お久しぶりです。今日は、童話『アンチャンの小人たち』の、第15話を書き進めてみたので、ご紹介します。
『アンチャンの小人たち』は、この15話で完結です。
最終話はとても長い文章になりましたが、一気に読んでしまった方が良いと思って、あえて二話に分割する事はしませんでした。
それでは、さっそく、描き下ろしの挿絵と一緒に、物語をお楽しみ下さい。


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アンチャンの小人たち 第15話(最終話)


そのころスッカラン村では、アンチャン村の冒険者たちを歓迎するために、子供も大人も勢ぞろいでお祝いの準備におおわらわでした。
土手の坂にある村なので、お祭りなどを催す時は、みんな村のまん中の、突き出た平らな大岩の上に、集まることにしていました。村人たちは、坂に掘ったほら穴の家から、椅子やテーブルをそれぞれ持ち寄って、お祝いの会場を整えて行きました。そして、テーブルの中央には、スミレやハコベやオドリコソウの花をにぎやかに飾って、そのまわりに、貝がらのお皿に盛られたメダカの香草蒸しや、いろんな木の実のお団子、アワのお餅入りのスープ、それにホトケノザの蜜と木いちごで作ったジャムや、パンみたいに切り分けられた柔らかいキノコなどを、ところせましと並べて行きました。
そこへ、アシホさんに案内されて、アンチャン村の子供たちが到着したので、村人たちはわっといっせいに拍手して駆け寄りました。
村長のクンダリさんが、みんなの前に進み出て、うやうやしく一礼すると、「スッカラン村へようこそおいで下さった!それも、ものすごい冒険談を持って来て下さったそうで、一同感謝にたえんじゃ!」と言いました。
アンチャン村の子供たちも、かしこまって思い思いにあいさつしましたが、みんないっぺんに話したものですから、村長さんには何と言っているのか、ちっとも聞き取れませんでした。それで、村長さんはあいまいにうなずきながら、「あいさつはこのくらいにして、お祝いをはじめようじゃないか!」と言いました。
村の人たちが、アンチャン村の子供たちの手を取って、宴会の席へ案内しました。川下りの旅に出てから、冒険続きで何にも食べられなかった事を思い出したムスビは、できたてのご馳走の数々を見て、「スッカラン村がなくなっていなくて、本当に良かった!」と思わず大声で叫びました。
村の人たちも席に着くと、クンダリさんは、「さっそくじゃが、食べながらで構わんので、冒険談をきかせてもらえるかの。それを聞いてしまわんことには、わしは気になって気になって、食事ものどを通らんのじゃ!」
と言いました。
村の人たちも、口々に、「そうだ、そうだ!」と叫びました。みんな、ケラから聞いていて、アンチャン村の小人たちが、まれに見る大冒険のすえにスッカラン村にたどり着いた、というところまでは知っていました。けれど、そのまれに見る大冒険、というものが、いったいどんな内容なのかまでは知らなかったので、残らずすっかり聞いてしまわない事には、もう、居ても立っても居られない、といった様子なのでした。
そこで、アンチャン村の小人たちは、代わる代わる食事をご馳走になりながら、川下りをはじめて間もなく小さな渦につかまった事や、鯉のしっぽで空に跳ね上げられた事、最初の舟が沈没しかけて、すんでのところで無人島にたどり着いた事などを、身振り手振りを交えながら話しました。
スッカラン村のみんなは、もう食べる事さえ忘れて、ぽかんと口を開けたまま、肩を寄せ合って話に聞き入っていました。
そして、無人島で新しい舟を見つけたケラが、風のいたずらで、舟にぶらさがったまま空に飛ばされそうになったくだりでは、まるで自分たちがそんな目にあっているように、「ひやー!」といっせいに声をあげました。
さらに、荒れ狂う魚道の急流をくぐり抜けて、とうとうレンガ道でケラを探し当てて、五人そろって新しいスッカラン村にたどり着くことができた、というところまでを話し終えると、みんなはやっとひと息ついて、ぐったり椅子にもたれかかり、深々と深呼吸をして、「無人島に流されたときには、もうだめかと思ったな!」とか、「さいしょのマールマールで、わしはすっかりあきらめてたよ!」などと、感心しきりで語り合いました。そしてその騒ぎがおさまると、みんなは、「もう一回聞かせておくれ!」と、机やお皿をドンチャン叩きながら、声をそろえて何回も何回も言うのでした。
ですから、アンチャン村の子供たちは、同じ話を三回も、繰り返しスッカラン村の小人たちに、話して聞かせなければなりませんでした。
やがて、三回目の冒険談を語り終えて、ムスビがきっぱり、「おしまい。」と言うと、村人たちはようやく満足したようすで、小さな冒険者たちに、さかんな拍手や、「メンボー!」という、かっさいの言葉を、割れんばかりに送りました。クンダリさんも立ち上がって、「いやはや、この上なくすばらしい冒険談をご馳走になったじゃ。そして、おまえさん方も、わしらが腕によりをかけた、心づくしのご馳走をたらふく食べて、すっかり大満足と言ったところじゃ。そこでじゃ、今から歌と踊りと、とりわけゆかいな音楽で、腹ごなしをしたいと思うが、ご都合はいかがじゃな?」と提案しました。
もちろん、アンチャン村の子供たちも反対なわけがありません。
「さあこれを使うんだよ。」
アシホさんがウタオに、栗の実の皮で作った、ポロンにそっくりなモロンという楽器を貸してくれたので、ウタオは大喜びで、歌い手のツキヨといっしょに、スッカラン村の楽手たちが座る小枝の長椅子に加わりました。
「ぽいぽぽいぽい!」
アシホさんの掛け声で、息の合ったさわがしい演奏が始まりました。さわがしいといっても、人間にとっては、せいぜい小さなかねたたきの合奏くらいでしたが、小人たちはその時々の気持ちを音楽にするのがとても上手なので、こんな風にうれしい日に奏でるなら、踊りの大好きな小人はもちろん、はずかしがり屋の小人も、おすまし屋の小人も、のんびり屋の小人も、つられて踊り出さずにはいられないくらい、むやみに面白い演奏になるのでした。
やがて、小枝の上に立ったツキヨが、一番星のかがやく藍(あい)色の夕空を見上げて、鈴のように澄んだいい声で、こんな歌を歌いはじめました。

『大きなもののかえりみぬ
野の片隅(かたすみ)に
蘇(よみがえ)りぬ
うつくしや
うつくしや
小さきものの造る郷(さと)!』

ウタオがモロンを爪弾いて、ツキヨの歌声をきれいに飾ったので、みんなは、「ぽいぽぽい!」とか「メンボー!」とか、感に堪(た)えないといった合いの手を、しきりに入れました。
音楽や踊りは、川向こうから顔を出したまんまるな月明かりに照らされて、ますます陽気に、ますますさかんになって行きました。
やがて、夜が更けて、空に大小のきら星がまたたき出すと、眠たくなったケラは、踊りの輪から少し離れた、静かな木陰に行って、木の枝に腰かけて、大きなあくびを一つやりました。
すると、ケラよりも小さな子供たちが、三、四人集まってきて、ケラの前に並んで座りました。
「さあ、いい子はもう寝なきゃいけない時間じゃないの。」
ケラは自分のお母さんのまねをして、子供たちに言い聞かせました。
ところが子供たちは、
「眠る前に、もう一度、お空を飛んだお話をして!」
と、競うようにケラにせがみました。
ケラはふんふんとうなずくと、これまでアンチャン村や、スッカラン村のみんなの前で、さんざん話した空でのできごとを、もういっぺん、子供たちに、話して聞かせはじめました。
「ぼくをぶら下げた落葉は、どんどんどんどん飛び続けて、ジャージャー(堰・せき)のずっとずっと上を通り過ぎても飛び続けた。それで僕は、どうせみんなにはもう会えないのだし、前から見たいと思っていたカラメロ(海)まで行ってみよう、と思ったのさ。すると、落葉は、そんなところまで行きたくなかったみたいで、だんだん空から下りて、ちょうど、スッカラン村の人たちがチーオプ(めだか)漁をしていた川の上に落っこちたんだ……。」
子供たちがどんなに肩を寄せ合って、またそしてどんなに目を輝かして、ケラの話に聞き入っていたか、あなたにも見せてあげたいくらいです。
本当に、小人たちときたら、三度の飯よりも、こんなに向こう見ずな事が大好きなんですからね。

おしまい


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この童話は、書きはじめたのが去年の3月なので、じつに11か月かけて、完成にこぎつけることができました。
その間に、短編の童話はいくつか書きあげましたが、やはり最後まで書くのが難しい長い童話が一つ仕上がったというのは、格別な嬉しさです。
書きはじめた時には、それぞれの登場人物の性格や顔立ちは、まだあいまいなままでしたが、今でははっきりと、その表情を思い出すことができ、その声の調子まで聞き取ることができます。

物語を紡ぐ面白さ、というのは、新しい世界を自分で作ることができる、という事であり、その世界に対して、生みの親としての責任を持たなければいけない、という事でもあります。
だから、私は読んだ人が明るく前向きになれるような、温かいお話を書こうと常々努力しています。

その想いに、登場人物たちが共鳴してくれた時、物語は活き活きと弾み始め、読んでくれた方にもその通じ合った心が伝わって、温かい気持ちになってもらえるのだろうと思います。

そういうことを、これからも続けて行けたらいいな、と思っています。

Kobito


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 ちょっとご無沙汰でした。

今日は、童話『アンチャンの小人たち』の、第14話を書き進めてみたので、ご紹介します。

前回のあらすじ
川下りの冒険に出たアンチャン村の小人たちは、魚道の急流を乗り切って、ようやく目的地のスッカラン村の近くまでやって来ました。ところが、スッカラン村があったはずの河原には、人間がレンガ敷きの遊歩道を作っていて、小人たちの楽園だった野原は見る影もなくなっていたのでした。



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アンチャンの小人たち 第14話



念のために、小人たちは走ってひょろ長のクヌギのところまで行ってみました。
だけど、村のあったあたりは、やっぱりレンガですき間なくおおわれていて、かろうじてクヌギの木の根元だけが、円く土の地面を残してあるだけでした。
「なんだってニーンマ(人間)はこんな勝手なことするんだ。おおい、居るかぁ!」
ムスビが、レンガを手で叩いて呼びかけ、うつ伏せになって地面に耳を付けてみました。
すると、なんと、「おーい!ここだよぅ!」と、かすかな声で、返事した者があるのです。
それも、どうも聞き覚えのある声で、みんなには、ケラの声のように思えてしかたがありませんでした。
「ケラかぁ?お前も閉じ込められたのかよう。よし、いま出してやるからなぁ!」
ムスビはレンガのふちをつかむと、うんうん引っぱりながら、「おい、みんなも早く手伝うんだよぅ!」とどなりました。
そこで、他の小人たちも大あわてで、レンガのまわりを取り囲むと、力いっぱい引っぱりはじめましたが、ケラの声は、「そこじゃないよぅ。ここだよぅ!」と、さっきよりもはっきりした声で聞こえてくるのでした。
「ここってそこだろう!」
「そこじゃないったらぁ……、ここだよう!ここだよう!」
声がだんだん近づいてくるので、おかしいと思ってみんなが顔を上げて川下の方を見ると、レンガ道の向こうから、ケラが夢中で手を振りながら、何だか見たことのある大人の小人を連れて、いっさんに走って来るのが見えました。
ユニオが真っ先に駆け出したので、みんなも「生きてたのか!」と言ってケラに走り寄りました。
ケラはユニオに抱き付いて、「ぼく生きてたよ!」と言うと、うしろから走ってきた大人の小人を指さして、「スッカラン村のアシホさんだよ。さっき、ぼくの命の恩人になったの。」と言いました。
その人は、以前みんながスッカラン村に来た時に、ペコン(どんぐりで作った打楽器)を叩いて歓迎してくれた、楽器作りがとても上手な人でした。
「この子が空から降って来た時にゃ、みんな本物のミー(神)だと言って大騒ぎになったんだ。だけど、話を聞いてみると、アンチャン村のタクの息子だと言うじゃないか。それで、みんなは大いそぎで歓迎の準備にとりかかることにし、おれは昔の村のあとに来ているかもしれない、おまえさん方を迎えに来たっていうわけさ。」
「スッカラン村はこの石の下に埋まってるの?」
ムスビがたずねると、アシホさんは、
「まさか、埋まってないよ。ずいぶん前に、ニーンマが川下から、この四角い石で河原の草地を埋めたてはじめたから、みんなで話し合って、村を安全な場所へ移しただけさ。いま村は、あのウヌイ(クヌギ)の木の下にあるよ。」
と言って、そこからちょっと離れた土手の斜面に生えた、土手下のひょろ長のクヌギよりももっと小さな、幼いクヌギの木を指さしました。
そして、みんなを土手の方へ連れて行きながら、
「村の人たちがお前たちの冒険談を聞きたくて、耳を長くしてお待ちかねなんだ。早く行こう。」
と急かしました。アンチャン村の子供たちは、旅の疲れもすっかり忘れて、「そうだ!ぼくらは川下りを成功させたんだ!」と言って跳びはねて喜びました。

つづく


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 きょうは童話「アンチャンの小人たち」の、第13話を、書き進めてみたいと思います。

川下りの冒険に出たアンチャン村の小人たちの、一難去ってまた一難の物語です。
落葉といっしょに風に飛ばされてしまったケラは、はたして無事でしょうか?

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アンチャンの小人たち 第13話

ふいに、景色がぱっと開けて、小人たちの舟は、緑の草が茂った川岸の見える大きな川の、波立つ流れの中をゆっくりと進んでいました。
ウタオが振り返ると、先ほどの堰(せき)は、もうずいぶん遠くになっていて、川幅いっぱいに落ちた流れが、堰の下でゴウゴウと白いしぶきをあげていました。
「また沈没だ。だれか乗せてくれえ。」
誰かが大きな声で叫んだので、沖の方を見ると、舟底に穴が開いたらしいムスビが、かいをひしゃく代わりにして、水をしきりに、舟の外にかき出していました。ウタオがすぐに舟をこぎ寄せて、ムスビがすっかり沈んでしまう前に、自分の舟に乗せてやりました。
ユニオはさっきから、じっと目を凝らして、あたりの水面を見まわしています。
ツキヨも波がおさまるのを待ってから、立ち上がって遠くの流れや、岸辺の川沿いをくまなく見わたしました。
けれど、ケラの姿はどこにも見あたりませんでした。
「ひょっとすると、一人でスッカラン村に行ったんじゃないか。」
ウタオの舟に乗ったムスビが、大声でみんなに言いました。
みんな夢中でケラを探していたので、すっかり忘れていたのですが、彼らが目指していたスッカラン村は、もうすぐそこだったのです。
そこで、小人たちは、ひとまずスッカラン村に行ってみることにして、水際の浮草をかきわけて、チドメグサの薄い葉の茂った草むらに舟をこぎ着けました。
河原の土手の下に、一本の若いひょろ長のクヌギが立っているのが、草むらの葉っぱをすかして小人たちに見えました。
あのクヌギは、アンチャン村の大クヌギのどんぐりから育った子供で、スッカラン村がある場所の目印でした。
ケラ以外の小人たちは、川下りをして、この村に来た事が何度かあったので、歓迎のご馳走がどんなに美味しいかや、お返しの、ポロンや歌や踊りの披露がどんなに面白いかを、ケラにも話していました。だから、その話をケラが思い出したなら、スッカラン村の場所も、だいたい見当が付くはずでした。
ところが、小人たちは、草むらをだんだん進んで行くうちに、ケラがスッカラン村にたどり着くなんて、どうしたって無理じゃないか、と思うようになりました。
それはなぜか、というと、あの色とりどりの草花でいっぱいで、秋の収穫だって、きのこや木の実や、村人総出でも集めきれないくらい集まった、すてきな楽しい河原が、ずぅっと先の先まで、赤いレンガで真っ平らに敷き詰められて、まるで、干からび切った砂漠みたいな、さびしい景色に変えられてしまっていたからです。
クヌギの木の横には、二本の鉄柱で大きな看板が立ててあって、そこには、『大自然のさわやか散歩道』と書いてありました。
小人たちには、人間の字が読めませんでしたから、もちろん、その看板に何と書いてあるのかも、分からなかったのですが、でも、もし、私が仮に小人たちに、それを読んで聞かせて、意味を教えてあげたとしても、ぜったいに納得しなかったでしょう。

つづく


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 きょうは、久しぶりに、童話「アンチャンの小人たち」の第12話を、書き進めてみようと思います。
挿絵も、シンプルですが描いてみたので、お話と照らし合わせながら楽しんでもらえると嬉しいです。


あらすじ
落葉の舟で川下りの旅に出たアンチャン村の五人の小人たち(ムスビ、ウタオ、ツキヨ、ユニオ、ケラ)は、途中で大きな白い鯉に舟を跳ね飛ばされて、無人島に漂着することになりました。
さいわい、無人島の山の頂上で、ケラが舟になりそうな落葉を見つけたので、小人たちはふもとから中腹まで一列に並んで、順々に落葉を渡して行って山から降ろすことにしたのですが・・・。

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アンチャンの小人たち 第12話

そんなふうに、ケラは何度かほらと崖っぷちを往復して、落葉を投げ落としました。なにしろ、落葉はどれも、一人乗りほどの大きさしかなかったので、五人分だと五枚必要でしたし、かいを作るための落葉も要りましたし、上手くムスビに舞い降りずに、風に吹かれてどこかに飛んで行ってしまう落葉もあったので、その分、ケラはたくさん、ほらと崖っぷちを往復しなければなりませんでした。
そうこうするうちに、とうとう、ほらの中の落葉があと一枚になったので、ケラは落葉を崖っぷちまで運んでから、「もうこれ一枚きりだよ。逃がさないでね。」とムスビに言いました。ムスビは、「おれが逃がしてるんじゃないや。舟に逃げるなと言い聞かせろよ。」と答えました。
そこでケラは、落葉にしかめっ面を寄せると、「逃げちゃだめだよ。お前が逃げると、ぼくらのうちの誰かが舟に乗れなくなるじゃないか。」と言って、やっかいそうに頭の上に抱え上げました。
ところが、その時ちょうど、川風が強く吹き渡ったものですから、落葉はケラを引っぱって崖っぷちからしきりに空に逃げ出そうとしました。ケラは足をつっぱって踏ん張りましたが、とても辛抱できずに、ふわりと崖から離れると、落葉にぶらさがって、川下の方へふわふわと移動しはじめました。
「どこに行くんだ。もどって来いよう!」
ムスビが叫びましたが、ケラは、「分からないよう!」と言いながら、どんどん石積みの島から離れて行きます。
小人たちは大あわてで、岩山をかけ下ると、ツキヨが作っておいた落葉を切り抜いたかいを受け取って、それぞれの落葉の舟に乗って川に漕ぎ出しましたが、ケラをぶら下げた落葉は、もうずいぶん遠くに飛んで行ったらしく、空のどこにも見当たりませんでした。
「ともかく、舟は持って行ったんだ。堰(せき)を越えて川に落ちたなら、かえって好都合さ。」
ムスビがみんなの先頭を進みながら言いました。
「ごめんよ。ぼくの提案でこんなことになってしまって。」
ウタオに謝られて、ユニオはせわしくかぶりを振ると、「他に、方法、なかったもの。」と言いました。
「ケラちゃんはしっかり者だから、きっとうまく降りてくるわよ。」
ツキヨは、二人に舟を寄せるとこう言って励ましました。
川の流れが速くなってきたので、舟はこがなくてもぐんぐん進みました。
この先には、ムスビの言う(小人たちにとってはナイアガラの滝ほどもある)大きな堰がありましたが、堰の横手には、魚が上流と下流を行き来できるように魚道(ぎょどう)が作ってあったので、小人たちはそっちの方へ舟を進めました。
魚道だって、小人たちにしてみれば、白波の渦巻く危険な急流に違いありませんでしたが、ケラを一刻も早く探さないといけなかったので、一度川岸に上がって、下流まで歩いてから、再び川に出る、なんてのんきなことは、とてもしていられませんでした。
魚道の入り口が近づくと、舟はますます速度を上げて、やがて吸い込まれるように、急な下りの流れに入って行きました。
コンクリートの塀(へい)に囲まれた、左右に曲がりくねった魚道の中は、音がとてもよく響きます。たとえ小人たちが、お互いに声をかけ合ったとしても、波やしぶきが反響した大変なやかましさの中でかき消されてしまったでしょうし、舟が宙返りしそうなほど飛び跳ねていたので、もし騒音に負けじと叫んだりしようものなら、とたんにしたたか舌をかんでしまったことでしょう。
ともかく、目まぐるしく変わる流れの中で、もうへさきを進路に向ける事さえできなくなった小人たちのできることと言ったら、舟から投げ出されないように、舟べりをしっかりつかみ、できるだけ舟の中に水が入らないように、左右から舟べりをしっかり引っぱっておく事くらいでした。

つづく

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 暖かい秋が続きますが、皆さんいかがお過ごしですか?
先日、夕飯に白菜汁をしたら、とても美味しかったので、暖秋でも冬野菜は順調に旨味を増しているようです。
さて、きょうは、オリジナル童話、「アンチャンの小人たち」の、第11話が書けたので、ご紹介します。

落葉の舟に乗って川下りをする、アンチャン村の小人たちの物語です。
今は、舟が沈没して、たどり着いた無人島を探検している所です。

それでは、さっそく、新しい挿絵とともに、お話の続きをお楽しみ下さい。

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アンチャンの小人たち 第11話


「ケラは舟のあるところで待っててくれよ。」
ウタオがそう言ったので、ケラは崖の端から頭を引っ込め、小人たちは、ウタオにうながされて、ひとまず山を下りて行きました。
ふもとの川岸まで来ると、ウタオはみんなを、さっきツキヨと探検した島の裏側の道に連れて行きました。
そこから山を見あげると、中腹の岩と岩の合い間から、頂上が少し見えたので、ウタオは大きな声で、「ケラ、見えるかい?」と声をかけました。
すると、頂上で、小さな小さなケラが手を振っているのがかすかに見えました。
「これから、ケラに舟を投げてもらうから、みんなでそれを受け取るんだ。」
ウタオの説明を聞いて、小人たちはようやく、ウタオの案というのがどんなものか分かりましたし、これ以上ない上手い案だとも思いました。
ウタオは続けて、
「この道は中腹まで登れるから、上の方で受け取る人も決めるんだよ。そうして、上の人から下の人へ、順々に舟を渡して行くんだ。」
と言ったので、ツキヨはすっかり感心して、
「すっごくいい案だわ!」と言いました。
ムスビも安全そうな案だと分かったので、
「なんだ、いい方法か分からないなんて言ってたが、ふつうの名案じゃないか。」
と言いました。
そこで、みんなはふもとをツキヨに任せて、それぞれに斜面を登って、高い方から順に、ムスビ、ウタオ、ユニオというふうに、一列に並びました。
ムスビが、山の頂上を見あげて、「よーそろー!舟を落とせえ!」と叫びました。するとケラが「おーけーさー!」と返して、ほらの中から落葉を一枚担いで来ると、ムスビにねらいを定めて、崖の端から放り投げました。
もし、これが私たち人間だったら、どんなに小さな舟だって、下の人に狙いを定めて放り投げるなんて、とっても危なくて見ていられません。でも、小人たちの舟といえば、薄くて軽いただの落葉ですから、小さいものだったら、こんなふうに一人で担いで来られますし、高いとこから放り投げたって、ふらふら舞い降りるばかりで、ちっとも危ないことはないのです。
ほら、ムスビを見ていると、落葉の動きに合わせて、岩棚の上で右往左往したのち、ちょうど真下で、両手を広げて上手に受け取ったでしょう?
これもまた、小さいって事の便利なところなのです。

つづく

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 秋は、天ぷらの美味しい季節ですね。魚、なす、さつまいも、れんこん、ふっくらカリッと揚げて、ダイコンおろし入りの天つゆにさらりとひたして、衣が柔らかくなったところをほおばる。最高です。

きょうは、新作童話、「アンチャンの小人たち」の、第10話をご紹介します。

アンチャン村の小人たちが、落葉の舟で、川下りをする物語です。

ミニあらすじ
舟が沈んでしまい、無人島にたどり着いて、今はそこを探検している所です。

それではさっそく、挿絵の下から、お話の続きをお楽しみ下さい。



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アンチャンの小人たち 第10話

だから、ユニオもすっかりよろこんで、勢いよく崖をのぼろうとしたのですが、どんなにがんばっても、一二足のぼったところで必ずずり落ちてしまい、てっぺんまでたどり着くなんて、とっても無理そうでした。
そこで、ユニオはケラに、手振りを交えて、「そこで待ってなよ。」と言うと、しばらく足踏みをしてからいっさんに山を下って行きました。
ふもとの川岸では、ムスビがあいかわらず、そっぽを向いて寝転んでいましたが、そのそばには、ウタオとツキヨも、ひざをかかえて、腰を下ろしていました。
そこへ、よたよたユニオが駆けて来たので、ツキヨは立ち上がって、
「私たちの方は、途中で行き止まりになっちゃったのよ。」
と言いました。ウタオが、
「君たちの方は、何かあったかい?」
と聞いたので、ユニオは、荒い息の合い間に、やっとこつばを飲み込んでから、
「舟があった。」
と言いました。
「そりゃすごい!」
ウタオはムスビを揺さぶると、耳元で、「舟があったぞ!」と大声で教えました。
ムスビは半分目を開けて、
「おれも今、舟を見つけるところだったさ。」
と寝言のように答えました。
「夢の話じゃないのよ。ユニオが見つけたのよ。」
ツキヨがムスビの手を引いて、座らせてから言ったので、ユニオはあわててかぶりを振ると、
「ケラだよ。」
と小声で訂正しました。
ムスビが大あくびをして腰を上げたので、小人たちはそろってユニオが下りて来た道をたどり、間もなく、さっきの絶壁の下に到着しました。
崖の上では、ケラが「舟はこっちだよ。早く来て!」と言って、踊りながら飛び跳ねていました。
だけど、ウタオもツキヨも、それからムスビも、崖があんまり急すぎるので、何度登ろうとしても、半分も行かないうちに滑り落ちてしまって、どうしてもケラのところにたどり着けませんでした。
「よくこんなとこのぼったなぁ。」
ムスビが感心して言ったので、ケラは、
「ぼくが得意なのは、がけのぼりと、木のぼりと、山のぼりだよ!」
と胸をはって言いました。
「一人で、こっちまで舟を運んで来れるか?」
「だめだめ。岩のすき間をくぐらなきゃいけないところがあるもの。」
二人のやりとりを聞いて、ウタオが、
「ひとつ方法があるよ。いい方法かは分からないけれど。」
と、自信なさげに言いました。ムスビは、さっきウタオの案を試したら、落葉の舟に乗ったまま、空高く跳ね上げられた事を思い出して、
「オプオプにけ飛ばされる方法か?」
と尋ねました。
「たぶんその心配はないよ。」
ウタオはよく考えてから、肩をすくめて答えました。
それで、ムスビは、「じゃあ、さっきよりはいい方法だな。」
と、しぶしぶ納得しました。

つづく



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 ちょっとご無沙汰でした。
きょうは、童話「アンチャンの小人たち」の、第9話を書き進めてみたので、ご紹介します。
第1話で、私はこの物語について、「中編の童話にしたいので、6話くらいを目標に書き進めて行きます。」と書いたんですが、どうも6話どころでなく、倍くらい書かないと終わりそうにありません。^^;物語を広げ過ぎないように、川下りというシンプルな舞台を用意したんですが、それでも、登場人物五人それぞれの個性を描き切るには、6話ではあまりにも紙幅が不足だったようです。
物語がどのくらいの量になるか、書き始めた時に予測するのは、本当に難しい事です。
では、今回も、描き下ろしの挿絵と一緒に、物語をお楽しみ下さい。

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アンチャンの小人たち・第9話

「何か役立ちそうなものがないか、島を探検してみようよ。」
ウタオの提案に、ムスビは「何にもありゃしないさ。草一本生えない岩の島だぜ。」と言って、面倒くさそうに寝転がりました。
すると、ツキヨが、「ナイナ(探し物)はないと思う所にあるのよ。」と言って立ちあがったので、ケラとユニオも、腰を上げました。ケラは、あごをなでながら、「僕はここにナイナはないと思う、ということは、ナイナはやっぱりここにあると思うよ。」と、いかにも賢そうに言いました。
四人は、ウタオとツキヨ、ユニオとケラの二手に分かれて探す事にして、
「何か見つけたら、ムスビのところに戻って来よう。」と申し合わせてから、
それぞれ、別の方向に歩いて行きました。
このうなぎ捕りの石積みというのは、漬物石くらいの石を、小山のように積み重ねただけの、人間なら一人でも作れる小ぢんまりとした仕掛けなのですが、小人たちにとっては、丘や崖ばかりの、高くて険しい岩山の島でしたから、ユニオとケラは、助け合いながら、汗だくになって、この急な上り下りを乗り越えて、進んで行かなければなりませんでした。
ずいぶん歩きましたが、なめらかな石の道にも、ごつごつした石の道にも、石と石の境目にある大きなすき間にも、役に立ちそうな物はもちろん、役に立ちそうにない物さえ、何ひとつ見つけることはできませんでした。
しだいに、からだは小さいけれど、身軽でせっかちなケラが、運動の苦手なユニオより、少し先を歩くようになりました。
ユニオはケラが、勢い余って崖から転げ落ちやしないかと、ひやひやしながら、ふうふうあえぎあえぎ、ついて行くしかありませんでした。
とうとう、二人は山の頂上近くまで来ましたが、ユニオは目の前のひときわそそり立つ石壁を見て、へなへなとその場にへたり込んでしまいました。
「ユニオはそこで待ってて。ぼく探検してくるから。」
ケラはそう言って、くぼみに足をかけ、伸び上がってでっぱりをつかみ、そのままひょいひょいと、小気味よく石壁をよじ登って行きました。
間もなく、ケラはてっぺんまで登りきると、さらにその上に積み上げられた、お椀をさかさにした形の、まっ黒な大岩を見上げました。ケラは、「ナイナはここになさそうだから、きっとここにあるんだな。」と、自分に言い聞かせるようにひとり言を言うと、その大岩のふちに沿って、ひとまず一周歩いてみる事にしました。
しばらく行くと、大岩の端が、足場の崖っぷちよりも外にせり出していて、行き止まりになっているところがありました。でも、ケラは、大岩の下にわずかなすき間を見つけると、そこを腹ばいになって、身体をくねくねくねらせながら、上手にくぐり抜けて行きました。すると、その先に、少し開けた場所があって、そこの大岩の壁には、雨風もしのげそうな、深くて大きなほら穴が一つ開いていました。
ケラはそのほら穴の中をのぞき込んで、なんだかわけのわからないキーキー声で叫びました。
なぜって、そのほら穴の奥には、色々な種類の枯葉が、きれいな形のまま、たくさん詰まっていたからです。
無人島に取り残された小人たちにとって、これ以上に素敵な光景が、他にあるでしょうか。
ケラはさっきの絶壁に大急ぎでとって返すと、石ころにもたれて休んでいたユニオを見おろして、さかんに手まねきしながら言いました。
「よりどりみどりの舟があるよ!」
こういう時、私は、からだが小さいという事は、本当に素晴らしい事だな、と、思うのです。
なぜなら、私たち人間が、もし岩だらけの無人島に取り残されたとしても、こんなふうに、岩のくぼみに、よりどりみどりの舟が置いてある、なんてことは、めったに、あることではありませんからね。

つづく

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 ちょっとご無沙汰でした。
きょうは、オリジナルの新作童話、「アンチャンの小人たち」の第8話を書き進めてみようと思います。
落葉の舟に乗って、川下りの冒険に出た、アンチャン村の五人の小人たちのお話です。

今回のお話に出てくる、”うなぎを捕るための石積み”というのは、以前私が住んでいた地域の川では、ごく当たり前に見られた漁法で、人が川に入って行って、石と石のすき間に潜むうなぎを手さぐりで探している様子も、目にしたことがあります。

童話の書き方は人それぞれですが、現実に見た事のある光景を物語に取り入れて、無理なく楽にストーリーを書き進めた方が、結果的に感情移入しやすい、親近感のあるお話が書けると思います。

それでは、挿絵の下から、物語の続きを、お楽しみ下さい。

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「アンチャンの小人たち」 第8話

ちょうど、川上から、川風が吹き渡ったものですから、落葉の舟はそれに乗って、するする空をすべり、やがて川の中ほどに人間が作った、うなぎを捕るための石積みの近くまで来たところで、水の上に落ちました。
小人たちは、落葉の縁をつかんで、張り付くように伏せていましたが、おそるおそる顔を上げたムスビが、
「全員無事か?」
と聞いたので、みんなも用心しいしい顔を上げて、それぞれのようすを確かめました。ツキヨは、息をのんだウタオとユニオを見て、それからまだ見てない顔がないか探しましたが、はっと気がついて、「ケラちゃんがいないわ!」と叫びました。すると、小さなケラは、幸いなことに、ユニオの陰から顔を出して、「僕は無事だった!」と言ったので、それで、みんなはようやく安心して、笑顔になりました。
でも、ほっとしたのも、つかの間でした。
「あっ、浸水だぞ!」
ウタオが、舟のまん中あたりに、ひびが入って、そこから水があふれ出しているのを、見つけたのです。
みんなはすぐに、手で水をすくい出しましたが、水はどんどん溜まるばかりで、どんなに急いでも、とても追いつきそうにありません。ウタオは、前方の石積みの島を指さして、「あの島にこぎつけよう!」と言うと、舟べりから手で一心に流れをかいて、舟をそちらに向けようとしました。
みんなも、水をすくい出すのはあきらめて、すぐに夢中で川面をかきはじめたので、舟はだんだん沈みながらも、しだいしだいに、石積みの島の方へ近づいて行きました。
やがて、舟は島のすぐ横を通り過ぎようとしましたが、みんなが、いっそうがむしゃらに水をかきつづけたので、どうにかこうにか、島の下流側の岸にたどり着くことができました。
小人たちは次々に岩場に飛びつくと、そこをはい上がりました。落葉の舟は、もうほとんど水に浸かっていて、小人たちが残らず島に移ってしまうと、透き通った水の中に沈み、ゆっくり回転しながら下流に流されて行きました。
みんなはくたくたに疲れて、丸い岩のてっぺんに座り込みました。ムスビが、すっかり遠くになった川岸を見つめて、「泳いでむこうに渡るのは無理だろうな。」と、つぶやきました。
確かに、私たち人間なら、歩いて渡れるほどの何でもない浅瀬なのですが、小人たちにとっては、海峡みたいな広さの大河を、流れや、渦に逆らいながら、泳ぎ続けなければいけないわけですから、とんでもないことでした。

つづく



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 いよいよ、夏本番という暑さになってきましたね。
きょうは、オリジナルの新作童話、「アンチャンの小人たち」の、第7話を書き進めてみたので、ご紹介します。
小人たちが、落葉の舟に乗って川下りをする、ごくシンプルなお話です。

前回、小さな渦に巻き込まれて動けなくなった小人たちの舟ですが、さて、今回上手くピンチを切り抜けることができたでしょうか。

挿絵は、ハガキサイズのケントボードに鉛筆で描いたものです。
絵を見るだけでも、さらに厄介な事に巻き込まれているのが分かりますね。

では、挿絵の下から、お話の続きを始める事にしましょう・・・。

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ーアンチャンの小人たち 第7話ー

小人たちは、舟が傾かないように、左右に分かれて舟べりにうつぶせると、手やかいで水面をぱちゃぱちゃ叩きはじめました。
こんなことで、ほんとうに魚が集まるのかしらと、みなさんは首をかしげてしまうかもしれませんね。だけど、人間と違って小人たちの立てる音はごくささやかですから、魚たちもびっくりするよりは、何だろうと思って、かえって確かめるために集まって来てしまうものなのですよ。
ほら、さっそく、短い針のようなハヤの子供たちが、ススキのやぶ影からちらほら出てきて、もやもやした雲のような群れになりながら、落葉の小舟に近づいてきましたよ。
あんなちっぽけなハヤだって、小人たちにとっては、両手でやっと抱えられるくらい、大物なんですね。だから、そんな大物たちが、舟のまわりに集まってきて、所せましと泳ぎ回るようすは、大した見ものでしたし、もっとたくさん集めようと思って、小人たちが水面をいっそう力いっぱい叩き続けたとしても無理はありません。
それで、どうなったかというと、沖の方の水草の中で眠っていた、(小人たちにとっては)鯨のように大きな白い鯉が、その騒ぎを聞きつけて、のそりと体の向きを変えると、ゆっくりと舟の方に近づいて来たのです。
ウタオは、そのまぶしく光る鯉が、水面近くを泳いで迫っているのに、ようやく気がつくと、ぎょっとして、「みんな静かに!」と小声で言うと、鯉の方をせわしく指で示しました。
鯉は舟のすぐそばまで来ると、水から顔を出して、オプオプと口を動かしながら、さらに手探りするようにふらふらと近づいてきました。
みんなは舟のまん中で、お互いにしっかり抱き合ってふるえていましたが、とうとう鯉が口先で舟をつつきはじめたので、ムスビが鼻息も荒く立ち上がると、「あっち行け!」と言いながら、鯉のくちびるを、握りしめたかいで思い切りひっぱたきました。
不意打ちにたまげた鯉は、バチャッと身をひるがえして逃げて行きましたが、その拍子に小人たちの舟は、鯉の尾で高々と空に跳ね上げられて、羽根つきの羽根のように、山なりに勢いよく川下の方へ飛ばされてしまいました。

つづく



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 きょうは、新作童話「アンチャンの小人たち」の、第6話を書き進めたので、ご紹介します。
小人たちが、葉っぱの舟に乗って、川下りをする物語です。

挿絵は、川下りをしている五人の小人たちの特徴が、より分かるように正面から描いた紹介画です。

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ーアンチャンの小人たち 第6話ー

舟に振り回されて川に落っこちそうになったケラは、ユニオから服をつかまれて尻もちをつくと、まるで公園の遊具で遊んでいるように「とまれぇ。」と言いながらすっかりはしゃいで笑いました。
めいめい、振り落とされないように身を低くしていた小人たちは、ケラの赤ん坊のようにかん高い笑い方があんまり愉快だったので、思わずつりこまれて笑ってしまいました。
それにしても、どうやってこの渦から、舟を抜け出させたらよいのでしょう。
「一つ方法はあるんだ。でもあんまりいい方法じゃないよ。」
ウタオが言ったので、ムスビが、「何も方法がないより、いい方法じゃない方がましだな。」と言って話をうながしました。
そこでウタオが言いました。「漁をする時の要領で、オプオプをおびき寄せるのさ。舟の下でオプオプが泳ぎ回れば、流れが変わって、マールマールから抜け出せるかもしれない。」
漁というのは、水面をかいや棒切れなどで叩いて、小魚をおびき寄せる、小人たちの昔ながらの知恵です。
「とってもいい考えだわ。ねえユニオもそう思うでしょう。」ツキヨがたずねたので、ケラを抱えたユニオは、もちろんと言うように深々とうなずきました。


つづく




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【中編童話】 アンチャンの小人たち(完結)|Kobitoのお絵描きブログ 41.770.767.763.749.729.719.700.697.675.673