久しぶりに、ファンタジー小説、『魔法使いサキの物語』を書き進めてみました。今回から、第14章が始まります。

第14章では、ナーグリアを脱出して、交易船に潜り込むことができたサキたち一行のその後の様子を、書いて行きます。
サキは現在、フラトの元国境警備団員カイザールと、ナーグリアで出会ったホピンとレカの母娘と一緒に旅をしています。

魔法使いサキの物語
第14章・第1話「三等船室にて」

ギリーニャ行きのナーグリアの交易船、〝コメッサ号〟に潜り込むことに成功したサキたち一行は、三等船室が男用と女用に分けられていたので、カイザールとひとまず別れて、サキとホピンとレカで、船底近くの女用の船室に下りて、くたびれた身なりの人々でごった返したその部屋の片すみに、なんとか三人分の小さな居場所を確保しました。ホピンは晴れて正式な乗客として、長い船旅を過ごすことができることが決まって、心底ほっとしたようで、薄よごれた板壁にぐったりもたれかかると、「私はもうここから動きたくないよ。」と、うなるようにつぶやきました。
すると、ホピンのすぐ横で、すり切れた敷布にくるまった老婦人が、自分の居場所が狭くなったことに腹を立てて、サキたちに、
「あんたたちは、出港の時は居なかったのに、どっから湧いて出たのかね。」
と嫌味を言いました。
レカが、「乗り遅れたので、泳いで追いかけて、やっとさっき乗り込めたのよ。」と答えると、周りの乗客が「そいつはご苦労だったね!」と言ってどっと笑いましたが、サキとホピンは、レカの大胆さに冷や汗が出る思いでした。
この船が、こうもたくさんの乗客を乗せているのは、イストパ(大陸東部)からシンギ半島への航路が、ナーグリアのサドゥから出ているこの交易船の一本しかないからでした。
激しい荒波と、内海から外洋へ急流のように出て行く潮流に逆らって半島に渡れるほどの優れた船艇を建造できるのは、イストパではまだ、魔法動力の発達した小国フラトと、イストパ最大の貿易国家、ナーグリアだけだったのです。
「あたしは今までに貯め込んだ金を、船賃でほとんど持ってかれたよ。でもいいのさ。半島へ渡れば、ナーグリアの通貨は百倍の値打ちがあるんだから。残りの金でも、田畑を買って、夫と二人で使用人を雇って暮らしていけるくらいはあるよ。」
「為替(かわせ)役人が持ち金を預かってくれるから、船旅の間も安心だしね。」
「そうだよ、でも、引きかえの割符(わりふ)だけは絶対に失くしちゃいけないよ。役人から金を返してもらえなくなるからね。」
女たちがあけすけにそんな会話をしているのが、ホピンの肩にもたれて休むサキの耳に聞こえてきました。
「カイザールさんは、一人でかわいそうね。どうしているかしら。」
サキの隣にしゃがんだレカが聞きました。
「あの人は大丈夫よ。強い人だもの。」
「そうかな。時々、お母さんにそっくりって思うのよ。あの人。」
「どこが?」
「寂しがりやなところ。」
「うん。」
サキは、ちょっとホピンの方を見ました。するとホピンは、目を閉じたまま、
「おませさん。あなたも疲れたでしょう。お休みなさい。」
と、たしなめるようにレカに言いました。
「あら、寝たのじゃなかったの。」
「あなたを野放しにして眠れるほど、お母さんは気丈夫じゃありませんよ。」
サキとレカは、思わず大きな声で笑いましたが、隣の老婦人が目をむいてにらんだので、あわてて口を押さえました。

つづく

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ファンタジー小説、『魔法使いサキの物語』の、第13章・第6話を書き進めたので、ご紹介します。
物語の中で、乗り越える事が困難な事柄が起きた時に、それを解決する方法を考え出すのが、創作の上で最も難しい局面だと思います。今回の話も、そういう場面なので、四苦八苦しながら何とか書き上げました。
それでは、文末の挿絵と一緒にお楽しみ下さい。


前回までのあらすじ
ダンケルとマイネは、帽子のベレーズから空飛ぶ舟「カラブネ」の作り方を教えてもらって、図面通りに作ることに成功しますが、そのカラブネは風を操る魔法で飛ばす仕組みだったので、風の魔法が使えない二人はとんだ無駄骨を折らされた事に気が付くのでした。

魔法使いサキの物語
第13章・第6話「カラブネ、空を飛ぶ」

「申し訳ありません。お二人が風を操る魔法を習得されているかどうか、確認すべきでした。」
ベレーズがしょげて謝ると、マイネは図面をあらためて確かめながら、
「僕らも、スナクフ様が何でもご存じのはずだと思い込んで、質問をしなかったのがいけなかったね。」
と言いました。
「なんで俺たちが悪いんだよ。魔法庁への仕官のあては無くなるし、こんなとこまでベレーズを運ぶために旅をさせられるし、飛ばすこともできないガラクタ舟を作らされるし、踏んだり蹴ったりじゃないか。」
ダンケルがふてくされて言いました。
「私が悪いのです。お二人にはご苦労とご迷惑ばかりかけてしまって、本当にお詫びのしようもございません。」ベレーズは今にも泣き出しそうでした。
「まあ待ってよ。カラブネが飛ばないって決まったわけではないよ。」
マイネがとりなして言いました。
「何だって?」
ダンケルが頭をもたげて聞いたので、マイネは、
「追い風の風力で進むのではなくて、電気分解した海水の爆発の噴射力で進む構造にしてみてはどうかな。」
と提案しました。
ダンケルはベレーズと顔を見合わせましたが、それがどんなものか、どちらもよく分からない様子でした。
「上手くいくか分からないけど、とりあえず作ってみるよ。ダンケルも手伝って。」
「嫌だよ。俺は手伝わないよ!」
ダンケルが寝返りを打ってそっぽを向いたので、マイネは「気が向いたら頼むよ。」と言って、一人で馬を連れて材料を集めに出かけました。
しばらくすると、マイネは馬に材料を積んで戻って来て、カラブネを作った時と同じように、海藻と毒キノコを煮詰めて、崖の土と混ぜ合せて、汗だくになりながら、白い粘土を作りました。
「ああっ、私もお手伝いできたら良いのですけれど……。」
ベレーズが申し訳なさそうに声をかけると、マイネは、「いいよ。もう一人、手の空いた人がいるからね。」と言って、練り上がった粘土で、今度は細かな部品を作りはじめました。
「俺は手伝わないぞ!」少し離れたところで、横になったダンケルが、目を閉じたまま言いました。
マイネはせっせと部品を作り続けましたが、複雑な形が多いのと、寸法を正確に測らないといけないので、一人では思うように作業が進まない様子でした。
「そろそろ粘土が固まりはじめます。どうでしょう、間に合いそうですか?」ベレーズがたずねると、マイネは額の汗を拭いて、作業を進めながら、
「ちょっと厳しいなぁ。」と答えました。
「何を手伝えばいいんだ。」
いつの間にか、ダンケルがマイネのそばに立っていて、口をとがらせながら聞きました。
「これに書いてる通りの部品を作って。」マイネは微笑むと、隠しから手描きの図面を取り出してダンケルに渡しました。
「用意周到なんだからなぁ。」ダンケルは苦笑いすると、腰を下ろして粘土を加工しはじめました。
ダンケルの加勢のかいがあって、部品はすべてそろったので、マイネはそれらを組み立てて、たき火で焼き固めて、壺のような形の、奇妙な機械を完成させました。
ダンケルは、それをカラブネの後部に取り付けながら、
「動かしたとたんに大爆発!ってことにならなきゃいいがな。」と言いました。
「僕もそうならないことを祈るよ。」マイネも、あまり自信はなさそうでした。
「しかし、こんな小さな舟じゃ、馬も荷も置いていくしかないな。」
ダンケルが言うとベレーズが、
「私が入っていた小箱なら、馬や荷を入れて運べるかもしれません。」
と答えました。
「まさか。あんな小さな箱に馬や荷なんか入るかよ。」
「物は試しだ。やってみようよ。」マイネが馬に負わせた荷袋から小箱を取り出して、それに馬の前脚のひづめをはめ込んでみました。
すると驚いたことに、馬が荷袋ごと瞬く間に小さくなって、小箱の中に落ち込むように吸い込まれて行きました。
すっかり馬の姿が見えなくなったので、小箱の中を覗き込むと、手のひらに載るくらい小さくなった馬が、とまどった様子でか細くいななきながら、こちらを見上げていました。
「ひえー。信じられない。子ねずみくらい小さくなったよ。」
「たまげたな。こんなすごいミュステルだったのか。」
ベレーズが誇らしげに、「たいしたものでしょう。三法者の書に記された魔法の中でも、極めて難易度の高い魔法が施されたミュステルです。しかも、三法者のヌマ様がその手でお作りになった、世界にたった二つしかない、大変貴重な小箱なのですよ。」と言ってから、
「ただ、あまり大きなものを入れっぱなしにしておくと、魔法が壊れてしまって、元の大きさに戻せなくなってしまうので、遅くとも五日後には取り出して下さい。」と付け加えました。
「この舟がちゃんと飛んで、大爆発もせずに、無事にシンギ半島にたどり着く事ができたらな。」
ダンケルは早くもカラブネに乗り込んで、船首に座ると両手でしっかりへさきにつかまりました。
マイネは「馬をなだめててね。」と言ってベレーズを小箱の中に入れると、ふたを閉じて、それを懐に入れてから、「僕は操縦に専念するから、ダンケルは常に舟の平衡を保つことに集中してね。」と言って、カラブネの船尾に飛び乗りました。
マイネが機械の上部に取り付けた管に手を添えて、短い呪文を唱えると、ボンという破裂音と共に壺型の機械の口から熱水が噴き出して、カラブネが岸から離れて沖へ向けて進みはじめました。
「漕がなくてもいいなんて便利なもんだなぁ。」
快調に進むカラブネに、ダンケルが感心して言いました。
「まだまだ序の口だよ。ここからが本番。」
マイネがまた呪文を唱えると、カラブネはさらに速度を上げて、舟底が水面からしだいに浮き上がり、やがて四本の足だけで、滑るように海上を走りはじめました。
ダンケルは姿勢を低くして進路を見据え、一心に舟の平衡を保っています。
マイネはそこでさらに、力を込めて呪文を唱えました。
ゴオオオオ!機械が火を噴くような激しいうなりを上げ、カラブネは静かに水面を離れて、飛魚のようになめらかに低い空を滑空しはじめました。
「飛んだ飛んだ!飛んでるぞ!」
ダンケルが前を見据えたまま叫びました。
「やったぁ!飛んだ!飛んだ!」マイネも帆柱につかまって叫びました。
ダンケルは平衡を保つのに慣れて来たので、ちょっとマイネを振り返って大声で言いました。
「お前は凄い!一流のミュステル職人だ!」
カラブネは、西日を浴びて、真っ白に輝きながら、はるか南の半島を目指して、風を切りながら真っすぐに飛んで行きました。

つづく

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【空を飛ぶカラブネ】



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ファンタジー小説、『魔法使いサキの物語』の、久しぶりの更新です。
このところ、がっかりする事や、落ち込むことが多くて、創作も滞りがちになってしまいました。
ただ、作品を書いていると、気持ちが晴れて来る面もあるので、ぼちぼちがんばって取り組みたいと思います。

今回は、第13章・第5話です。

前回までのあらすじ
帽子のベレーズが空飛ぶ舟「カラブネ」の作り方を教えてくれると言うので、ダンケルとマイネはその代わりに、シンギ半島に渡ってからも、サキを捜す事を約束したのでした。


魔法使いサキの物語
第13章・第5話「カラブネ」

ダンケルとマイネは、ベレーズからまずは南の海岸へ行くように言われたので、二時間ほど歩いて、岩場の小さな入り江に来ました。
岸から見ると、海の中には紫色の海藻がたくさん生えていて、潮の流れに絶えずゆらゆらと揺らめいていました。
「あの海藻を、鍋一杯集めて下さい。」
ベレーズが言うので、ダンケルは海に入って行って、生い茂った海藻を二、三本根元から引き抜くと、岸に置いた鍋に運んで来ました。「やけにべたつく海藻だな。」
手や足に切れ端がへばり付くので、ダンケルは海水で洗い流そうとしましたが、なかなかきれいに落とせませんでした。
「そのべたつきが良いのです。お次は、海岸沿いを東へ行って下さい。そこに小高い灰色の崖があるので、今度は麻袋いっぱい、崖の土を集めて下さい。」
ベレーズの言葉通り、二人が東へ行くと、海岸のそばに、灰色の小高い崖が見えてきました。
崖の土は手で削れるほどもろくて、しかもとても軽かったので、麻袋いっぱい詰めるのに、大した手間はかかりませんでした。
マイネが麻袋を片手で持ち上げて、「こんなもんでいいのかい。」と聞くと、ベレーズは、
「ええ、十分です。」と答えて、
「お次は、この崖の上に生えている、とがった葉を茂らせたやせた低木の根元を掘って、丸くて黒いきのこを探して、きっかり三粒集めて下さい。」と、言いました。
二人はゆるやかな斜面を登って、灰色の崖の上に出ました。そこには、ベレーズの言ったとおり、とがった葉を茂らせたやせた低木がまばらに生えていました。二人はさっそく、その木の根元を掘りはじめました。しばらくは、何も見つかりませんでしたが、方々掘っていると、やがて、土の中から、黒くて丸い、胡桃(くるみ)くらいのきのこが出てきました。
「おいしそうな匂いだな。」
ダンケルがしわだらけのきのこを鼻に近付けて、食欲を誘う甘やかな香りをかいでいると、ベレーズは、
「それはブタゴロシという猛毒のキノコですので、間違っても食べてはいけませんよ。」と注意したので、ダンケルはあわてて鼻から離しました。
二人は半時間ほどかけて、その毒キノコを、きっかり三粒集めました。
「では、海岸に戻って下さい。そこで、集めた材料を加工する手順をお教えします。」
海岸に戻ると、二人はベレーズの指示に従って、海藻と毒キノコの入った鍋を火にかけ、真水を加えて温めはじめました。
時折、魔法で起こした電流で刺激してやると、さっきまで良い匂いを漂わせていた毒キノコが、次第に猛烈な悪臭を放ちだしたので、二人はたまらず、布で口元を覆うと、煮汁がドロドロになるまで、ひたすらかき混ぜつづけました。その煮汁を、岩場に半分あけた崖の土にまぶして、顔を背けながら素手でこね続けると、次第に色が白っぽくなって、臭いもなくなって来たので、残りの崖の土を加えてさらに練り続けました。
日が暮れて、すっかりあたりが暗くなった頃、でき上がったのは、まっ白くて柔らかな、大きな一かたまりの粘土でした。
「ここからは、時間との戦いですよ。粘土が固まってしまうまでに、カラブネの原型を作ってしまわなければなりませんから。」
「カラブネの原型ってどんなのさ。」
「ここに図面がありますので、この通りに。」
ベレーズがいつの間にか、口に図面をくわえていたので、マイネは、
「怖いくらいに用意周到だなぁ。」と感心しました。
図面には、脚が四本ある奇妙な帆舟が描かれていて、図の内側や外側には、各部の寸法や角度、それに、細部を仕上げるための魔法の種類が、びっしりと書き込まれていました。
幸い、マイネは図面が読めたので、ダンケルに作業の手順を教えながら、粘土を伸ばしたり貼り付けたりして、船体の大まかな形と、脚や帆柱などの部品を作って行きました。
寝ずの作業のかいがあって、夜明け頃には、船体や部品が全てでき上がったので、二人はそれを組み立てて形を整え、魔法でたき火の火力を高めて固く焼き上げると、冷めるのを待ってから、麻布の帆を帆柱に二枚張って、どうやら図面通りの帆舟を完成させることができました。
ダンケルは波打ち際に帆舟を浮かべると、
「ミュステル職人も顔負けのきれいな出来栄えじゃないか。」
と、朝日を浴びてまぶしく輝くその真っ白な船体を満足そうに眺めました。
「でも、こんな舟が、僕らを乗せて本当に空を飛ぶんだろうか。」
マイネが、舟をよくよく見て、疑わしそうに言いました。
「もちろんです。風を操る魔法で走らせるだけで、簡単に空を飛ばすことができます。」
ベレーズの言葉に、ダンケルとマイネはけげんそうに振り返ると、「俺たちは風を操る魔法なんて使えないぜ。」と声をそろえて言いました。
「え?お二人は、魔法使いの試験に合格した、正式な魔法使いなのでは?」
「魔法使いの試験は、水を御する試験、火を御する試験、雷を御する試験の三つじゃないか。風を操る魔法は必須科目じゃないよ。」
「そんな、風を操るなんて、ごく初歩的な魔法ではないですか。」
「ああぁ!なんてこった!カラブネ作りは全くの無駄骨か!」
ダンケルはへたり込んで岩の上に大の字に倒れ込みました。

つづく


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【カラブネを作るダンケルとマイネ】


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きょうは、オリジナルのファンタジー小説、『魔法使いサキの物語』の、第13章・第4話を書き進めたので、ご紹介します。

前回までのあらすじ
魔法長官スナクフの帽子ベレーズは、ダンケルとマイネに、白い影の正体が三法者の一人ミタマの魔法であることや、サキの両親セイヴァンとニールスエスタと、ミタマとの関係のことなどを話して聞かせました。
はじめはベレーズがだましていたことに怒っていたダンケルも、話を聞くうちに、魔法長官スナクフの深い考えがあってのことだったのだと分かって、ベレーズを許すのでした・・・。


魔法使いサキの物語
第13章・第4話「二日でシンギ半島に渡る方法」

「それで、スナクフ様は僕らにどうしろと?」マイネが聞きました。
「サキ様を探して、私を渡してもらいたいのです。私はスナクフ様からサキ様への言づてを預かっているのです。ただ、今すぐ渡しては、ブランの影響力が強過ぎますから、お二人がサキ様に追いついた時が、最善の頃合いであろうとの事でした。」
「サキはもうナーグリアの交易船に乗って、シンギ半島に渡ってしまったんじゃないかな。僕らだって、帰ろうとしている故郷はシンギ半島にあるんだけど、交易船は二ヶ月しないと戻って来ないし、その間にサキはもっと遠くに行ってしまうよ。」
ベレーズはすかさずマイネに、
「カラブネを作るのです。」と言いました。
「カラブネって何だい。」
「空を飛ぶ舟です。それを用いれば、シンギ半島のギリーニャまで二日で着けます。」
「そんなすごい物、平平の魔法使いの俺たちが作れるかよ。」ダンケルがあきれて言いました。
「作り方は、私がスナクフ様から聞いているので教えます。お二人は私の言う通りに、材料を集めて下さい。」
「ちょっと待て。俺たちは、まだサキを追うとは決めてないぜ。故郷に帰りたいだけなんだ。話を聞くと、サキは相当やっかいな問題に巻き込まれてる。仕官するはずだった魔法庁もなくなったし、俺たちが危険を冒してまでスナクフ様の指示に従う理由はない。」
ダンケルがきっぱりと言うと、ベレーズはあっさり、「そうですね。お二人はスナクフ様の弟子でもありませんから、スナクフ様の指示に従う理由はありません。」と認めました。
そして、
「これはお願いなのです。サキ様がナップにたどり着いて、カン・ソク様を救い出すには、私がスナクフ様から預かった言づてがどうしても必要なのです。私が自力でサキ様のもとへ向かえたらいいのですが、それが無理な以上、信頼できるお二方に、その任をお頼みするほかはないのです。」と言いました。
「勝手な理屈さ。俺たちは、サキに貸しはあっても、借りはこれっぽっちもないんだからな。」
ダンケルがつっぱねると、ベレースは心細そうにマイネを見上げました。
マイネは腰に手を当てて考えていましたが、
「ギリーニャまで二日で着けるなら、サキとの距離は相当縮まるだろうね。僕らは、サキを見つけられるだろうか?」
と聞きました。ベレーズは勢い込んで、
「もちろんでございます。お二人がサキ様を見つけると確信していたからこそ、スナクフ様は私をお二人に委ね、また、カラブネの作り方まで、私に教えておいたのですから。」
と答えました。
「おいおい、僕らって言うなよ。俺はもう降りるぜ。」
ダンケルがマイネに言いました。
マイネは、「スナクフ様からもらった報酬や旅費が、まだたんまり残ってるだろ。それに、どうせ向かう方角は同じなんだし、ベレーズはカラブネの作り方を教えてくれるって言ってるんだから、無事にギリーニャに着けたら、少しくらいサキを探してあげたっていいじゃないか。もし、ギリーニャでサキが見つからなかったら、ダンケルはそこで役目を降りたらいい。僕はサキを探しながら、エレスの師匠のところに向かうよ。」
「お前は律儀すぎるんだよ。」ダンケルはぼやきながらも、
「ナーグリアの北の海から大回りしてシンギ半島に帰る道のりを考えると、本当に二日でギリーニャに着けるなら、有り難いなんてもんじゃないからな。」と、あごを撫でながらしばらく考えたあとで、ベレーズを見おろして、
「よし、サキがあんまり遠くへ行ってない事を祈るんだな。」と言いました。
ベレーズは、
「では、急いでカラブネの材料を集めましょう。」
と、二人を急かすように、左右のつばをパタパタと揺らしました。

つづく

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オリジナルのファンタジー小説、『魔法使いサキの物語』の、第13章・第3話をご紹介します。
今回は、この物語の根底にある謎の多くが、帽子のベレーズによって打ち明けられて行くという、重要な回です。
これまでに登場した人物を大まかにまとめた、「登場人物相関図」も書いてみたので、テキスト末尾に貼っておきます。参考にしながらお読みください。

前回までのあらすじ
サキの帽子のトミーが入っていると思っていた小箱には、魔法長官スナクフの帽子だというベレーズが入っていました。
マイネはあきれ、ダンケルは怒り心頭です。ベレースは、二人をだましてまで、サキを追わせた事情を語りはじめます…。


魔法使いサキの物語
第13章・第3話「白い影の正体」

「なぜ今まで小箱に閉じこもっていたんだい。僕らが旅の間、どんな目にあって来たか、お前だって知ってるんだろう。スナクフ様の考えあってのことにしても、あんまりじゃないか。」
マイネが、ダンケルをなだめるように、穏やかにベレーズにたずねました。
「私だって、どんなにふたを開けて、お二方に事情をご説明したかったかしれません。でも、それはお二方にとって、さらなる危険を招くことになりますので、できなかったのです。」
「どういう意味だ?俺たちに話すとまずいんなら、今だって話せないって事じゃないか。」
ダンケルが、帽子のつばを握る力をゆるめたので、ベレーズはふうっと息をつくと、「今だからこそ、お話しできるのです。お二人は、たった今、サキ様を追う事を完全にあきらめましたから。それが、付きまとう影をまくために、必要なことだったのです。」
「影って、あのモリーの宿場の手前で僕らが見た、白いうすっぺらな人影かい。」
マイネがベレーズに顔を寄せて聞きました。ベレーズは声を潜めて、
「左様です。あれはスナクフ様に掛けられた魔法から生じた影で、ブランと言います。ブランはお二人の監視をし、サキ様にある役目を果たさせるために、お二人やその周囲の人々の行動を操って、サキ様をナップへ向かわせようとしていました。しかし、お二人がサキ様を追う事をあきらめたことで、魔法の効力がなくなり、ブランも消え失せました。だから、私は安心して、お二人に事情を話せるようになったのです。」
「スナクフ様にそんな強力な魔法をかけるようなすごい魔法使いって、いったい誰なんだ。」
ダンケルがたずねると、ベレーズはいっそう声を落として、
「ミタマ様でございます。」
と答えました。
マイネが目を丸くして、
「ミタマ様って、あの、三法者の一人の?」
と、つられて、声を潜めて聞きました。
「スナクフ様はミタマ様のお弟子でございます。ミタマ様は、たいへん用心深い方でしたので、お弟子の方々それぞれに、ご自身の影響力を保つ魔法を、ひそかにかけておられたのでございます。」
「しかし、ミタマ様って、大昔の人だろう。まだ生きていたのか?だって、呪文を刻んだ魔法以外は、自分の死後も効力を残すことはできないんだろう?」ダンケルが聞きました。
「肉体は滅びておりますが、魂はまだ存在しております。その、ミタマ様の魂が封じられている場所が、おそらく東の果てのナップなのです。」
「封じられているって、どういうことだ?」
「ある魔法の実験の失敗で、ミタマ様の肉体と魂は分離され、魂だけが、遠く離れたナップの地に飛ばされ、何らかの方法で封じられているのだろうと、スナクフ様は申しておりました。その、魔法の実験というのが、三法者の書に記されている膨大な魔法の中でも、最も難しいとされる三大魔法の一つである、“死者をよみがえらせる魔法”なのです。そして、その魔法の実験の材料として利用されたのは、サキ様のお父様のセイヴァン様と、お母様のニールスエスタ様でした。」
「ミタマ様は、セイヴァン様がお仕事で命にかかわる重傷を負い、ニールスエスタ様が救いを求めて訪れた時に、ニールスエスタ様をだまして、セイヴァン様を死者をよみがえらせる魔法の材料にしようとしたのです。そして、その魔法の儀式の途中で、ミタマ様がセイヴァン様を救うつもりがないことを悟ったニールスエスタ様は、儀式を妨害して、魔法を失敗させたのです。ミタマ様はその失敗の反動で、肉体と魂を分離させられて、遠くナップまで飛ばされてしまったのだろう、ということです。」
「サキは、ミタマ様の魂が封じられている場所に行こうとして、ナップを目指しているのか?」
「違います。サキ様は、ミタマ様の事も、ミタマ様とご両親とのいきさつも、まったくご存じありません。サキ様は、ブランの力でナップに飛ばされた、お師匠のカン・ソク様を助け出すために、ナップを目指しているのです。」
「なんてこった!サキがカン・ソク様の弟子だと言っていたのは、本当のことだったんだ!」
ダンケルが叫ぶと、マイネも、
「カン・ソク様の安否を、スナクフ様に占ってもらうために、サキはスナクフ様に会いに行ったんだ。」
と、うなづきながら言いました。
「しかし、なんでスナクフ様は、サキに両親の事を話してやらなかったんだろう。お前の話を聞いてると、ミタマ様ってかなりやっかいな人みたいじゃないか。そんなやばい人の魂に、サキが近づかないように、注意してやることもできただろうに。」
「もし、スナクフ様がすべてを話せば、サキ様はミタマ様の魂の力を意識することになり、ブランがもたらす影響を、より強く受ける事になっていたでしょう。まだ未熟なサキ様では、行動すべてをブランに操られてしまう恐れもあったのです。しかし、ブランの力は、すでにサキ様やその周囲の人々にもおよんでおりましたから、スナクフ様は、たとえサキ様を一時的にお守りできたとしても、いずれブランの力が上回ってサキ様を操ってしまうだろうと予見されて、サキ様の魔法使いとしての資質の高さを信じて、因縁のあるこの問題の解決を、サキ様自身に委ねようとなさったのです。」
「ミタマ様は、サキを自分のところに来させようとしているようだけど、それはなぜなんだい?」
「分かりません。スナクフ様は、その点を詳しく教えては下さらなかったのです。」
「スナクフ様は、王様を暗殺する計画を立てていたのか?」
ダンケルのこの質問には、さすがのベレーズも声を荒げて、
「スナクフ様が、どんなにアモス王に忠誠を誓い、また心から慕っておいでだったか、私はそばで見ていてよく存じております。魔法庁の内部に、革命の動きがあることは、スナクフ様も察知して、警戒はしていたのです。しかし、多勢に無勢で、スナクフ様の力では、どうにも抑えようがなかったのです。せめて、暗殺未遂などという濡れ衣を着せられても、アモス王には、スナクフ様の忠心を信じて頂きたかったのですが、それもかなわず…。」と、自分のリボンを噛んでくやしがりました。
ダンケルは、
「分かった、悪かったよ。俺も、スナクフ様がフラトで魔法使いの地位を認めさせたってことを、誇りにしていたんだ。だから、これからもスナクフ様を信じるよ。」
と、ベレーズに味方するように言いました。


つづく
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今日は、オリジナルのファンタジー小説、『魔法使いサキの物語』の、第13章・第2話を書き進めてみたので、ご紹介します。

前回までのあらすじ
サキを追ってナーグリアの国境までやって来たダンケルとマイネですが、ナーグリアでは魔法使いを入国させないために、国境の警備を厳重にしていたので、関所に近付くこともできずに追い返されてしまうのでした。


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魔法使いサキの物語
第13章・第2話「帽子の小箱、ひらく。」

イストパ(フラトやナーグリアを含む、ゴンドラ大陸東端の地域の総称)からシンギ半島に渡るには、ナーグリアのサドゥから出航する交易船に乗るほかに、ナーグリアを西へ横断して、サランダムから陸路で南下する方法もありました。しかし、いずれにしても、ナーグリアには入国しなければいけないので、二人は何か良い手立てがないか、考えてみる事にしました。
「ナーグリアが、審問官のしもべの魔法使いたちも例外視せずに追い出してくれたら、楽なんだけどなぁ。」
マイネがぼやくと、ダンケルは、
「そこがナーグリアの巧妙な所さ。普通の人間が束になっても、一人の魔法使いをとっつかまえることさえ難しいからな。審問官は手下の魔法使いたちに、身の安全と仕事を保障する代わりに、家族を人質に取って、魔法使いが裏切ったり逃げ出したりしないようにしているそうだ。」
「サキはどうしたろうね。ナーグリアに入国できて、交易船に乗れただろうか。」
「あいつがここにたどり着いた頃は、まだ国境の警備もそれほど厳しくなかっただろうから、案外すんなり交易船に乗れて、今は優雅な船旅の最中ってとこかもな。」
「交易船がサドゥに帰港するのは二ヶ月後だろう。サキを追う任務も、これでお手上げだね。」
「他人のことより、とりあえず自分たちの身の振り方を考えようや。」
マイネは、馬に負わせた荷から、地図を取り出して、それを地面に広げながら、
「交易船が戻ってくるまで、この辺で野宿して待つのが妥当だろうけど、その頃には、魔法使いへの取り締まりもますます厳しくなっているだろうから、どうだろう。交易船に乗らないで、シンギ半島に渡る方法として、夜中に、小舟を漕いで海岸沿いを移動して、サランダムを目指すっていうのは?」
と提案しました。
「無理だな。シンギ湾の海流は海岸沿いでもとても強い。陸から気付かれない程度に沖に出なければいけない事も考えると、魔法で波を操れでもしない限り、ぐんぐん東に流されちまう。」
「じゃあ、ナーグリアの北側の海岸に出て、小舟でサランダムを目指す、というルートは?」
「ずいぶん遠回りになるが、穏やかな内海だし、陸は山地続きで途中に大した要衝もないから、小舟でかなり沖を通って旅する分には安全かもな。」
「じゃあ、ナーグリアの北の海を通って、気長にサランダムを目指すって事で、決定だね。」
マイネがそう言って地図をたたもうとすると、「とんでもない!」というかん高い声がしたので、マイネはまた地図を広げながら、「他に妙案があるの?」とダンケルを見上げました。
ところが、ダンケルは、馬に結わえた荷袋が、ごそごそ動いているのを無言で指さしただけでした。
マイネが荷袋をのぞいてみると、あのスナクフから預かった、サキの帽子のトミーが入っている小箱が、ふたを開けたり閉めたりして、袋の中であばれていました。
マイネが小箱を取り出して、「お前さんには悪いけど、僕らはサキを追うのはあきらめたよ。」と話しかけると、小箱のふたが勢いよく開いて、中の帽子が、「考え直していただきます!今すぐに!」と叫びました。
マイネが驚いたのは、それが、テトで見た三角帽子のトミーとは似ても似つかない、リボンのついた桃色の女性用の丸い帽子だったからです。
「お前は誰だい?トミーはどこへ行ったんだい?」
マイネがたずねると、桃色の帽子は、「私はスナクフ様の帽子で、ベレーズと申します。まことに申しあげにくいのですが、この小箱は、サキ様の小箱とよく似ておりますが、全くの別物で、実際はスナクフ様のものです。そして、トミー様が入った小箱は、今でもサキ様が大切にお持ちになっているはずです。」
と、おどおどしながら、早口で答えました。
ダンケルがマイネから小箱を取りあげて、中から帽子をつまみ出すと、「なんだと!じゃあ、スナクフ様は、サキが忘れ物をしたなんて、俺たちをだまして、こんなところまで、サキを追わせたってのか!?」と、今にも帽子を引き裂かんばかりの剣幕でどなりました。
ベレーズは、小箱から出されるとすぐに、人がかぶれるくらいの大きさに広がりました、そして、あまりのダンケルの怒りように、がたがた震えながら、
「さ、さ、左様にございます!しかし、これもひとえに、スナクフ様の、深謀遠慮の為せる業にございます!なにとぞ、このような、役目を、お二方に負わせた事情について、私に説明の機会をお与え下さいますように、平に、平に、お願い申し上げます!」
と、切れ切れの哀れな声で頼みました。

つづく

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オリジナルのファンタジー小説、『魔法使いサキの物語』の、第13章・第1話を書き進めたので、ご紹介します。
この物語は、久しぶりの更新です。

第13章では、フラトの魔法庁からサキを追う任務で派遣されたダンケルとマイネの、その後の様子を書いていきます。
フラトで魔法使いたちによる革命が起きたため、彼らは役人としての職務を失った形となり、現在は、サキの捜索をなかばあきらめて、故郷のシンギ半島に帰ることを一番の目的に旅を続けています。



魔法使いサキの物語

第13章・第1話「革命の余波」

フラトの王、アモスの決定により、フラトにいる魔法使いは全員、国外追放を命じられることになりましたが、その後、魔法使いたちが起こした反乱により、フラトの都テトはあっけなく陥落し、アモスはわずかな手兵に守られながら、かろうじて近郊の都市バライへ逃げのびる事となりました。
フラト全土の魔法使いは、革命が成功した事を知ると、多くの者が革命軍に加わるためにテトの都を目指し、すでに国外に追いやられていた人々も、いっせいに進路を反転させて、もと来た道をフラトへ向けて戻りはじめました。
西の大国ナーグリアでは、国外追放となったフラトの魔法使いが、難民として大挙して押し寄せる事を警戒して、東の国境を封鎖し、フラト側からの入国を一切受け入れないという対策を整えていましたが、大半の魔法使いは、ナーグリアに至る前に、フラトに引き返し始めたので、ナーグリアの国境を訪れたのは、革命の混乱に巻き込まれることを恐れた魔法使いたちと、革命が起きた事をまだ知らない魔法使いたちの、二通りに限られる事となりました。
革命には加わらない事にした魔法庁の元役人、ダンケルとマイネも、それぞれの故郷があるシンギ半島を目指して、ナーグリアの国境にやって来ていました。
魔法庁の役人だった頃の彼らの目的は、サキの忘れ物である帽子のトミーが入った小箱を、サキのもとに届ける事でしたが、それを依頼した魔法長官のスナクフが失脚し、革命に加われという魔法庁の元技師長ヘブの誘いも断った今では、目的と呼べるほど重要なことではなくなってしまっていました。
「ナーグリアではサキを探したりせず、さっさと港へ行ってシンギ半島に渡ってしまうのが賢明だろうね。どうも、フラトの混乱の影響は、フラトだけにとどまらない気がするもの。」
馬に乗ったマイネが言うと、
「革命なんて大それたことをすりゃあ、どこの国も、一層厳しく魔法使いを締め出すようになるだろうからな。」
と、荷を背負って横を歩くダンケルが答えました。
すると、鋭く風を切る音がして、マイネの馬の足元に、何か細長い物が突き立ちました。歩みを止めてよく見ると、棒の上部に灰色の羽が取り付けてあったので、矢だという事が分かりました。
飛んできたのは、ナーグリアとの国境の方角のようです。しかし、まだ国境の関所など見えないので、どこから射て来たのかは、わかりませんでした。
二人はすぐに、きびすを返して、もと来た方向に走りはじめました。矢を射たのは、かなり腕の立つ魔法使いで、二人を射抜かなかったのは、もしその場を立ち去らなければ、今度は命中させる、という警告だと思ったからです。
半時間ほど走ってから、二人はやっと歩調を緩めました。
「一矢目で命中させないところが、魔法使い同士の仁義ってとこだろうか。」
マイネがふり返らずに言いました。
「まだそれほど、フラトからの難民がナーグリアに押しかけていないって事だろう。人数が多くなれば、警告なんて悠長なこともしてられなくなるさ。」
ダンケルは呼吸を整えながら、やっぱり振り向かずに答えました。

つづく


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ファンタジー小説「魔法使いサキの物語」の、第12章・第5話です。
この作品は、前回の更新から、かなり期間が開いてしまいました。その間、他の小説を書いたり、フィギュア作りにいそしんだりしていましたが、そういう寄り道を経ることで、滞っていた筆が走りはじめることを期待していたわけです。

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魔法使いサキの物語 第12章・第5話 『密航』

その夜、サキたちは農場を出て、街から離れた人気のない海岸に向かうと、砂浜に引き上げられていた穴の開いた小舟を手早く修理して、肩を寄せ合うようにそれに乗り込み、カイザールの魔法の力で、風と波を操りながら船出しました。
「この小舟でシンギ半島まで行けないかしら。交易船に審問官が乗っていたらと思うと、近づくのが怖いわ。」
ホピンは寒さにショールをかき合せると、船首に立って舟をあやつるカイザールに問いかけました。
「無茶を言うな。シンギ湾は海流が早くて波も荒い。俺の頼りない魔法では、途中で力尽きてしまうぞ。」
カイザールは舟の操縦に集中しているらしく、振り向かずに答えました。
そして、
「なに、取り締まりが厳しいのは、船が港から出るまでさ。審問官も、国境を越えてまでは追って来るまい。」
と付け足しました。
「お母さん、大丈夫よ。いざとなったら、こっちには腕の立つ魔法使いが三人もいるんだから。捕まえようなんて来た日には逆にやっつけちゃえばいいのよ。」
とレカが言いました。
「ははは。その通りだ。俺たちより、レカの方がどうすればいいか分かってる。」
カイザールが朗らかに笑ったので、ホピンも少し安心して、「みんなで、力を合わせて乗り切りましょうね。」と言いました。
サキは、牢番から聞いた、フラトでの革命の勃発が本当ならば、サドゥの地方長官は出国する交易船よりも、東の国境から流入する人々の取り締まりに人手を割くよう、審問官に命じるだろうと思いました。ただ、サキは革命のことを、カイザールにはまだ話していませんでした。
彼が再びフラトに戻って、今度は革命軍に身を投じようとする事を、心配したからです。
カイザールの操る小舟は沖合に出ると、波を鎮めながら夜明けまでそこに留まりました。
まだ薄暗いうちに、交易船はサドゥの港を出て、波をかき分けながら小舟の方に近付いてきました。
朝霧がうっすらと立ち込めた上、小舟はカイザールの魔法のもやに厚く包まれていたので、交易船の船尾に小舟を付けて、ロープを伝って四人が交易船に乗り込んでも、船員や乗客に気が付かれることはありませんでした。
カイザールはサキたちを物陰に隠れさせると、魔法で船員の一人に扮装して、船長室に忍び込み、船底の三等客室の乗客名簿に、四人の乗客の名前を書き足しました。
これで、密航者たちの船旅の安全は、ひとまず確保できたというわけです。
サキは、カイザールの魔法を操る力、そして用いる魔法の多彩さに、ただただ感心するばかりでした。

つづく

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 きょうは、ファンタジー小説、『魔法使いサキの物語』の、第12章・第4話をご紹介します。
サドゥの審問官カニエに捕らえられ、危うく処刑されるところだったサキは、寸でのところで護送馬車から助け出され、難を逃れることができました。
今回は、どうやってサキを護送馬車から助け出したのか、その種明かしのお話です。

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魔法使いサキの物語 第12章・第4話 『生きた心地』

サドゥ郊外の農場の納屋では、つい今しがた、空飛ぶ幌にまぎれて助け出されたサキが、干し藁の上に寝かされて、カイザールやホピン、それにレカから介抱を受けているところでした。
「ものの見事に上手く行ったわね!ああ、あのみんなの驚きようといったらなかったわ!」
ホピンはすっかり有頂天で、歌い出しそうなくらいはずんだ声でそういうと、冷や汗をかいたサキのひたいに濡れたハンケチをあててやりました。
サキは震える手でホピンの手を握ると、涙目で見上げながら申し訳なさそうに、
「助かった事が分かったら、力が抜けてしまって……。」
と言いました。
「無理もないわ。本当に奇跡みたいな救出劇だったものね。」
ホピンが手を重ねて握り返すと、サキもようやく気持ちが落ち着いてきたようで、ホピンに支えられて少し体を起こすと、みんなを眺めながら、
「火刑にされると聞いて、気を失いそうになったんだけど、その時すがり付いた鉄格子が、封印の魔法の力をあまり受けていない事に気が付いて、もう無我夢中で、鉄を腐らせる魔法を唱え続けたの。」
と話しました。
「護送馬車の檻に刻まれた封印の魔法を、ねずみにかじらせて改ざんしたのさ。全体の封印の効力を増す代わりに、一部分に負荷をかけてもろくするようにな。封印に用いられていた魔法が、ごく一般的なものだったのが幸いだった。しかし、時間的に細工が完全でなかったから、仕上げにお前の力を借りなければならなかったがね。」
カイザールが言いました。
ホピンはうんうんと大きくうなずきながら、
「あなたがカイザールさんの細工に気が付くかどうかが、脱出が成功するかどうかの鍵だったのよ。」
と言い添えました。
サキはカイザールを見あげて、
「助けてくれてありがとう。」
と言いました。
するとカイザールは首を横に振って、
「礼はこの子に言ってくれ。俺たちはあきらめていたんだ。」
と言って、レカの肩に手を置きました。
「ありがとう。」
サキが手を差し伸べると、レカはうれしそうに握手をして、
「カイザールさんは、ねずみをあっという間に調教したり、穴を掘らずに落とし穴を作ったり、風を操って自在に幌を飛行させたり、すごかったのよ。どうして、サキさんを助けられないなんて思ったのか、分からないくらい、すごい魔法使いだわ。」
と言って、羨望のまなざしでカイザールを見ました。
「いや、まったく、驚きなんだが、魔法の力が、少し戻って来ているらしいんだ。」
カイザールは自分の手を、珍しい物でも見るように眺めながら言いました。
サキは、自分が助かった事もさることながら、この三人が、うれしそうにお互いの事を話す様子が、とても幸福に思えて、微笑みながらしきりにうなずいていました。
そうするうちに、生きる喜びが、温かく心と体に満ちて来て、気が付くと、いつの間にか、不安や恐怖は、どこかに行ってしまっていました。

つづく

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【ホピンとレカ】



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 きょうは、ファンタジー小説、『魔法使いサキの物語』の、第12章・第3話が書けたので、ご紹介します。
ナーグリアの東の国境に近いサドゥの町で、審問官に捕らえられたサキは、いよいよ刑を受けるために町の広場に引き出されます。絶体絶命のサキが助かるすべは、はたしてあるのでしょうか?
それでは、描き下ろしの挿絵といっしょに、お楽しみ下さい。

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魔法使いサキの物語 第12章・第3話 『脱出』

翌朝、サドゥの目抜き通りには、刑場の広場へ引き出されるフラトの魔法使いの姿を一目見ようと、町人たちが集まって、護送馬車が通りかかるのを待ち構えていました。
魔法使いの自由が認められていたフラトと違って、多くの国では人々が魔法や魔法使いを目の当たりにする機会が少なく、ナーグリアのように魔法使いを取り締まる目的で、下僕として魔法使いを使役している国であっても、その存在は極力目立たないようにせよとの規定が設けられていました。
ですから、魔法使い狩りで捕らえられた魔法使いへの刑罰を見物することは、町人たちにとって大きな関心事であり、またその量刑の重さ(審問官から魔法使いと断定されただけで死刑)からいっても格好の話題の種なのでした。
そして、今回刑に処せられる魔法使いが若い女であることも、人々の興味をかき立てていました。
「おれは、女の魔法使いというと、ほうきにまたがった婆さんを想像してたがね。」
「そういうのは、魔女というんじゃないか。魔法使いは、老若男女問わず居るもんだ。」
「どちらにしても、妖しい術で人をだましたり、呪いをかけたり、ろくでもない連中だぜ。おれも先日、いつの間にか、ふところの金を盗まれていたし。」
「それはおめえ、博打で全部すっちまったんじゃねえか。どさくさに紛れて何でもかんでも魔法使いになすり付けるのは気の毒ってもんだぜ。」
「ハハハ、おや、来たようだぜ。」
通りの向こうから、頑丈そうな檻付の荷台を引いた馬車がやって来ました。檻には金髪をおさげに編んで男装をした女、サキが入れられていましたが、サキは痛ましいほど真っ青な顔をして、鉄格子にすがりついたまま力なくもたれかかっていました。
魔法使いの処刑は、火あぶりによって行われるのが決まりだったので、炎への恐怖症を克服できていないサキはそれを知って、すっかり腰が抜けてしまったのでした。
その情けない姿を見て、町人たちは魔法使いへの嫌悪をいっそう露わにしました。
「見ろよ、まるで死人みたいな面をしてやがるぜ。もう半分悪魔になっちまってるんだ。悪魔に魂を売っちまうとああなるんだな。」
「よっぽどあくどい事を重ねて来たんだ。自分の罪の重さにふるえてやがるぜ!ざまあみろだ。」
「うちの亭主がわけの分からない病気になっちまったのも、きっとお前たちの仕業なんだろう!子供をたくさん抱えた上に、病人までいて、どうやって暮らして行けってんだい!」
何人かの見物人が、怒りに任せて檻に向かって拾ったつぶてを投げつけました。
そのいくつかは、サキの頭や胸にあたりましたが、魔法を封じられたサキには防ぐ方法がないので、通りを進む間、町人たちのなすがままに仕打ちを受けるしかありませんでした。
やがて、馬車が通りの角にさしかかると、民家の二階の窓から見物していた女が、「あれをごらん!」と大きな声で叫んで空を指さしました。幌馬車用の大きな幌が空に舞い上がっていて、それが護送馬車めがけて落ちてきていました。気が付いた町人たちからざわめきが起こり、その間にも、幌はきりもみしながらまっしぐらに飛んできて、護送馬車の檻に覆いかぶさるように勢いよくぶつかりました。
その拍子に、貨車がガクンと片側に傾いて、まるで幌に押されるようにゆっくりと片輪を浮かせて横ざまに転倒しました。
ものすごい音があたりに響き渡り、見物人たちは魔法使いの力だと思って、恐怖に駆られて悲鳴をあげながらその場から右往左往と逃げまどいました。
幌は強風にあおられてすぐに貨車から引きはがされると、再び勢いよく空に舞い上がり、家々の屋根をゆうゆうと越えて、役人たちがつかまえる間もなくどこかへ飛んで行ってしまいました。
町人たちが騒然とする中、役人たちが駆け寄って、横倒しになった檻を確かめると、鉄格子の一部が折れて外れていて、檻の中はもぬけの殻になっていました。
それらは、ほんのわずかな間の出来事でした。

つづく

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【長編ファンタジー】 魔法使いサキの物語|Kobitoのお絵描きブログ 6.1021.1004.998.983.976.975.970.948.905.896