きょうは、久しぶりに、短編の童話が書き上がったので、ご紹介します。
題名は、『うぐいすと天使』です。私が好きで繰り返し書いている天使の童話の、新しい一篇です。

創作のモチベーションにしていた存在を突然失った時の、創作者の苦悩と再生、というのが、このお話の隠されたテーマです。
ただ、そんなに難しく考えなくても、素直に楽しめるお話なので、肩肘をはらずに読んでみてください。

うぐいすと天使

春の陽気に誘われて、ひらひら、花びらが舞うように、かわいらしい天使が、空から降りてきました。
天使は毎年しているように、山のふもとの日向の平らな安山岩に腰かけて、春の香りを胸いっぱいに吸い込んだり、羽を伸ばして陽に透かしたり、菜の花畑から舞い込んでくる白や黄色のちょうちょに見とれたりして過ごしました。
そのうち、どこからか一羽の小鳥が飛んできて、やぶのかつらの木の葉の落ちた枝先にとまりました。それは黒曜石のように黒い、つぶらな瞳のうぐいすでした。
天使は嬉しさに脚をぶらぶらさせながら、
「毎年、ここで待っていると、うぐいすは、春一番の歌を聴かせてくれる。今年もやっぱり聴かせてくれるようだ。」
とつぶやきました。
ところが、うぐいすは、くちばしをきっと結んで、うるんだ瞳で空を仰いだきり、いつまでたっても歌おうとはしませんでした。
天使は待ちかねて、とうとう、
「どうして君は歌わないの。君の好きな春だよ。」
と声をかけました。
うぐいすは、はっと我に返ると、天使の方を見て、
「ああ、天使さんでしたか。ええ、私は今、あんまり悲しくて、歌えないのです。」と答えました。
「何がそんなに悲しいの。」
天使が聞くと、うぐいすはそこから見えるいくつかの民家の一軒をくちばしで指し示して、
「あのお庭の桜が綺麗に咲いた、古めかしいお家があるでしょう。あそこに、おじいさんが住んでいてね。以前、私が、いじわるな烏にいじめられて、羽を傷めてお庭に落ちた時に、おじいさんは優しく手当をしてくれて、飛べるようになるまで、そりゃあ親切に面倒を見て下さったんです。私はこんな小さな鳥だから、恩返しなんて大したことはできないけれど、せめて、私の歌い初めの歌声を、おじいさんに聴いてもらおうと思って、毎年春になると、真っ先にこのやぶに下りて来るようにしていたんです。おじいさんも、それに気が付いてくれていたようで、春になると、お庭に出て、私が歌い始めるのを、今日か明日かと、そりゃあ楽しみに待ってくれていたもんです。その、おじいさんが、去年の冬に、死んでしまったと、お家の人が話しているのを、つい今しがた聞いたのです。私は悲しくて、悲しくて、とても春の喜びなんて、歌う気持ちにはなれません。」
と言いました。
「それは悲しいね。」
天使はうぐいすのつらそうな様子を見て、かわいそうに思いました。そこで、
「じゃあ、今年の君の歌声がどんなだったか、僕が天国のおじいさんに伝えてあげようか。」
と聞きました。
うぐいすは飛び上がるほどびっくりして、
「え、そんなことができるんですか。そりゃあもう、そうして頂けるなら、嬉しいなんてもんじゃありませんよ。」と言いました。
「うん。きっと伝えるよ。だから、とびきり上等な歌を歌ってね。」
「分かりました。じゃあ、よく聴いていて下さいね。」
うぐいすははりきって、くっと上を向くと、胸をふくらせて、口をいっぱいに開いて、まるで天国のおじいさんに話しかけるように、磨き上げた美しい声で歌い始めました。
それは本当に透き通って、いかにも春らしい、花の香りのする歌でした。
「とってもいい歌だね。今まで聴かせてもらった中で一等きれいだ。」
手のひらを両耳にそえて、うっとりまぶたを閉じて聴いていた天使は、ぱっちり目を開くと、満足そうにうなずいて、背中の翼をぱたぱたはばたかせながら、たんぽぽの綿毛よりも軽く空に舞い上がりました。
「さあ、これからはあんまり悲しまないで、春の訪れを告げる歌を歌うんだよ。」
「おじいさんは私の事覚えているかしら。」
「心配ないよ。覚えているとも。」
「ええ、おじいさんに、くれぐれもよろしくお伝えください。」
「うん。伝えるとも。」
天使は、来た時と同じように、ひらひら、花びらのように軽やかにただよいながら、空を昇って行きました。
それからしばらくして、桜の花がすっかり雨で散ってしまい、代わりに、みずみずしい若葉が、木々を鮮やかに衣替えさせた頃、天使は再び、空からひらひらと舞い降りてきました。
天使はいつもの、山のふもとの、陽の当たる安山岩の上に腰かけて、風通しのいいやぶの木々を見回しました。すると、やぶの奥から、うぐいすのあの澄んだ歌声が聴こえて来ました。
「おや、すっかり元気に歌っているよ。」
天使はしばらく聴き耳を立てると、
「うぐいす!うぐいす!僕天使だよ。また天から降りて来たよ!」
と呼びかけました。
すると、間もなくうぐいすが、あわてたように飛んできて、かつらの木の枝にとまりました。
「天使さん。どうでしたか。おじいさんと、お会いになれましたか?」
「うん。おじいさんは、君の事をよく覚えていたよ。そして、君が毎年、自分のために歌ってくれていたことが分かって、とても嬉しいって言っていたよ。」
「そうですか。」
「それから、今年も、自分のためにきれいな声で歌ってくれて、ありがとうって言っていたよ。」
「そうですか。」
うぐいすは、目を細めて、ほっとため息をつくと、何度も何度もうなずきました。
「もうおじいさんを想って、悲しくて歌えないなんて事はないね。さっきも上手に歌えていたし。」
「ええ、今は、私の家族のために歌っているんです。先日子供が三羽、生まれたものですから。」
天使はそれを聞いて、手を叩いて喜びました。
「やあ、それはおめでたいね。」
「ありがとうございます。それもこれも、天使さんのおかげです。」
「だって、僕も君の歌を、毎年楽しみにしていたんだもの。また聴けるようになってうれしいよ。」
「ええ、これからは、あんまり悲しまないで、おじいさんを喜ばせるような歌を、お聴かせしますね。」
「うん。うれしいな。楽しみだな。」
天使は、安山岩の上で、ぴょんぴょん飛び跳ねて踊りました。
うぐいすも、ちっち、ちっちと、枝から枝へ、跳びはねながら歌いました。
お日さまがきらきらと輝く、暖かな風のそよぐ午後でした。

おしまい

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童話 「うぐいすと天使」 新作 短編|Kobitoのお絵描きブログ