今回は、一話完結の、少し怖い童話を書いてみたのでご紹介します。

これは4年前に起きた福島第一原子力発電所の過酷事故がもたらした、忘れてはならない教訓を示すための物語です。

今でも、原発事故の収束作業は続いており、今後何十年かかるか、上手く収束できるのかさえも分からない状況です。
ひとたび事故を起こせば、国も電力会社の幹部も原発を受け入れた地方自治体も、責任を取ることなど到底できない規模の放射性物質による汚染を引き起こし、しかも発電で生じた放射性廃棄物は地中に貯蔵するほかなく、その廃棄物の受け入れ先すら決まっていないという無責任な発電方法は、特に、地震、津波、火山、台風といった自然災害の多い国日本では、直ちに放棄するべきだと私は考えます。

なお、物語に出てくる「鈾石(ちゅうせき)」の“鈾”は、放射性元素のウランを表す漢字です。

では、描き下ろした挿絵の下から、物語をお楽しみ下さい。


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「世界のへそを取った男」

ある男が大変な苦労をして、プルシオンの密林の奥地で、この世にまたとない宝物を見付けました。
それは大きな菩提樹の根の股に、ちょうど収まるようにはまっている、人のこぶし大もある、プルテウ河のように透き通った鈾石(ちゅうせき)でした。
男は背嚢(はいのう=リュックサック)を下ろして、中からハンマーとたがねを取り出すと、ためつすがめつその鈾石を調べて、「混じりけのない純粋な結晶だ。この瑞々(みずみず)しさを見ろ。まるで内から輝くようだ。」と、興奮気味につぶやきました。
すると、背後から、
「それを取ってはならん。」
と声をかけた者があったので、男は不意を突かれて飛び上がるほど驚きました。
振り返ると、それは荒い麻布一枚を腰に巻いた、白髪と白ひげを長く伸ばした、やせて背の高い修行僧のような老人でした。
「それは世界のへそだから、取ったら大変なことになるぞ。」
老人がさらに言うので、男は
「どうなるというんです。」
と、たずねました。老人は鈾石のある木の股を指さして、
「世界がへその穴に吸い込まれて、何もかも消えてしまうのだ。」
と答えました。
男は笑って、
『そんなおかしなことがあってたまるか。こいつは俺と同じで、この鈾石を長い間探し回って来た男なのだろう。だから、すんでのところで俺に鈾石を取られたくないばっかりに、こんないいかげんなうそをつくのだ。』と思いました。
すると、老人はまるでその声が聞こえたかのように、首を横に振って言いました。
「これはお前のためを思って言っているのだ。よいか、もしこの世界もろとも自分が消えてしまいたくないのなら、そのへそを決して取ってはならぬぞ。」
「じいさんそりゃ下らない迷信さ。それに、俺は大臣にも森の民の長にもすっかり話を付けてあるのだ。あんたにとやこう言われる筋合いはないよ。」
男は老人に背を向けて、菩提樹の根に腰かけると、根と鈾石の間にたがねを差し込んで、迷わずハンマーを振り下ろしました。
うっそうとした木立に、きいんと乾いた音が鳴り響きました。
念のために男が振り返ると、いつの間に立ち去ったのか、老人の姿はどこにも見当たらなくなっていました。
森はしんと静まり返り、男のする事を、すべての生き物が、かたずをのんで見守っているようにも思われました。
男はいっこう平気で、力強くたがねを打ち続けました。菩提樹の根は削られて、しだいに鈾石の付いた岩石があらわになって来ました。
ふいにがくんとたがねが緩んだので、男は両手でしっかり鈾石をつかむと、そろりそろりと菩提樹の根の間から取り外しました。
鈾石が外れた岩石には、どこまで続くか分からない、真っ暗な縦穴が深々と開いていました。そして、その穴の底から、風音と共に、埃(ほこり)っぽい熱気が勢いよく立ち上り、のぞき込んでいた男の顔に吹き付けました。
すると、にわかに、男の世界は真っ暗になりました。
それは男の魂が、世界のへそに吸い込まれたからでした。
力なく菩提樹にもたれた男の手から鈾石がこぼれて根と根の間に転げ落ちました。
森はあいかわらずしんとして、あの老人が現れる事も、もう二度とないようでした。


おしまい


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原発事故の教訓童話「世界のへそを取った男」|Kobitoのお絵描きブログ