きょうは、オリジナルのファンタジー小説、『魔法使いサキの物語』の、第13章・第4話を書き進めたので、ご紹介します。

前回までのあらすじ
魔法長官スナクフの帽子ベレーズは、ダンケルとマイネに、白い影の正体が三法者の一人ミタマの魔法であることや、サキの両親セイヴァンとニールスエスタと、ミタマとの関係のことなどを話して聞かせました。
はじめはベレーズがだましていたことに怒っていたダンケルも、話を聞くうちに、魔法長官スナクフの深い考えがあってのことだったのだと分かって、ベレーズを許すのでした・・・。


魔法使いサキの物語
第13章・第4話「二日でシンギ半島に渡る方法」

「それで、スナクフ様は僕らにどうしろと?」マイネが聞きました。
「サキ様を探して、私を渡してもらいたいのです。私はスナクフ様からサキ様への言づてを預かっているのです。ただ、今すぐ渡しては、ブランの影響力が強過ぎますから、お二人がサキ様に追いついた時が、最善の頃合いであろうとの事でした。」
「サキはもうナーグリアの交易船に乗って、シンギ半島に渡ってしまったんじゃないかな。僕らだって、帰ろうとしている故郷はシンギ半島にあるんだけど、交易船は二ヶ月しないと戻って来ないし、その間にサキはもっと遠くに行ってしまうよ。」
ベレーズはすかさずマイネに、
「カラブネを作るのです。」と言いました。
「カラブネって何だい。」
「空を飛ぶ舟です。それを用いれば、シンギ半島のギリーニャまで二日で着けます。」
「そんなすごい物、平平の魔法使いの俺たちが作れるかよ。」ダンケルがあきれて言いました。
「作り方は、私がスナクフ様から聞いているので教えます。お二人は私の言う通りに、材料を集めて下さい。」
「ちょっと待て。俺たちは、まだサキを追うとは決めてないぜ。故郷に帰りたいだけなんだ。話を聞くと、サキは相当やっかいな問題に巻き込まれてる。仕官するはずだった魔法庁もなくなったし、俺たちが危険を冒してまでスナクフ様の指示に従う理由はない。」
ダンケルがきっぱりと言うと、ベレーズはあっさり、「そうですね。お二人はスナクフ様の弟子でもありませんから、スナクフ様の指示に従う理由はありません。」と認めました。
そして、
「これはお願いなのです。サキ様がナップにたどり着いて、カン・ソク様を救い出すには、私がスナクフ様から預かった言づてがどうしても必要なのです。私が自力でサキ様のもとへ向かえたらいいのですが、それが無理な以上、信頼できるお二方に、その任をお頼みするほかはないのです。」と言いました。
「勝手な理屈さ。俺たちは、サキに貸しはあっても、借りはこれっぽっちもないんだからな。」
ダンケルがつっぱねると、ベレースは心細そうにマイネを見上げました。
マイネは腰に手を当てて考えていましたが、
「ギリーニャまで二日で着けるなら、サキとの距離は相当縮まるだろうね。僕らは、サキを見つけられるだろうか?」
と聞きました。ベレーズは勢い込んで、
「もちろんでございます。お二人がサキ様を見つけると確信していたからこそ、スナクフ様は私をお二人に委ね、また、カラブネの作り方まで、私に教えておいたのですから。」
と答えました。
「おいおい、僕らって言うなよ。俺はもう降りるぜ。」
ダンケルがマイネに言いました。
マイネは、「スナクフ様からもらった報酬や旅費が、まだたんまり残ってるだろ。それに、どうせ向かう方角は同じなんだし、ベレーズはカラブネの作り方を教えてくれるって言ってるんだから、無事にギリーニャに着けたら、少しくらいサキを探してあげたっていいじゃないか。もし、ギリーニャでサキが見つからなかったら、ダンケルはそこで役目を降りたらいい。僕はサキを探しながら、エレスの師匠のところに向かうよ。」
「お前は律儀すぎるんだよ。」ダンケルはぼやきながらも、
「ナーグリアの北の海から大回りしてシンギ半島に帰る道のりを考えると、本当に二日でギリーニャに着けるなら、有り難いなんてもんじゃないからな。」と、あごを撫でながらしばらく考えたあとで、ベレーズを見おろして、
「よし、サキがあんまり遠くへ行ってない事を祈るんだな。」と言いました。
ベレーズは、
「では、急いでカラブネの材料を集めましょう。」
と、二人を急かすように、左右のつばをパタパタと揺らしました。

つづく

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古い洋楽(ロック)が好きで、よく海外アーティストの70年代のライブコンサートの音源を聴くんですが、欧米で開かれたコンサートの音源と、日本で開かれたコンサートの音源では、決定的に違う部分があります。
日本でのコンサートは、ほぼ例外なく、一曲目から、観客の大部分が手拍子を行ないます。それも、一糸乱れない大音量で。
欧米でのコンサートでは、時おり手拍子が起こることはありますが、それは日本ほど統率されたものではなくて、たいていはひとしきりつづいた後で、次第にまばらになって止んでしまいます。
日本人は手拍子がものすごく好き(もしくは、それが応援になると思っている)らしくて、叩ける曲が続く限り、コンサートの間中、延々と叩こうとします。
それが、多くの日本人のコンサートの楽しみ方なのでしょうが、一方で、プロのミュージシャンが生み出している微妙なリズムやテンポの変化や、彼らが歌や楽器で表現している繊細な響きやニュアンスが、素人ののっぺりとした手拍子によって聴き取りづらくなる、という弊害が生じている事が、録音された音源で聴くとよく分かります。
欧米の聴衆が、なぜ一体になった手拍子を長時間持続的に行わないか。ある日本人が、海外のコンサートの音源を聴いた感想として、「欧米の聴衆の手拍子は不揃いで、リズム感も悪いように感じる。その点、日本の聴衆は多くの人が一体になって正確なリズム感で叩けていて素晴らしい。」とブログに書いていましたが、それは多分、欧米の聴衆が、日本人のように延々とコンサートの間中、(叩きすぎて手が痛くなったなんて事まで言いながら)手を叩き続けるという、演奏に参加する行為を楽しむ方向性とはちがう楽しみ方をしているからだと思います。つまり、欧米の聴衆は、過度の手拍子が音楽のニュアンスを損なう事を知っていて、それよりは、適時声援や指笛を送ることでアーティストを鼓舞するという方法を選んでいるのではないかなと思うのです。
ただ、スウェーデンなど北欧でのライブ音源を聴くと、聴衆がしきりに一体となって手拍子を行なっている様子が聴き取れるので、手拍子を好む傾向は、日本だけではなく、他の地域にもあるようです。
私は、演奏の細部のニュアンスまで聴き取りたいので、イギリスやアメリカを中心とした手拍子にこだわらない聴衆の観覧スタイルが好きです。

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【手拍子と演奏家】




二人の天使がやすらかに
より添っているのは
真っ白ふわふわの
雲の上?
それとも
きれいに咲いた
野ばらの中?
それとも
あなたの
夢みる
心のどこか?


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人は、人生の中で、自分を偽って、道化のような卑屈な態度を演じる事がありますね。
今日は、そういう人の心理について、考察した童話を書いてみたので、ご紹介します。
道化を演じる理由も、様々だと思うので、これはあくまでも一つの例です。

童話というより、小説に近い文体なので、ショートショートに属する作品かも知れません。
この作品は、テキストの下に貼ってあるクラウンの絵を描いているうちに、思い付きました。


道化師の独白

初対面の人と話すとき、私はついまぬけを演じてしまう。
知っていることを知らないふりをし、分かっていることを、分からないふりをする。(卑屈な笑みを浮かべながら。)
すると相手はたいてい、私を見下した態度に変わってしまう。
それで私は、その人に失望し、好かれる努力をするのが面倒くさくなり、無遠慮な態度をとるようになる。
見下した相手から、そんな態度を取られたら、たいていの者は我慢ができない。
そこで縁の切れ目ということになる。
ところが、おかしなことに、道化師の舞台では、このやり方が、一番手っ取り早く大当たりをとる方法なのです。
うそだとお思いなら、明日オペラ座で開かれる私の舞台を、どうぞお見逃しなく。



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【道化師】




オリジナルのファンタジー小説、『魔法使いサキの物語』の、第13章・第3話をご紹介します。
今回は、この物語の根底にある謎の多くが、帽子のベレーズによって打ち明けられて行くという、重要な回です。
これまでに登場した人物を大まかにまとめた、「登場人物相関図」も書いてみたので、テキスト末尾に貼っておきます。参考にしながらお読みください。

前回までのあらすじ
サキの帽子のトミーが入っていると思っていた小箱には、魔法長官スナクフの帽子だというベレーズが入っていました。
マイネはあきれ、ダンケルは怒り心頭です。ベレースは、二人をだましてまで、サキを追わせた事情を語りはじめます…。


魔法使いサキの物語
第13章・第3話「白い影の正体」

「なぜ今まで小箱に閉じこもっていたんだい。僕らが旅の間、どんな目にあって来たか、お前だって知ってるんだろう。スナクフ様の考えあってのことにしても、あんまりじゃないか。」
マイネが、ダンケルをなだめるように、穏やかにベレーズにたずねました。
「私だって、どんなにふたを開けて、お二方に事情をご説明したかったかしれません。でも、それはお二方にとって、さらなる危険を招くことになりますので、できなかったのです。」
「どういう意味だ?俺たちに話すとまずいんなら、今だって話せないって事じゃないか。」
ダンケルが、帽子のつばを握る力をゆるめたので、ベレーズはふうっと息をつくと、「今だからこそ、お話しできるのです。お二人は、たった今、サキ様を追う事を完全にあきらめましたから。それが、付きまとう影をまくために、必要なことだったのです。」
「影って、あのモリーの宿場の手前で僕らが見た、白いうすっぺらな人影かい。」
マイネがベレーズに顔を寄せて聞きました。ベレーズは声を潜めて、
「左様です。あれはスナクフ様に掛けられた魔法から生じた影で、ブランと言います。ブランはお二人の監視をし、サキ様にある役目を果たさせるために、お二人やその周囲の人々の行動を操って、サキ様をナップへ向かわせようとしていました。しかし、お二人がサキ様を追う事をあきらめたことで、魔法の効力がなくなり、ブランも消え失せました。だから、私は安心して、お二人に事情を話せるようになったのです。」
「スナクフ様にそんな強力な魔法をかけるようなすごい魔法使いって、いったい誰なんだ。」
ダンケルがたずねると、ベレーズはいっそう声を落として、
「ミタマ様でございます。」
と答えました。
マイネが目を丸くして、
「ミタマ様って、あの、三法者の一人の?」
と、つられて、声を潜めて聞きました。
「スナクフ様はミタマ様のお弟子でございます。ミタマ様は、たいへん用心深い方でしたので、お弟子の方々それぞれに、ご自身の影響力を保つ魔法を、ひそかにかけておられたのでございます。」
「しかし、ミタマ様って、大昔の人だろう。まだ生きていたのか?だって、呪文を刻んだ魔法以外は、自分の死後も効力を残すことはできないんだろう?」ダンケルが聞きました。
「肉体は滅びておりますが、魂はまだ存在しております。その、ミタマ様の魂が封じられている場所が、おそらく東の果てのナップなのです。」
「封じられているって、どういうことだ?」
「ある魔法の実験の失敗で、ミタマ様の肉体と魂は分離され、魂だけが、遠く離れたナップの地に飛ばされ、何らかの方法で封じられているのだろうと、スナクフ様は申しておりました。その、魔法の実験というのが、三法者の書に記されている膨大な魔法の中でも、最も難しいとされる三大魔法の一つである、“死者をよみがえらせる魔法”なのです。そして、その魔法の実験の材料として利用されたのは、サキ様のお父様のセイヴァン様と、お母様のニールスエスタ様でした。」
「ミタマ様は、セイヴァン様がお仕事で命にかかわる重傷を負い、ニールスエスタ様が救いを求めて訪れた時に、ニールスエスタ様をだまして、セイヴァン様を死者をよみがえらせる魔法の材料にしようとしたのです。そして、その魔法の儀式の途中で、ミタマ様がセイヴァン様を救うつもりがないことを悟ったニールスエスタ様は、儀式を妨害して、魔法を失敗させたのです。ミタマ様はその失敗の反動で、肉体と魂を分離させられて、遠くナップまで飛ばされてしまったのだろう、ということです。」
「サキは、ミタマ様の魂が封じられている場所に行こうとして、ナップを目指しているのか?」
「違います。サキ様は、ミタマ様の事も、ミタマ様とご両親とのいきさつも、まったくご存じありません。サキ様は、ブランの力でナップに飛ばされた、お師匠のカン・ソク様を助け出すために、ナップを目指しているのです。」
「なんてこった!サキがカン・ソク様の弟子だと言っていたのは、本当のことだったんだ!」
ダンケルが叫ぶと、マイネも、
「カン・ソク様の安否を、スナクフ様に占ってもらうために、サキはスナクフ様に会いに行ったんだ。」
と、うなづきながら言いました。
「しかし、なんでスナクフ様は、サキに両親の事を話してやらなかったんだろう。お前の話を聞いてると、ミタマ様ってかなりやっかいな人みたいじゃないか。そんなやばい人の魂に、サキが近づかないように、注意してやることもできただろうに。」
「もし、スナクフ様がすべてを話せば、サキ様はミタマ様の魂の力を意識することになり、ブランがもたらす影響を、より強く受ける事になっていたでしょう。まだ未熟なサキ様では、行動すべてをブランに操られてしまう恐れもあったのです。しかし、ブランの力は、すでにサキ様やその周囲の人々にもおよんでおりましたから、スナクフ様は、たとえサキ様を一時的にお守りできたとしても、いずれブランの力が上回ってサキ様を操ってしまうだろうと予見されて、サキ様の魔法使いとしての資質の高さを信じて、因縁のあるこの問題の解決を、サキ様自身に委ねようとなさったのです。」
「ミタマ様は、サキを自分のところに来させようとしているようだけど、それはなぜなんだい?」
「分かりません。スナクフ様は、その点を詳しく教えては下さらなかったのです。」
「スナクフ様は、王様を暗殺する計画を立てていたのか?」
ダンケルのこの質問には、さすがのベレーズも声を荒げて、
「スナクフ様が、どんなにアモス王に忠誠を誓い、また心から慕っておいでだったか、私はそばで見ていてよく存じております。魔法庁の内部に、革命の動きがあることは、スナクフ様も察知して、警戒はしていたのです。しかし、多勢に無勢で、スナクフ様の力では、どうにも抑えようがなかったのです。せめて、暗殺未遂などという濡れ衣を着せられても、アモス王には、スナクフ様の忠心を信じて頂きたかったのですが、それもかなわず…。」と、自分のリボンを噛んでくやしがりました。
ダンケルは、
「分かった、悪かったよ。俺も、スナクフ様がフラトで魔法使いの地位を認めさせたってことを、誇りにしていたんだ。だから、これからもスナクフ様を信じるよ。」
と、ベレーズに味方するように言いました。


つづく
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今日は、オリジナルのファンタジー小説、『魔法使いサキの物語』の、第13章・第2話を書き進めてみたので、ご紹介します。

前回までのあらすじ
サキを追ってナーグリアの国境までやって来たダンケルとマイネですが、ナーグリアでは魔法使いを入国させないために、国境の警備を厳重にしていたので、関所に近付くこともできずに追い返されてしまうのでした。


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魔法使いサキの物語
第13章・第2話「帽子の小箱、ひらく。」

イストパ(フラトやナーグリアを含む、ゴンドラ大陸東端の地域の総称)からシンギ半島に渡るには、ナーグリアのサドゥから出航する交易船に乗るほかに、ナーグリアを西へ横断して、サランダムから陸路で南下する方法もありました。しかし、いずれにしても、ナーグリアには入国しなければいけないので、二人は何か良い手立てがないか、考えてみる事にしました。
「ナーグリアが、審問官のしもべの魔法使いたちも例外視せずに追い出してくれたら、楽なんだけどなぁ。」
マイネがぼやくと、ダンケルは、
「そこがナーグリアの巧妙な所さ。普通の人間が束になっても、一人の魔法使いをとっつかまえることさえ難しいからな。審問官は手下の魔法使いたちに、身の安全と仕事を保障する代わりに、家族を人質に取って、魔法使いが裏切ったり逃げ出したりしないようにしているそうだ。」
「サキはどうしたろうね。ナーグリアに入国できて、交易船に乗れただろうか。」
「あいつがここにたどり着いた頃は、まだ国境の警備もそれほど厳しくなかっただろうから、案外すんなり交易船に乗れて、今は優雅な船旅の最中ってとこかもな。」
「交易船がサドゥに帰港するのは二ヶ月後だろう。サキを追う任務も、これでお手上げだね。」
「他人のことより、とりあえず自分たちの身の振り方を考えようや。」
マイネは、馬に負わせた荷から、地図を取り出して、それを地面に広げながら、
「交易船が戻ってくるまで、この辺で野宿して待つのが妥当だろうけど、その頃には、魔法使いへの取り締まりもますます厳しくなっているだろうから、どうだろう。交易船に乗らないで、シンギ半島に渡る方法として、夜中に、小舟を漕いで海岸沿いを移動して、サランダムを目指すっていうのは?」
と提案しました。
「無理だな。シンギ湾の海流は海岸沿いでもとても強い。陸から気付かれない程度に沖に出なければいけない事も考えると、魔法で波を操れでもしない限り、ぐんぐん東に流されちまう。」
「じゃあ、ナーグリアの北側の海岸に出て、小舟でサランダムを目指す、というルートは?」
「ずいぶん遠回りになるが、穏やかな内海だし、陸は山地続きで途中に大した要衝もないから、小舟でかなり沖を通って旅する分には安全かもな。」
「じゃあ、ナーグリアの北の海を通って、気長にサランダムを目指すって事で、決定だね。」
マイネがそう言って地図をたたもうとすると、「とんでもない!」というかん高い声がしたので、マイネはまた地図を広げながら、「他に妙案があるの?」とダンケルを見上げました。
ところが、ダンケルは、馬に結わえた荷袋が、ごそごそ動いているのを無言で指さしただけでした。
マイネが荷袋をのぞいてみると、あのスナクフから預かった、サキの帽子のトミーが入っている小箱が、ふたを開けたり閉めたりして、袋の中であばれていました。
マイネが小箱を取り出して、「お前さんには悪いけど、僕らはサキを追うのはあきらめたよ。」と話しかけると、小箱のふたが勢いよく開いて、中の帽子が、「考え直していただきます!今すぐに!」と叫びました。
マイネが驚いたのは、それが、テトで見た三角帽子のトミーとは似ても似つかない、リボンのついた桃色の女性用の丸い帽子だったからです。
「お前は誰だい?トミーはどこへ行ったんだい?」
マイネがたずねると、桃色の帽子は、「私はスナクフ様の帽子で、ベレーズと申します。まことに申しあげにくいのですが、この小箱は、サキ様の小箱とよく似ておりますが、全くの別物で、実際はスナクフ様のものです。そして、トミー様が入った小箱は、今でもサキ様が大切にお持ちになっているはずです。」
と、おどおどしながら、早口で答えました。
ダンケルがマイネから小箱を取りあげて、中から帽子をつまみ出すと、「なんだと!じゃあ、スナクフ様は、サキが忘れ物をしたなんて、俺たちをだまして、こんなところまで、サキを追わせたってのか!?」と、今にも帽子を引き裂かんばかりの剣幕でどなりました。
ベレーズは、小箱から出されるとすぐに、人がかぶれるくらいの大きさに広がりました、そして、あまりのダンケルの怒りように、がたがた震えながら、
「さ、さ、左様にございます!しかし、これもひとえに、スナクフ様の、深謀遠慮の為せる業にございます!なにとぞ、このような、役目を、お二方に負わせた事情について、私に説明の機会をお与え下さいますように、平に、平に、お願い申し上げます!」
と、切れ切れの哀れな声で頼みました。

つづく

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今日は、聖書(旧約聖書)の中の物語をモチーフにした童話を書いてみたので、ご紹介します。
私には信仰はないので、あくまでも題材として、聖書の物語を用いています。そして、聖書らしい雰囲気や教訓が含まれるように、文体を意識しながら書いています。

ヨセフという人が、自分が見た夢のために兄弟から恨みを買ったり、他人が見た夢を分析して未来を予言したりするエピソードが、聖書に出てきます。

この童話の中に登場する、絵に描かれた景色が、その夢の光景です。
その他の部分は、私の創作です。

では、挿絵と合わせてお楽しみ下さい。




画家と両替商

エルサレムの街角で、画家のヨシュアが、昨日描いたばかりの絵を二枚、いちじくの木に立てかけて売っていました。
絵には、友人のヨセフが話してくれた、夢の中で見たという景色が描いてありました。
一枚の絵には、畑の真ん中の芝の束を、十一の芝の束がとり囲んでひれ伏す様子が、もう一枚の絵には、太陽と月、それから、十一の星に囲まれたヨセフの姿が描いてありました。
ヨシュアの絵は、ずいぶんきれいに描けていましたが、立ち止まって絵を見る人の多くは、ヨシュアが有名な画家ではないと知ると、興味をなくして立ち去ってしまうので、いつまで経っても、ちっとも売れないのでした。
ヨシュアは、食べるものにも困って、お腹が空いていたので、いちじくの木を見上げました。青い実がいくつか、枝葉の間から見えましたが、まだ小さかったので、食べられそうにありませんでした。
そこへ、神殿にいくつも店を出している両替商の金持ちが通りかかりました。
両替商は、ヨシュアの絵をじっくり眺めると、畑に並ぶ芝の束の絵を指さして、「いくらだね。」と聞きました。
ヨシュアは、あらためて聞かれると、自分の絵にいくらの価値があるのか、見当もつかなかったので、「あなたの言い値でお売りします。」と答えました。
両替商は、「じゃあこれで。」と言って、青銅貨を十枚、ヨシュアに渡すと、いそいそと絵を抱えて立ち去りました。
ヨシュアは大喜びで、そのお金で、夕食のパンと、次の絵を描くために必要な画材を買いそろえて、家に帰りました。
次の日、ヨシュアは昨日売れ残った絵と、昨晩新しく描いた絵を持って、いちじくの木の下に行きました。
新しい絵には、やはりヨセフから聞いた夢の話の、三本の枝があるブドウの木と、ブドウの房を摘んで杯に絞り、王に捧げる給仕役の男の姿が描いてありました。
ヨシュアが絵を並べて売っていると、昨日の両替商がまたやって来て、腰帯に手を入れたままひとしきり絵を眺めて、二枚を指さして、「いくらだね。」と聞きました。
ヨシュアはやはり、自分の絵に値段を付ける事がためらわれたので、「あなたの言い値でお売りします。」と答えました。
両替商は、「昨日より小さく見えるな。」とつぶやきながら、青銅貨を五枚、ヨシュアに渡すと、あまり嬉しくもなさそうに、絵を両脇に抱えて帰って行きました。
ヨシュアはそのお金で、次の絵を描くための画材を買えるだけ買いました。帰りにいちじくの木を見ると、実は大きくなっていましたがまだ固かったので、お腹が空いていましたが、我慢して家に帰りました。
次の日、ヨシュアがまた新しく描いた絵を持って、いつものいちじくの木の下に行ってみると、両替商がもう来ていて、熟したいちじくを食べながら待っていました。
両替商は、ヨシュアが持ってきた、頭に編みかごを三つ載せた料理役と、一番上の編みかごの中の料理をつついて平らげている鳥の絵を、うさんくさそうに眺めてから、青銅貨を一枚ヨシュアに渡して、「あんたの絵に価値はあるのか?」と、はばかりもなく聞きました。
ヨシュアは、両替商が代金を決めたのだから、私に絵の価値を聞くなんておかしいじゃないかと、腹が立ちましたが、「絵の価値は買った人が決めるものですよ。」と、できるだけおだやかに答えました。
両替商は、その答えにも不満な様子でしたが、それ以上何も言わずに、受け取った絵をためつすがめつしながら帰って行きました。
ヨシュアは、両替商とのやりとりに疲れて、あんまりお腹がすいたので、気を取り直して、いちじくの木を見上げました。でも、実は一つも見当たりませんでした。
両替商が残らず、食べてしまったからです。



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プリティ・ウーマンという映画をご存知ですか?
1990年公開の、リチャード・ギアとジュリア・ロバーツが主演の、ロマンティック・コメディです。
映画の中に登場する、ジュリア・ロバーツが演じる、売春婦でありながら朗らかで純粋な心を持ったビビアンという役柄が、私はとても好きです。
このイラストも、そのビビアンをイメージしながら描きました。
衣装は中世風のドレスですが、さっぱりした気立てのいいコールガール、という設定です。


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オリジナルのファンタジー小説、『魔法使いサキの物語』の、第13章・第1話を書き進めたので、ご紹介します。
この物語は、久しぶりの更新です。

第13章では、フラトの魔法庁からサキを追う任務で派遣されたダンケルとマイネの、その後の様子を書いていきます。
フラトで魔法使いたちによる革命が起きたため、彼らは役人としての職務を失った形となり、現在は、サキの捜索をなかばあきらめて、故郷のシンギ半島に帰ることを一番の目的に旅を続けています。



魔法使いサキの物語

第13章・第1話「革命の余波」

フラトの王、アモスの決定により、フラトにいる魔法使いは全員、国外追放を命じられることになりましたが、その後、魔法使いたちが起こした反乱により、フラトの都テトはあっけなく陥落し、アモスはわずかな手兵に守られながら、かろうじて近郊の都市バライへ逃げのびる事となりました。
フラト全土の魔法使いは、革命が成功した事を知ると、多くの者が革命軍に加わるためにテトの都を目指し、すでに国外に追いやられていた人々も、いっせいに進路を反転させて、もと来た道をフラトへ向けて戻りはじめました。
西の大国ナーグリアでは、国外追放となったフラトの魔法使いが、難民として大挙して押し寄せる事を警戒して、東の国境を封鎖し、フラト側からの入国を一切受け入れないという対策を整えていましたが、大半の魔法使いは、ナーグリアに至る前に、フラトに引き返し始めたので、ナーグリアの国境を訪れたのは、革命の混乱に巻き込まれることを恐れた魔法使いたちと、革命が起きた事をまだ知らない魔法使いたちの、二通りに限られる事となりました。
革命には加わらない事にした魔法庁の元役人、ダンケルとマイネも、それぞれの故郷があるシンギ半島を目指して、ナーグリアの国境にやって来ていました。
魔法庁の役人だった頃の彼らの目的は、サキの忘れ物である帽子のトミーが入った小箱を、サキのもとに届ける事でしたが、それを依頼した魔法長官のスナクフが失脚し、革命に加われという魔法庁の元技師長ヘブの誘いも断った今では、目的と呼べるほど重要なことではなくなってしまっていました。
「ナーグリアではサキを探したりせず、さっさと港へ行ってシンギ半島に渡ってしまうのが賢明だろうね。どうも、フラトの混乱の影響は、フラトだけにとどまらない気がするもの。」
馬に乗ったマイネが言うと、
「革命なんて大それたことをすりゃあ、どこの国も、一層厳しく魔法使いを締め出すようになるだろうからな。」
と、荷を背負って横を歩くダンケルが答えました。
すると、鋭く風を切る音がして、マイネの馬の足元に、何か細長い物が突き立ちました。歩みを止めてよく見ると、棒の上部に灰色の羽が取り付けてあったので、矢だという事が分かりました。
飛んできたのは、ナーグリアとの国境の方角のようです。しかし、まだ国境の関所など見えないので、どこから射て来たのかは、わかりませんでした。
二人はすぐに、きびすを返して、もと来た方向に走りはじめました。矢を射たのは、かなり腕の立つ魔法使いで、二人を射抜かなかったのは、もしその場を立ち去らなければ、今度は命中させる、という警告だと思ったからです。
半時間ほど走ってから、二人はやっと歩調を緩めました。
「一矢目で命中させないところが、魔法使い同士の仁義ってとこだろうか。」
マイネがふり返らずに言いました。
「まだそれほど、フラトからの難民がナーグリアに押しかけていないって事だろう。人数が多くなれば、警告なんて悠長なこともしてられなくなるさ。」
ダンケルは呼吸を整えながら、やっぱり振り向かずに答えました。

つづく


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交流サイトで知り合った四人による共作童話、『クリスマスの天使』の、第8話です。
このお話は、今回の8話で完結です。

描き下ろしの挿絵と一緒に、お楽しみ下さい。

前回までのあらすじ
クマのお医者さんと、ブルドッグの刑事さんのがんばりで、とうとうブタの宝石商さんは、ウサギのシュンくんに宝石を拾ってくれたお礼を支払うと約束したのでした。


クリスマスの天使

作:Kobito、nao、かまど猫、Sian
絵:Kobito

第8話

その夜、トチリさんが仕事を終えて家に帰ってみると、いつもは薄暗い部屋の窓から、こうこうと明かりがもれていて、中から楽しげな歌い声や笑い声まで聞こえて来るのでした。
玄関を開けると、立派なクリスマスツリーのそばに座ったシュンくんが、真っ先に気が付いて、「おかあさん、お帰りなさい!メリークリスマス!」と言いました。シュンくんのそばには、ワインのボトルを抱えたクマのお医者さんと、ブルドッグさん、コリー犬さん、それに、もこもこに着ぶくれたかわいらしい子供が二人いて、暖炉には暖かな火が燃えていて、部屋はおいしそうな匂いでいっぱいでした。
「メリークリスマス!なんだかにぎやかねぇ。まあ、ご馳走もあるわ。」
トチリさんは、たくさんの料理がならんだテーブルを見て、にこにこしているみんなを見回すと、クマのお医者さんに支えられて歩いてきたシュンくんを抱きしめながら、
「ずいぶん元気になったのねえ。いったい何があったの?」
と聞きました。
シュンくんは、「いろんなことがあったんだ。いいことばかりだよ。どれから話そうかな。」と言いました。
クマのお医者さんが、
「天使の奇跡さ。そして、シュンからの、クリスマスプレゼントさ!」
と言ってワインのボトルをかかげました。
シュンくんは、クリスマスツリーの下から、大きなガラス瓶を引っぱり出すと、お金がたくさん詰まったその瓶をトチリさんに渡して、
「このお金で、ぼくのお薬代を払ってね。それから、おかあさんが前から買いたいって言ってた、車を買ってね。」
と言いました。クマのお医者さんが、大金にめんくらったトチリさんにはお構いなしに、
「車!そうだ、トチリさん、わしは今、運転手も兼ねた助手を探しているんだがね。どうだろう。シュンと一緒にうちに来て、住み込みで働いてみらんかね。部屋ならいくらでも余っているし、シュンがわしの家にいれば、働いている間も安心だろう?」
と聞きました。
ブルドッグの刑事さんが、「私どもは警察署の者です。事情は、これからシュンくんがお話ししますが、このお金は、確かにシュンくんの物です。親御さんにお渡しするのを、見届けるために、お待ちしていたのです。」
と話しました。
トチリさんは、あんまりいろんなことがいっぺんに起きたので、びっくりしてしまって、涙をぽろぽろこぼしながら、
「これは、夢じゃないわよね。きっと夢みたいな、すごいことが起きたのね。そして、それは、みんながシュンのために起こしてくれたことなんだわ。」
とつぶやきました。
天使たちは、トチリさんがシュンくんに案内されて、ご馳走の並んだ食卓に着こうとしている時に、そっと家を抜け出しました。
ヨルダは、空を飛んで、天に昇りながら、
「シュンくんを幸せにしたのは、クマのお医者さんや、ブルドッグの刑事さんだったねえ。」
と言いました。
ヒルダは、ちょっと後ろを振り返ると、
「だけど、みんなが幸せそうにしていたから、これでいいのよ!」
と言って、ヨルダと手をつなぐと、また仲良く天を目指しました。
さて、この二人の天使たちは、何か一つだけ、大事なことを忘れているのですが、分かりますか。それは、クマのお医者さんから借りた服で、自分たちが今でももこもこに着ぶくれている、ということです。
ですから、私は、ひょっとすると、来年のクリスマスも、クマのお医者さんの、あの緑色の屋根のお屋敷に、二人が借りた服を返すために、舞い戻って来てくれるのではないかな、と、ちょっぴり期待をしているのです。

おしまい


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あとがき
このお話は、今まで書いてきた作品の中でも、特に気に入った仕上がりになりました。共作に参加された方が、要所要所でアイデアを出してくれたおかげで、想像力が刺激されて、書きはじめの予想以上に、物語が奥行きと広がりのある豊かなものになったからです。
双子の天使、クマのお医者さん、ウサギの母子、小瓶に入ったきらきらしたもの、これら物語の根幹を成しているキャラクターや設定、アイテムは、共作者のnaoさん、かまど猫さん、Sianさんが考えてくれたものです。お三方のアイデアがなければ、この物語自体、成立する事はありませんでした。
一人で物語を書くのに比べて、共作はお話がどう展開するのか分からないという点で、書き進めるのがとてもスリリングでしたし、それを完成させることができた、という事が、私にとって、とても大きな自信になりました。
この経験をまた、次の作品作りに生かして行きたいと思っています。
参加されたお三方、楽しい共作を本当にありがとうございました。^^

Kobito






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