きょうは、久しぶりに、ファンタジー小説、『魔法使いサキの物語』の、第14章・第2話を書き進めてみます。
切りの良いところまで書いたら、けっこう長い文章になりました。
新たに登場した人物の挿絵共々、楽しんで頂けると嬉しいです。


-------------------------------

魔法使いサキの物語
第14章・第2話「二等船室の怪しい二人」

コメッサ号は、大まかに分けて居住層三、貨物層一の、四層からなる構造の船でした。甲板の直下は一等船室で、高級役人や裕福な商人などが利用するため、個室の内装も豪華で、食事は船上で用意できる最上のもの、身の回りの世話は専属の給仕が行うなど、高額な船賃に見合うだけの行き届いた待遇を受ける事ができました。
下の階は下級の文官や武官などが利用する二等船室で、奥に長いせまい部屋に二段ベッドが通路を挟んで置かれ、四人が寝起きする事ができる、簡素な相部屋になっていました。食事は干し魚や塩漬けの野菜などが出されました。
その下が三等船室で、天井の低い物置のようながらんどうの空間に、主に移民や出稼ぎ労働者など、貧しい階級の人々が、男女の部屋に分けられて、詰め込まれるように雑魚寝をする場所になっていました。食事は毎日、固いビスケットと炒った豆と、少量の真水だけでした。
コメッサ号が交易船でありながら、多くの乗客を運べる作りになっているのは、ナーグリアの奴隷商人に買われた、シンギ半島の奴隷たちの運搬も行なっていたからです。つまり、半島から出航する際には、特に三等船室の客層が、がらりと変わることになったという事です。
乗員乗客二百名、積載量九百トンという、ナーグリアで最大の帆船でしたから、シンギ湾の激しい潮流や荒波を乗り越えて航行することも可能ではありましたが、それでも、船旅の間中、絶え間なく打ち寄せる大波を受けて、船体が前後左右に大きく揺られる事は避けられませんでした。
サキたちの居る三等船室でも、日を追うごとに船酔いに苦しめられる乗客が多くなって、出港当初のあの活気に満ちたにぎやかさは、すっかり影をひそめてしまいました。
ホピンは特に船酔いが酷くて、食事も満足に摂れないので、ずいぶんやせてしまって、始終ぐったりと横たわっていました。
「もう少し、まじめに魔法を習っておけばよかったと、今更ながら後悔してるわ。船酔いを散らす魔法だって、先生から教えてもらえたかもしれないし。」
ホピンが弱々しい声で、横に座るサキに耳打ちしました。
「先生って、どんな方?」
「とぉっても……、偏屈な先生だったの。そして、できの悪い私を始終、見下していじめていたわ。だから、私、魔法使いの試験を修了する前に、嫌になって、逃げ出しちゃったのよ。」
「先生は、アスタカリアの方?」
「ええ、私たちがアスタカリアを出た時、大掛かりな魔法使い狩りがあって、その時に、役人につかまってしまったって、あとで他の弟子たちから聞いたわ。だから、あなたが助かった時、私、本当に嬉しかったの。」
サキは、ホピンの額をやさしくなでて、「あなたのおかげよ。」
と言いました。
「二人は、陸路でナーグリアまで来たのね。」
サキのこの問いには、レカが答えました。
「うん。そりゃあ、大変だったのよ。女の二人旅でしょう。山賊とか人買いとか、何度も怖い目に遭ったわ。でも、そのたびに、お母さんが魔法で悪者をやっつけたのよ。私も、魔法が使えたら、どんなにいいだろうって、その度に思ったわ。」
話すうちに、次第に声が大きくなった事に気が付いて、レカはしまったと言うように口を押さえて、周りを確かめました。乗客はそれぞれの寝床で、集まって小声で話をしたり、いびきをかいて眠ったりしていましたし、船腹に打ち付ける波の音や、船体のきしむ音が、始終あたりに響いていたので、こちらの話を聞き取られる心配は、まずなさそうでした。
「こればっかりは、持って生まれた素質だからね。でもね、お前がそう言ってくれて、私は本当に嬉しいよ。」
ホピンは、船酔いで気が弱っているらしく、少し涙ぐみながらレカを見上げました。
レカは、いたわるようにうなずいて、
「カイザールさんからもらった薬が、少なくなったから、またもらってくるね。」
と言って、立ち上がりました。
女用の三等船室を出て、せまい廊下を進むと、男用の三等船室との中間に、二等船室に上がる階段があって、レカはそこを通り過ぎようとして、ふと上の階を見上げました。すると、そこの廊下で、乗客らしい二人連れが立ち話をしているのが見えました。
二人のうち、背中を向けた一人の袖なしの赤い上着から出た腕が、褐色の肌だったので、レカはカイザールだと思って、声をかけようとしました。でも、よく見るとそれは小柄な黄色い髪の若い女でした。その女が、気配を感じたのか、振り返ってレカを見おろしたので、レカは慌てて会釈をしました。
「あたしの肌の色が珍しいのかい。」
女が大きな釣り目で射るように見つめたので、レカは、
「そうじゃないの。私の連れに似ていたから、間違えてしまったのよ。」
と答えました。
「お前の連れは、褐色人なのかい。」
レカはそうだと答えようとして、カイザールが魔法で肌の色を変えていたことを思い出して、「いいえ。あの、雰囲気が、似ていたの。」と、とっさに嘘をつきました。
女は、隣の眼鏡をかけた背の高い男に、何か小声で語りかけると、再びレカを見おろして、「出港前に、褐色人の魔法使いがひと騒動起こしただろう。お前の連れじゃないのかい。」と、少しいじわるな調子で聞きました。
「違うわ。私の連れは、私と同じ肌の色だもの。」
レカは、なんだか心を見通されているような、不安な気持ちになったので、足早にその場を立ち去ろうとしました。すると、
「お前、名前はなんていうんだい。」
と女が聞いたので、レカは振り返って、自分の名前を名乗って、「あなたは?」と聞きました。
女は、「ジル、ジル・ギエムだよ。」と名乗って、「急いでいるんだろう。行きな。」と言いました。
レカは逃げるように歩き出しましたが、聴き取られはしまいかと思うくらい、胸がどきどきと高鳴っていることにその時気が付きました。
男用の三等船室の前まで来ると、男の子たちが柱と柱の間に渡した綱に、所狭しと洗濯した服や敷布を干している所でした。カイザールを呼んでほしいと頼むと、年長の子が大声で「カイザールさん!女が面会だよ!」と呼びかけてくれて、部屋の奥から、カイザールが他の客の間を縫うようにして出て来ました。レカは彼の腕を取って廊下のすみに連れて行くと、「ああ、怖かった。さっきね。褐色人の女の人に、階段の上から話しかけられたの。そして、カイザールさんの連れじゃないかと疑われたわ。」と話しました。
カイザールは、褐色人という言葉に、少しけげんそうな顔をしましたが、平静な態度で、相手がどんな風貌だったかを、できるだけ詳しくレカに話させました。
そして、「褐色人が二等船室に居るのも、おかしなことだ。審問官の手下かも知れんな。また、何かあったら、知らせにおいで。自分から、その二人連れに、近づいてはいけないよ。」と注意をしました。
「ええ、カイザールさんも気を付けてね。」
レカは、船酔いの薬を受け取ると、二等船室への階段を見ないように小走りに駆け抜けて、女用の三等船室まで戻って来ました。
サキとホピンにも二人連れの話をすると、ホピンは、「審問官の手下なのかねぇ。船酔いなんかしてる場合じゃないね。」と、起き上がろうとしました。でも、すぐに力なく横たわると、「だめだわ。もし追手だったら、私を置いて逃げて頂戴ね。」と、泣きそうな顔でレカに言いました。
「まだ追手と決まったわけではないわ。それに、サキさんやカイザールさんがいるんだもの。きっと大丈夫よ。」
「ええ、私たちで気を付けているから、ホピンさんは薬を飲んで、ゆっくり休んでいて。」
レカとサキから労(いた)わられて、ホピンは子どものように素直にうなずくと、レカが水に溶かした粉薬を、頭を支えてもらって、少しずつ飲ませてもらって、ようやく落ち着いたらしく、涙のたまった瞳を閉じて、ほっとため息をつきました。

つづく

img2-260.jpg
【ジル・ギエムと眼鏡の男】





関連記事
拍手ボタン
コメント:
この記事へのコメント:
コメント:を投稿する
本文:
 
魔法使いサキの物語 第14章・第2話 「二等船室の怪しい二人」|Kobitoのお絵描きブログ