今日は、「魔法使いサキの物語」の、第14章・第3話を書き進めてみます。

交易船コメッサ号の三等船室の乗客となり、やっと人心地(ひとごこち)つけてシンギ半島を目指すサキ達一行でしたが、レカに声をかけた二等船室の怪しい二人組が、ナーグリアの審問官の手下ではないかという、新たな心配が、サキ達を悩ませるのでした。


魔法使いサキの物語
第14章・第3話「レカが居ない!」

カイザールが調合した船酔いの薬を飲み続けたおかげで、ホピンは次第に食欲が出て来て、一週間もすると、自分で体を起こせるまでに回復してきました。
その間、レカはカイザールから薬(作り立てほど効果が高い酔い止め)をもらうために、女用と男用の船室を何度か行き来しましたが、二等船室へ上がる階段には、いつもジル・ギエムが立っていて、あの大きな釣り目で、速足で通り過ぎようとするレカを見おろしながら、「また男の所に行くのかい。何か入用なものでもあるのかい。」と、薄ら笑いを浮かべながら問いかけてくるのでした。レカはそちらを極力見ないようにしていましたが、自分たちがお尋ね者の魔法使いの一行であることは、とうに見透かされているように思われて仕方がないのでした。
その日も、レカは用心深く階段の方を見ないようにして、男用の三等船室に向かいましたが、ふと、人の気配がない事に気が付いて、横目でちらっと確認すると、いつも必ず階段の中ほどに立っていたジル・ギエムの姿が、今日はどこにも見当たりませんでした。
レカはなんだか拍子抜けしたような気持ちで、男用の船室に行くと、いつものように、カイザールから酔い止めの薬を受け取って、「今日は珍しく、ジル・ギエムがいなかったわ。」と報告すると、「引き続き用心するように。」とのカイザールの忠告にうなずいて、女用の三等船室に戻って行きました。
それから、ほどなくして、男用の船室に、今度はサキがやって来て、カイザールを廊下に呼び出すと、「レカが戻らないのよ。」と、小声で相談しました。
カイザールは、レカが話していたことをサキに伝えて、「奴らいよいよ、行動に出たのかもしれん。手伝ってくれ。」と言うと、サキと一緒に二等船室へ上がる階段のたもとに行きました。
「以前聴かせた音を覚えているな。それが聞こえたら、そっちへ走るんだ。」
サキはカイザールにうながされて、呪文を唱えながら耳を澄ましました。船体のきしみや波の音、三等船室の乗客たちの話し声が次第に静かになって、サキの耳に聴こえているのは、低くこもった自分の鼓動の音と、ゆっくりと吸っては吐かれる自分の呼吸の音だけになりました。
やがて、遠くの方から、「ピーッ。」という笛のような細い音がかすかに聴こえました。それは、上階の、二等船室のずっと奥の方から聴こえて来たようでした。
サキは階段を駆け上って、廊下に出ると、感覚を頼りに、その音がしたと思われる、突き当りの部屋の前まで猛然と走って行きました。
ドアには内側からかんぬきが下ろされていましたが、サキはすき間からU字型の鉄の棒を差し込んで、それを揺さぶっただけで、いとも簡単にかんぬきを外してドアを開け放ちました。
部屋の中ほどには、ジル・ギエムと、のっぽの眼鏡の男が立っていて、奥の壁際の椅子には、不安げなレカが座らされていました。
「おやおや。自分から乗り込んで来てくれるとは都合がいい。」
ジル・ギエムは、そう言うと、サキが部屋に入って来るのを待ってから、手をかざして呪文を唱え、ドアを閉めました。
サキは、眼鏡の男が手に持っているワイングラスを見て、体をこわばらせました。グラスに半分ほど注がれて揺れている鮮やかな青い液体からは、おぼろな青い炎がゆらゆらと立ち上っていたからです。
「レカを返して。」
サキが一呼吸おいてから言うと、ジルは意に介さず、
「お前がサキというのだな。」
とたずねました。
サキがレカの方へ踏み出そうとすると、眼鏡の男がグラスの炎をサキの方にさし出したので、サキは足がすくんで動けなくなりました。どうやら、眼鏡の男は、サキの様子を見て、炎を怖がっていることを、早くも察したようでした。
ジルは薄ら笑いを浮かべながら、
「安心しな。抵抗さえしなければ、乱暴な事をするつもりはないんでね。あたし達は、あんたと話がしたかったのさ。」
サキは、ジルがどうしてそんな事を言うのか、分からなかったので、
「あなたたちは、ナーグリアの審問官の手下ではないの?」
と聞きました。
「いかにも、あたし達は審問官の手下さ。でもね、それだけじゃないんだ。知っているかい。フラトで魔法使いが蜂起して、革命が起きた事を。」
サキがうなずくと、ジルは続けました。
「あたし達は、その魔法使いたちが興した新生フラトの、シンパでもあるのさ。だから、あんた達が協力的なら、ナーグリアに引き渡すようなことはしないよ。」
サキは、半信半疑でした。表向きそう言っておいて、実際はナーグリアに連れ戻そうとしているかもしれないからです。
「じゃあ、どうして私たちを追ってきて、レカを連れ去ったりするの。」
「新生フラトの指導者から、伝書が届いてね。あんたから、譲り受けたいものがあると。それは、新生フラトが、理想の国家を世界に広めるために、どうしても必要なものなんだ。」
サキがけげんそうな顔をしているので、ジルは愛想笑いの奥で観察するように見据えながら、
「『三法者の書』さ。あらゆる魔法が記されていると言われる、伝説の書。あんたは、それをフラトの魔法庁長官スナクフから預かっているはずだ。」と言いました。
「そんなもの、預かっていないわ。」
「あんたが気が付いていないだけで、スナクフはこっそりあんたに預けたかもしれないんだ。それを、あたし達が見つけるのは、困難かもしれない。だから、あたし達は、あんたを新生フラトの指導者の所まで連れて行かなきゃいけないんだ。」
「いやよ。『三法者の書』を持っているなら、あなた達にあげるわ。でも、私は持っていない。スナクフ様から預かったものなんて、何もないんだから。」
「それを確かめるのは、新生フラトの指導者さ。あんたが今ここで、『三法者の書』を渡せないなら、あたし達について来るしかないんだ。」
「いや。ついて行く必要はない。」
男の声で、誰かがこう言ったので、ジルは眼鏡の男を振り返りました。眼鏡の男はうつろな表情で、天井を見上げていましたが、やがてガクリと床に膝をついて、前のめりに倒れ込みました。眼鏡の男の立っていた場所には、いつの間にか、カイザールが、炎の立ち上るワイングラスを片手に持って、冷徹な表情でジルを見おろしていました。

つづく

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