こんにちは。
きょうは、『魔法使いサキの物語』の、第9章第6話を書き進めてみます。
内容は、カイザールがサキに物語る、カン・ソクの冒険譚の完結編です。
挿絵は、今まで部分的に公開してきましたが、これが全体図です。
ぼんやりと薄い絵なので、何が描いてあるか分かりづらいかと思いますが、空を飛び火を吐く竜に、カン・ソクが弓を持って立ち向かう様子が描かれています。

それでは、さっそく絵の下から、お話の続きをお楽しみ下さい。

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ーカイザールが物語るー
ブリーズ海の暴れ竜を退治した魔法使い 後篇2(完結)

翌日、サズメ王は兵士に命じてイヅミの生い立ちを村中に尋ね回らせました。その結果、イヅミは先祖代々この村で暮らしている一族の者であり、たいていの村人がイヅミを子供の頃から知っている、という事が分かりました。
さらに、兵士はバザムについても調べましたが、彼は他所から移り住んだ男で、詳しい素性を知っている者は、村に一人もいないと分かりました。
一方で、竜退治の準備は着々と進み、村の各所には丸太を組んだ頑丈な塀や、弓を射るための大きな高見やぐらが立てられました。さらに、浜から村の中心にかけての開けた場所には、民家が一軒入りそうなほど大きな落とし穴がいくつも作られました。(サズメ王はこの落とし穴を利用して、あわよくば、竜を生け捕りにして、王宮に持ち帰ろうと考えていたのです。)
やがて、霧でぼんやりかすんでいた太陽が、消え入るように水平線の向こうに暮れて行きますと、その霧がしだいしだいに濃くなって、夕焼けの残照がすっかりなくなる頃には、村中三尺先も見通せないようなまっくら闇に包まれてしまいました。
塀の陰に隠れた槍兵たちや、やぐらの上の弓兵たちは、露ですっかり衣服や武具を湿らせながら、竜が現れるのを固唾をのんで待ち構えていたのですが、この霧の甘いこと、涼やかなことに気持ちが緩んできて、ついうつらうつらとするうちに、とうとう仲間にもたれて眠り込んでしまう者まで出てきました。
その眠りは、ツムの村に居る者全体に広がって、やがては村人たちや兵士たち、司令官やサズメ王も含めて、一人残らず、夢も見ない深い眠りに落ちてしまいました。
ほどなく、ブリーズ海の沖の方から、生ぬるい風が吹き、ギシギシという気味の悪い羽音が、ツムの村に近づいてきました。
その羽音は、海岸の高い崖の上まで来たところで留まって、大きな獣がうなるような低い声で、
「今夜が最後だ。お前が契約を果たさないなら、俺はこの村を草一本生えないほど焼き尽くすだろう。」
と言いました。
崖の上には、一人の女が立っていて、羽音の方に向かってこう叫びました。
「バザム!私が分かって?あなたの妻のイヅミよ!」
イヅミは、ギンバースの伝統衣装のサラージェを身に着けて、地面に膝をつくと、拝むように両手を胸で握ってこう続けました。
「私が悪かったのよ!あなたを利用して、父を守ろうとするなんて、間違っていたわ。どうか、私のところに戻ってきて!」
「無駄だ。バザムは俺に魂をさし出し、俺の一部となっている。そして、お前は今度は三法者の書を、約束通り俺にさし出さなければならない。」
霧の中から、三本指の鳥の脚のようなものが伸びて、イヅミを捕まえようとしました。
その時、「お前はまだバザムとの契約下にあるはずだ。イヅミに手を出せばただでは済まぬぞ。」
と言って、イヅミを守るように立ちはだかったのは、まばゆい光に包まれた弓を携えたカン・ソクでした。
カン・ソクは光の弓を高々と掲げて、分厚い霧を照らすと、水平に線を引くように左右に振りました。すると、霧はかき乱されたように真っ二つに裂け、そこから明るい月の光がぼんやりと透けて見えました。
カン・ソクは晴れかかった霧に向かって、大声で呼びかけました。
「竜よ。三法者の書のありかを知りたければ、私と魔法で勝負しろ。」
すると、霧の裂け目の中から、にわかに竜が姿を現しました。長い首、ワニのような頭、そして五間ほどもある大きな体は、銀色に光る分厚いうろこでびっしりと被われ、体のさらに何倍も大きな翼が、激しく空を打ってはあたりに嵐のような突風を巻き起こしていました。
竜はひび割れた地鳴りのような低い声で言いました。
「カン・ソクよ。お前ごときの魔法の力で、この俺の魔力を征することができると思っているのか。」
「もちろんだ。私はお前がなぜ三法者の書を欲しているか知っているのだからな。」
竜は一瞬ひるんだように見えましたが、大口を開けると真っ赤な炎をカン・ソクに向かって吐きかけました。
カン・ソクはそれを光の弓で払いのけると、素早く光の矢をつがえて、竜に向けて引き絞りました。
地面にひれ伏したイヅミが、竜を見あげて叫びました。
「バザム!もういいのよ。あなただけでも生き延びて!」
竜は火を吐き続けながら、早口の金切り声で叫びました。
「俺を殺せばバザムの命もないぞ!」
「そんなことにはならないさ。」
カン・ソクは微動だにせず狙いを定め、弦から光の粒をいっせいに散らしながら矢を放ちました。
矢はまっすぐ飛んで竜の胸に突き立ち、悲鳴を上げた竜は、あぶくを吐きながら崩れ落ちるように海に落下して行きました。
イヅミは悲嘆にくれて泣き伏しました。
カン・ソクはイヅミを支え起こすと、
「あきらめるのはまだ早い。」
と励ましながら、いっしょに崖を下りて行きました。
霧がずいぶん晴れたので、あたりはすっかり明るくなり、岩場も凪(な)いだ海も、遠くまで青白く見渡すことができました。
イヅミは岩場から少し離れた水面に、人影が漂っているのを見つけると、我を忘れて海に飛び込み、一心に泳いでそちらに近づいて行きました。
浮かんでいたのは、バザムと、彼に抱えられたヨナ王でした。
イヅミは二人をつかんで岸辺まで戻ると、カン・ソクに助けられて岩場に二人を引き上げました。
バザムは引き上げられるとすぐに、口から水を吐きましたが、その中には真珠のような、白く光る小さな玉が混じっていました。
カン・ソクが玉を拾うと、それは粉々に砕けて、中から大きな分厚い一冊の書物が飛び出して来ました。これこそが、竜が是が非でも欲しがっていた三法者の書でした。
バザムはこの三法者の書を、魔法で小さくして自分の体の中に隠していたのです。そして、それを竜に悟らせないために、自分やイヅミの記憶を消し去り、自ら竜に呑まれるという離れ業をやってのけたのでした。
カン・ソクは三法者の書を懐(ふところ)にしまうと、
「私は、ヨナ王とバザム、二つの魂を再び二つに分かつ境目を射ぬいたのです。二つの魂をつないでいた竜の心は、そのはざまで引き裂かれて消え去りました。」
と言って、イヅミが介抱するヨナ王の首に下がったネックレスを外して、イヅミに見せました。
ネックレスに使われていた蒼玉は、かつての幻惑するような輝きを失って、真っ二つに割れたただの石ころになっていました。
イヅミはバザムもヨナ王も生きていることが分かると、涙を流してカン・ソクに頭を下げました。

翌朝、目を覚ましたサズメ王は、昨夜の出来事をカン・ソクから聞いて、実際に自分の目でその決闘を見られなかったことをたいそう悔しがりました。また、正気を取り戻したヨナ王と面会し、あらためてイヅミとバザムを紹介されたサズメ王は、ヨナ王の命を救った二人の献身ぶりを大いに賞賛し、ヨナ王に対して、「身分は違えど、これほど愛し合っている二人を、よもや再び分かつようなまねは致しますまいな。」と尋ねました。
ヨナ王は二度うなずき、「わしの王国が委ねられるとすれば、この男をおいて他にはない。」と言って、バザムとイヅミの手を取り、バザムには共にギンバースへ戻って王位を継いでほしいとさえ伝えました。
バザムはとまどいましたが、イヅミの求めもあって、その申し出に応じる事にしました。
ギンバースに帰国後、ヨナ王は無理がたたって病の床に伏し、バザムがヨナ王の指名を受けて、あわただしく王位に就く事になりました。
そして、バザムとイヅミの結婚式は、先王の臨席の下で盛大に執り行われ、二人は晴れて、国中が認める夫婦となることができたというわけです。

つまりはこれが、今日では良王として名を残しているバザムが、王妃のイヅミと共に、ギンバースを治める事になった本当のいきさつなのです。


(カイザールが物語った竜退治の話はこれで完結です。)
つづく



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