きょうは、久しぶりに、「魔法使いサキの物語」の第14章・第5話を書き進めてみました。
良い話の筋がなかなか思い浮かばなかったのと、「小説家になろう」の方でも別の連載作品を書いているので、サキの話はどうも停滞しがちになってしまいます。
しかし、長期の航海という一つの難所を今回で乗り越える事ができたので、これから書くのが楽しい場面が増えて来て、書き進めるのも楽になって行く気がします。



魔法使いサキの物語
第14章・第5話「ギリーニャへの入港」

ジル・ギエムと眼鏡の男は、どうせまた手を出して来るだろうから、この際海に放り込んでしまった方がいいと、カイザールは言いましたが、サキが二人を憐れんで、それを望まなかったので、当面彼らの出方を見る、という事になりました。
目を覚ました二人に、カイザールは、「少しでもおかしな動きをしたら命はないと思え。」と伝えました。
ジルは「あたし達を生かしておいたことを、あんたは後悔することになる。」と、サキをにらみつけながら言いましたが、カイザールとの魔法の実力差を歴然と見せつけられたからには、二人とも大人しく引き下がるよりありませんでした。

それからというもの、サキ達は追手の二人にいっそう用心しながら、船旅を続ける事になりましたが、ジルが再び、二等船室への階段に現れるような事はありませんでした。
レカから、この誘拐事件の顛末を聞かされたホピンは、「お前がいなくなったら、私は何を希望にして生きて行けばいいんだい。」と言って、震える手でレカを抱きしめました。そして、「カイザールさんは、お前の命の恩人なんだよ。ああ、なんて頼もしい人なんだろう!」と、潤んだ瞳で天井を仰ぎました。
レカは、「犬笛を上手く鳴らせたって、あの人、お父さんみたいに抱きしめてくれたの。温かくて素敵な人よ、お母さん!」と、嬉しそうに答えました。
サキが、「みんなに迷惑をかけてしまって、ごめんなさい。」と謝りました。
ホピンは、サキもレカと一緒に抱きしめながら、「私たちは、助け合ってここまで来たのよ。それが、私たち魔法使いにとって、今こそ本当に必要な生き方ではなくて?」
と尋ねました。サキは、感謝で胸がいっぱいになりながらうなずきました。

コメッサ号は好天にも恵まれて、それから六日ほどで、シンギ半島の沖合に到達しました。
甲板に出た人々は、水平線に細長く広がる陸地を見て、安堵と開放感の入り混じった歓声を上げました。ここまで来れば、もう荒海の猛々しい振る舞いに怯える事はないのです。
ホピンも、カイザールに支えられて甲板へ上ると、言葉もなく涙を流しながら陸地を眺めました。サキはレカの肩を抱いて、二人の様子に見とれていましたが、ふと振り返ると、船室に続く扉の横には、ジル・ギエムと眼鏡の男が立って、人々の向こうからこちらをじっと見つめていました。ジルの冷たい灰色の瞳には、頑なそうな暗い執念がありありと浮かんでいました。

ギリーニャのドノン港には、大小の交易船や漁船が停泊し、石畳の岸辺に積み置かれた木箱や大樽の間を、人足や船乗りが忙しそうに行き交い、コメッサ号が停泊した岸壁では、到着を待っていたらしい人々が集まって来て、賑やかな人だかりを作っていました。

下船は上級船室の乗客から行われ、三等船室の乗客の手続きはずいぶん待たされてから始まりました。
乗客が名前と身分と渡航の目的を告げると、役人がそれを帳面に書き記します。問題が無ければ、乗客は割符の半分を示して、それと引き換えに預けておいた所持金を受け取るのです。
でも、サキ達は、この審査を受ける事はありませんでした。
船が港に近付いたところで、船員や乗客が陸の方に気を取られている隙に、彼女たちは、船尾から縄をたらして、それを伝って、次々に海に飛び込んだのです。
先に投げ込んでおいた板切れにつかまって、サキはレカを、カイザールはホピンを助けながら、港から離れた岸を目指して泳ぎ続け、半時間後には、後ろに木々がうっそうと茂って港の陰になっている岩場にたどり着きました。

レカやホピンは疲れ果てて、岩の上にぐったりと横たわっていましたが、カイザールは、なるべく早く港から離れた方が良いと言って、立ち上がれないホピンを背負うと、皆を急かして林に入り、どんどん先へ立って歩いて行きました。
サキが今までに見た事もない形の植物が、林の中にはたくさん茂っていましたが、それらをゆっくり観察している余裕など、もちろんありませんでした。


つづく


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2017年09月12日|Kobitoのお絵描きブログ .1042