ファンタジー小説、『魔法使いサキの物語』の、第13章・第6話を書き進めたので、ご紹介します。
物語の中で、乗り越える事が困難な事柄が起きた時に、それを解決する方法を考え出すのが、創作の上で最も難しい局面だと思います。今回の話も、そういう場面なので、四苦八苦しながら何とか書き上げました。
それでは、文末の挿絵と一緒にお楽しみ下さい。


前回までのあらすじ
ダンケルとマイネは、帽子のベレーズから空飛ぶ舟「カラブネ」の作り方を教えてもらって、図面通りに作ることに成功しますが、そのカラブネは風を操る魔法で飛ばす仕組みだったので、風の魔法が使えない二人はとんだ無駄骨を折らされた事に気が付くのでした。

魔法使いサキの物語
第13章・第6話「カラブネ、空を飛ぶ」

「申し訳ありません。お二人が風を操る魔法を習得されているかどうか、確認すべきでした。」
ベレーズがしょげて謝ると、マイネは図面をあらためて確かめながら、
「僕らも、スナクフ様が何でもご存じのはずだと思い込んで、質問をしなかったのがいけなかったね。」
と言いました。
「なんで俺たちが悪いんだよ。魔法庁への仕官のあては無くなるし、こんなとこまでベレーズを運ぶために旅をさせられるし、飛ばすこともできないガラクタ舟を作らされるし、踏んだり蹴ったりじゃないか。」
ダンケルがふてくされて言いました。
「私が悪いのです。お二人にはご苦労とご迷惑ばかりかけてしまって、本当にお詫びのしようもございません。」ベレーズは今にも泣き出しそうでした。
「まあ待ってよ。カラブネが飛ばないって決まったわけではないよ。」
マイネがとりなして言いました。
「何だって?」
ダンケルが頭をもたげて聞いたので、マイネは、
「追い風の風力で進むのではなくて、電気分解した海水の爆発の噴射力で進む構造にしてみてはどうかな。」
と提案しました。
ダンケルはベレーズと顔を見合わせましたが、それがどんなものか、どちらもよく分からない様子でした。
「上手くいくか分からないけど、とりあえず作ってみるよ。ダンケルも手伝って。」
「嫌だよ。俺は手伝わないよ!」
ダンケルが寝返りを打ってそっぽを向いたので、マイネは「気が向いたら頼むよ。」と言って、一人で馬を連れて材料を集めに出かけました。
しばらくすると、マイネは馬に材料を積んで戻って来て、カラブネを作った時と同じように、海藻と毒キノコを煮詰めて、崖の土と混ぜ合せて、汗だくになりながら、白い粘土を作りました。
「ああっ、私もお手伝いできたら良いのですけれど……。」
ベレーズが申し訳なさそうに声をかけると、マイネは、「いいよ。もう一人、手の空いた人がいるからね。」と言って、練り上がった粘土で、今度は細かな部品を作りはじめました。
「俺は手伝わないぞ!」少し離れたところで、横になったダンケルが、目を閉じたまま言いました。
マイネはせっせと部品を作り続けましたが、複雑な形が多いのと、寸法を正確に測らないといけないので、一人では思うように作業が進まない様子でした。
「そろそろ粘土が固まりはじめます。どうでしょう、間に合いそうですか?」ベレーズがたずねると、マイネは額の汗を拭いて、作業を進めながら、
「ちょっと厳しいなぁ。」と答えました。
「何を手伝えばいいんだ。」
いつの間にか、ダンケルがマイネのそばに立っていて、口をとがらせながら聞きました。
「これに書いてる通りの部品を作って。」マイネは微笑むと、隠しから手描きの図面を取り出してダンケルに渡しました。
「用意周到なんだからなぁ。」ダンケルは苦笑いすると、腰を下ろして粘土を加工しはじめました。
ダンケルの加勢のかいがあって、部品はすべてそろったので、マイネはそれらを組み立てて、たき火で焼き固めて、壺のような形の、奇妙な機械を完成させました。
ダンケルは、それをカラブネの後部に取り付けながら、
「動かしたとたんに大爆発!ってことにならなきゃいいがな。」と言いました。
「僕もそうならないことを祈るよ。」マイネも、あまり自信はなさそうでした。
「しかし、こんな小さな舟じゃ、馬も荷も置いていくしかないな。」
ダンケルが言うとベレーズが、
「私が入っていた小箱なら、馬や荷を入れて運べるかもしれません。」
と答えました。
「まさか。あんな小さな箱に馬や荷なんか入るかよ。」
「物は試しだ。やってみようよ。」マイネが馬に負わせた荷袋から小箱を取り出して、それに馬の前脚のひづめをはめ込んでみました。
すると驚いたことに、馬が荷袋ごと瞬く間に小さくなって、小箱の中に落ち込むように吸い込まれて行きました。
すっかり馬の姿が見えなくなったので、小箱の中を覗き込むと、手のひらに載るくらい小さくなった馬が、とまどった様子でか細くいななきながら、こちらを見上げていました。
「ひえー。信じられない。子ねずみくらい小さくなったよ。」
「たまげたな。こんなすごいミュステルだったのか。」
ベレーズが誇らしげに、「たいしたものでしょう。三法者の書に記された魔法の中でも、極めて難易度の高い魔法が施されたミュステルです。しかも、三法者のヌマ様がその手でお作りになった、世界にたった二つしかない、大変貴重な小箱なのですよ。」と言ってから、
「ただ、あまり大きなものを入れっぱなしにしておくと、魔法が壊れてしまって、元の大きさに戻せなくなってしまうので、遅くとも五日後には取り出して下さい。」と付け加えました。
「この舟がちゃんと飛んで、大爆発もせずに、無事にシンギ半島にたどり着く事ができたらな。」
ダンケルは早くもカラブネに乗り込んで、船首に座ると両手でしっかりへさきにつかまりました。
マイネは「馬をなだめててね。」と言ってベレーズを小箱の中に入れると、ふたを閉じて、それを懐に入れてから、「僕は操縦に専念するから、ダンケルは常に舟の平衡を保つことに集中してね。」と言って、カラブネの船尾に飛び乗りました。
マイネが機械の上部に取り付けた管に手を添えて、短い呪文を唱えると、ボンという破裂音と共に壺型の機械の口から熱水が噴き出して、カラブネが岸から離れて沖へ向けて進みはじめました。
「漕がなくてもいいなんて便利なもんだなぁ。」
快調に進むカラブネに、ダンケルが感心して言いました。
「まだまだ序の口だよ。ここからが本番。」
マイネがまた呪文を唱えると、カラブネはさらに速度を上げて、舟底が水面からしだいに浮き上がり、やがて四本の足だけで、滑るように海上を走りはじめました。
ダンケルは姿勢を低くして進路を見据え、一心に舟の平衡を保っています。
マイネはそこでさらに、力を込めて呪文を唱えました。
ゴオオオオ!機械が火を噴くような激しいうなりを上げ、カラブネは静かに水面を離れて、飛魚のようになめらかに低い空を滑空しはじめました。
「飛んだ飛んだ!飛んでるぞ!」
ダンケルが前を見据えたまま叫びました。
「やったぁ!飛んだ!飛んだ!」マイネも帆柱につかまって叫びました。
ダンケルは平衡を保つのに慣れて来たので、ちょっとマイネを振り返って大声で言いました。
「お前は凄い!天才ミュステル職人だ!」
カラブネは、西日を浴びて、真っ白に輝きながら、はるか南の半島を目指して、風を切りながら真っすぐに飛んで行きました。

つづく

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【空を飛ぶカラブネ】



2017年04月15日|Kobitoのお絵描きブログ .1004