると、両目をいっそうらんらんと光らせながら、マイネを凝視して、大岩を一脚ずつ下りはじめました。
マイネは別の魔法を唱えなければと焦りましたが、なぜか体は、石のように固まって、サンバロの燃える目をじっと見続けてしまうのでした。
突然、サンバロが表情を変え、横を向きました。すると、斜面を駆け上がるように、激しい突風が吹き抜けて、サンバロはその砂利交じりの風をまともに顔に受けると、目をつぶってどう猛な叫びをあげて、大岩の頂上に退いて行きました。
マイネは急に体が動くようになったので、その場をよろめきながら逃げ出して、誰が助けてくれたのかと、斜面の下の方を見やりました。すると、そこにはマイネの乗って来たあの栗毛の馬が、まるでこっちへ来いとでも言うように、激しくいななきながら、首をめぐらせて走り去って行くところでした。
マイネは斜面を下りきると、馬が去って行った方へさらに走って、階段状の岩棚を、息せき切って一足飛びにかけ下って行きました。
すると、谷地の底の方で、確かにタダニらしい、かん高い叫び声があがりました。マイネは岩棚から谷底の砂地へ走り出ると、その光景を目にして、声にならない悲鳴を上げて立ち尽くしました。
ぐったりしたタダニを口にくわえて、サンバロが大岩に体を寄りかからせて、うつろな目でこちらを見ていたのです。
サンバロはタダニを脚もとに下ろすと、あえぐようにあけた口から、血の混じったよだれをしたたらして、頭を巡らせ、体を引きずるように、大岩の後ろへ歩いて行きました。
そして、岩陰に半分体を隠したところで、どさりと重い音をさせて、砂地に横ざまに倒れ込みました。
すると、サンバロが倒れた岩陰から、一人の、槍を持った背の高い男が現れました。
それは、サンバロに追われて崖から落ちたはずの、あの、ウルという腰巻き姿の男でした。
ウルは倒れたタダニのそばにしゃがむと、そっと首に手を当てて、脈をとってから、マイネを見上げて言いました。
「生きている。」
マイネはほっとして、タダニに駆け寄りました。タダニは血で汚れていましたが、どうやらそれはサンバロの血らしく、タダニ自身は、肩に浅い切り傷があったものの、気を失っているだけのようでした。
マイネは念のために、サンバロの倒れた岩陰を確かめて、ぎょっとしました。そこにサンバロの姿はなく、代わりに、誰だかわからない、人間の大人の男が、はだかで倒れていたのです。
マイネはその男もサンバロにやられたのだと思って、「サンバロも生きてるよ!」と震え声でウルに伝えましたが、ウルは首を横に振ると、「これがサンバロだ。」と、その倒れた男を、じっと見おろして言いました。
マイネは、あまりにおかしな事ばかり起こるので、悪い夢でも見ているような気がしました。
でも、ともかく、サンバロはもういないらしいのです。それは、何にしても、ありがたいことでした。

つづく



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