きょうは、久しぶりに、ファンタジー小説『忘れかけていた物語』の、第13話を書き進めてみたので、ご紹介します。
ルイス・キャロルの『不思議の国のアリス』のような、ナンセンス童話にしたいと思って書いています。




登場人物

少女=さえ
かえる(大)=ブーン
かえる(小)=チョコ
緑の小人=グル
赤い小人=ピコ
蝶=フール
テントウムシ=ピック
樹木=トンおじさん
ロバ=ローマン
操り人形=ジョージ
猿=チャッキー
熊=リリィ
悪い魔法使い=ズル

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忘れかけていた物語 第13話 「テーブルにさえが舞い降りた」

さえは穴のふちにひざまずいて、「おーい!落着した?」と問いかけましたが、声はずいぶん深くまで響いて行って、耳を澄ましても、返事はちっとも聞こえませんでした。
「声が届かないくらい穴が深いか、もしくは、声に届けようという気がなかったんだな。」
ジョージが穴をのぞき込みながら、残念そうに言いました。
ローマンがさえの横に来て、「ぼくに乗りなよ。どんなに深くても軟“落着”できるよ。」と言いました。チャッキーがローマンの頭の上に飛び乗ると、急かすようにキーキー鳴いて、さえを手招きしました。
さえはリリィをだっこすると、「お願いするわ。でも、私ロバにもポニーにも、またがるなんて生まれて初めてよ。」
と言いながら、ローマンの背にまたがりました。
「忘れてるだけさ。自転車と同じで、一度覚えたら、乗ってるうちに思い出すよ。」
ローマンはひょいと穴に飛び込むと、泳ぐように前脚を動かしながら、木の葉みたいにひらひらと舞い降りて、首っ玉にしがみついたさえが明るさに目を細めた時には、もう穴底の広い部屋のテーブルの上に立っていました。
部屋は土を固めた黄色い壁に囲まれていて、テーブルの他にも、食器棚やクローゼットや、暖炉まである、気持ちのいい居間になっていました。
テーブルには、名前のない宝石が明々と灯ったランプに、花柄のティーポットに、六つの小皿が置いてあって、取り囲んだ椅子には、ブーンとトンおじさんとピコが、もぐらのような毛むくじゃらの二人の穴底人と並んで、緑茶の注がれたティーカップを、守るように胸に抱いて座っていました。
「はじめまして。素敵なお部屋ね。」
さえはみんなが妙に黙りこくって見上げているので、間が悪そうにあいさつしました。
「ありがとう。だけど、初対面の人がテーブルの上でロバにまたがってあいさつするなんて、いかがなものかと思うよ。」
穴底人の奥さんが、小さな目をつりあげてぴしゃりと言いました。
すると、となりの席の、よく似た顔の穴底人の旦那さんが、
「出入り口の真下が居間のテーブルというのが、そもそも具合が悪いのさ。」
と、奥さんに聞こえないように、となりの席のトンおじさんに言いました。
さえはローマンからおりて、テーブルからも下りると、
「ごめんなさい。私、軟落着する事ばかり考えて、ここがおもてなしの席上だなんて、想像もしていなかったんです。」
と言って頭を下げました。
「お前さんが乗っているのは席上じゃなくて机上だよ。それに、お行儀が二の次ってのは感心しないね。」
穴底人の奥さんはそう言ってから、「お行儀を重んじる王母さまの前だから、良い所を見せようと思って、叱っているんじゃないよ。」と付け足しました。
「もちろんです。あなたは根っからの教育家ですわ。」
ブーンが片手にティーカップを持ち、片手にチョコの入った真鍮鍋を抱えながら、鷹揚(おうよう)にうなずきました。
「私は、よその子だって、地上の子だって、遠慮せずに叱りますよ。ええ、それが責任ある大人の役目ってもんですからね。」
穴底人の奥さんは、誇らしげにツンと鼻を上向けると、熱い緑茶を一気に飲み干しました。
「王母さまだって、テーブルの上からごあいさつなさったんだぜ。その時俺たちは、昼食のじゃがいもを食ってたんだ。」
穴底人の旦那さんが、奥さんやブーンに聞こえないように、今度はさえに耳打ちしました。

つづく




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『テーブルにさえが舞い降りた』


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 きょうは、久しぶりに、ファンタジー小説『忘れかけていた物語』の、第12話を書き進めてみたので、ご紹介します。
前回の第11話の公開が去年の9月ですから、じつに半年ぶりの更新です。
行き詰まりの原因だった、筋書き上の不満点が、頭の中で解決できそうなので、これから書くペースが上がって行くことを自分でも期待しています。

下記が、主な登場人物とこれまでのあらすじなので、読み進める際の参考にして下さい。


主人公の少女=さえ
王母のかえる(大)=ブーン
王のかえる(小)=チョコ
緑の小人=グル
赤の小人=ピコ
ステンドグラスの蝶=フール
テントウムシ=ピック
くすの木=トンおじさん
ロバ=ローマン
操り人形=ジョージ
小猿=チャッキー
ぬいぐるみのくま=リリィ
悪い魔法使い=ズル

前回までのあらすじ
十五歳の少女さえは、小さなころは、空想が大好きでしたが、あんまりおかしなことばかり言うので、心配した両親から、空想をやめるように注意されました。
さえは両親を安心させるために、物語を書きためていたノートを、ちり紙交換に出しました。それから何年も経って、さえは物語の内容もすっかり忘れてしまいましたが、ある日、熱を出して寝込んだ時に、妙な世界に迷い込んでしまい、そこで暮らすおもちゃやぬいぐるみたちと出会います。彼らは、悪い魔法使いのズルから物語の世界を取り戻そうとしていて、ズルのところに行くためには、さえの協力が必要だと言うのでした・・・。

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忘れかけていた物語 第12話 「トンおじさんの落着」


「今度こそ、何もかもうまく行きましたね。それではみなさん、ズルの城はまだまだ遠いのですから、道草しないで直ちに出発しましょう。」
ブーンはリリィからまぶしく輝く“名前のない宝石”の小瓶を受け取ると、それをチョコに持たせて、明るくあたりを照らしながら、みんなの先頭に立って森の中を進みはじめました。ところが、大福のように丸いお腹で、しかもチョコを入れた真鍮鍋まで抱えていたので、穴底人の落とし穴が、目の前に開いていることに、まったく気が付きませんでした。それで、まともに片足を突っ込むと、ブーンはチョコを抱えたまま、深い穴の中を、「あれよ、あれよ!」と言いながら、まっしぐらに落っこちて行きました。
「まあ、たいへん。トンおじさん、落とし穴に頭を突っ込んで、ブーンをすくい出してちょうだい、早く。」
フールがトンおじさんの頭の葉っぱを引っぱりながら叫びましたが、トンおじさんは、
「わしはもう逆さに地面に植えられるのは、まっぴらじめん、もとい、まっぴらごめんじゃ。それに、丈(たけ)が伸びれば伸びるほどお日さまが遠くなるなんて、一族草木の信用に関わる!」
と言って、なかなか承知しませんでした。
そこでさえがひらめいて、
「そうよ、かならず頭から突っ込む・・・入ってもらうことはないのよ!木が誰でもやるように、根っこを地面に下ろして、ブーンをすくい出してくれればいいのよ!」
と言いました。
トンおじさんは、「そんなら一族草木の十七番じゃ。もとい、それに足すことの一番じゃ!」と言って、善は急げとばかりに、落とし穴にひょいと身を任せましたが、穴の間口が思いのほか広かったので、さっきの落とし穴のように途中で引っかかったりせずに、両手を広げたまま、暗闇の中を「あれよ!あれよ!」と言いながら、落っこちて行ってしまいました。
「飛んだことになった!」
さえはすっかりおろおろして、穴のまわりを歩き回りましたが、ピコは、「いや、トンおじさんは『落ちた』ことになったんだぜ!」と言って、「それに、トンおじさんが『落着』してくれたおかげで、かえってわしらの心配事も片付いたってわけだ。」と、せいせいした顔をしました。
「トンおじさんが落着したら、どうして心配事が片付いたことになるのよ?」とさえが怒って聞きました。するとピコは、「それが、とこやみの森の秘密だからさ。」と答えると、穴のふちに立って、「さあ、みんなも早いとこ落ちたことになってみな。」と言って、みんなが止めようとするのも聞かずに、「あれよっ!」と穴に飛び込んでしまいました。

つづく


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 こんにちは。
きょうは、久しぶりに、ファンタジー小説、「忘れかけていた物語」の、第11話を書き進めてみたので、ご紹介します。

このお話は、ルイス・キャロルの、「不思議の国のアリス」のような、奇想天外なユーモア小説にしたいなと思いながら書いています。
”アリス”のような突拍子もない、それでいて無理のない展開にするのは、けっこう難しくて、長いこと考えては、少し書き進める、という感じで取り組んでいます。

下記が、登場人物と、あらすじです。

少女=さえ
かえる(大)=ブーン
かえる(小)=チョコ
緑の小人=グル
赤い小人=ピコ
蝶=フール
テントウムシ=ピック
樹木=トンおじさん
ロバ=ローマン
操り人形=ジョージ
猿=チャッキー
熊=リリィ

あらすじ
十五歳の少女さえは、小さなころは、空想が大好きでしたが、あんまりおかしなことばかり言うので、心配した両親から、空想をやめるように注意されました。
さえは両親を安心させるために、物語を書きためていたノートを、ちり紙交換に出しました。それから何年も経って、さえは物語の内容もすっかり忘れてしまいましたが、ある日、熱を出して寝込んだ時に、妙な世界に迷い込んでしまい、そこで暮らすおもちゃやぬいぐるみたちと出会います。彼らは、悪い魔法使いのズルから物語の世界を取り戻そうとしていて、ズルのところに行くためにはさえの協力が必要だと言うのでした・・・。

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チャッキーはリリィの前に進み出ると、キーキーと鳴きながらクルリと宙返りして、自分で自分に盛んな拍手を送りました。
リリィはまず、上座に立ってふんぞり返ったピコに、ひざを曲げてうやうやしくあいさつをすると、チャッキーの頭の上に赤い帽子をかかげ、エッヘンと咳払いをしてから話しました。
「なんじチャッキーは、このサンタクロースの帽子と引きかえに、これから先はつまみ食いやいたずらを止め、行儀良いお利口な猿になる事を誓うか。」
チャッキーは、両手を広げてぽかんとつっ立っていましたが、あわてて列の中ほどのローマンを振り返ると、肩をすくめながらキキッと鳴きました。
みんなもローマンの方を見たので、ローマンは首をすくめて、
「『なんでそんな誓いを立てなきゃならないんだ?』、と聞いてるよ。」
と、教えました。
フールが、赤い帽子の上にとまって、子供に言い聞かせるように言いました。
「戴冠式では、冠を受け取る者が、自分にとって一番難しい誓いを立てるのが、大昔からの決まりなのよ。」
すると、ピコの横に立ったブーンが、
「いにしえの時代、と言った方が優雅だわね。」
と言ったので、フールは「たしかにね。」と答えると、「いにしえの時代っていつごろなの。」と、トンおじさんに聞きました。
トンおじさんは待ってましたとばかりに、
「さよう、ざっと八百二十万年ほど前じゃな。」
と物知りそうにまぶたをとじてから言いました。
チャッキーは地団太を踏んで、ローマンを振り返ると、キキッキ!と鳴きました。
また、みんながローマンを見たので、ローマンはチャッキーと同じように口をとがらせながら、
「『そんな誓いはまっぴらだ!』と言ってるよ。」
と、教えました。
フールが、
「誓いが立てられないのなら帽子はもらえないわよ。」
と、チャッキーの鼻先をくすぐるように飛びまわって言いました。
チャッキーは地面を両手でたたきながら、ピョンピョン飛び跳ねて、ウッキキ!と高く叫びました。
みんなはまたすぐに、ローマンの顔を見ましたが、今度はローマンは、目をぱちぱちさせながら、首をゆっくり左右に振って、ブルルッと申し訳なさそうに鼻息をついただけでした。
「『帽子なんかまっぴらだ!』と言ってるわ。」
困り顔のローマンを見て、かわいそうに思ったさえが、代わりにチャッキーの言葉を通訳しましたが、みんながいっせいにさえを見て感心したので、とたんに自信がなくなって、小さな声で、
「たぶん。」
と付け足しました。
そこで、リリィは回れ右してピコと向き合うと、
「じゃあ、戴冠式はお開きよ。」
と言って、ピコの頭に丁重に赤い帽子をかぶせました。みんなが「ベラボー!」と言いながらさかんに拍手をしたので、ピコは誇らしげに、
「や、おかげさまで!」と言いながら、まるで王様になったみたいに、上品にみんなに会釈をしました。


つづく



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 こんばんは。
きょうは、オリジナルのファンタジー小説、『忘れかけていた物語』の、第10話を書き進めてみたので、ご紹介します。
このお話を更新するのは、じつに半年ぶりです。
書き進めるのが難しいお話ですが、あきらめることなく、カタツムリの歩みで、完成を目指したいと思っています。

挿絵は、新しく描きはじめたものの一部分です。
小人のぬいぐるみピコと、熊のぬいぐるみのリリィが描いてあります。

登場人物の紹介を、以下に載せておくので、物語を読むときの参考にして下さい。


・少女=さえ 主人公の高校生。幼いころに書いた自分の物語の中に迷い込んでしまった。
・熊=リリィ さえが幼いころに親友だったぬいぐるみ。
・クスノキ=トンおじさん とこやみの森の住民。
・操り人形=ジョージ クスノキのトンおじさんの甥(おい)。
・カエル(大)=ブーン さえが書いた物語の国の王の母。悪い魔法使いのズルにカエルの姿に変えられた。
・カエル(小)=チョコ さえが書いた物語の国の王。母と同様カエルの姿に変えられた。カエルのように鳴くだけで言葉が話せない。
・赤い小人=ピコ  木こりのぬいぐるみ。ズルから取り上げられた斧を取り返そうとしている。
・緑の小人=グル サンタクロースになりたい木こりのぬいぐるみ。ピコの赤い衣装を欲しがっている。
・蝶=フール ステンドグラスのように光るおしゃべりな蝶。
・ロバ=ローマン のんびり屋のロバのぬいぐるみ。自分をポニーだと思っている。
・猿=チャッキー いたずら者の猿のぬいぐるみ。名前のない宝石を盗んでビワの木に登ってしまった。
・テントウムシ=ピック トンおじさんの幹にとまっているが、全くしゃべらないので、トンおじさんは気が付いていない。



では、絵の下から、物語の続きをお楽しみ下さい。

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「ねえ、どうして迷子になったあなたが、トンおじさんで木登りなんかしてるの。」
フールがピコの頭の上を飛び回りながら聞いたので、ピコは、
「おせっかいなフクロウが、わしを穴底人の落とし穴に放り込んだからさ。そのフクロウは『けんかを止めないと、蹴飛ばすわよ!』と言ったから、わしは蹴飛ばされないように用心しながら、グルとけんかしていたんだ。するとそいつは、わしの襟(えり)をくわえて、山なりに茂みの向こうへ放り投げた。そこがちょうど、穴底人の落とし穴だったんだ。わしは、その穴の底で、なんと、穴底人がつつましく暮らしているのを発見した。森の誰もが足元に注意して、落とし穴に落っこちないものだから、今まで誰ひとり、彼らの文明を発見することができなかったのだ。わしはそこで、穴底人から心づくしの歓迎を受けて、すっかり穴の底の暮らしが好きになった。ところが、そんな楽しいひとときも、終わりをむかえる時が来た。トンおじさんが、頭から落とし穴に落っこちてきて、穴の途中で詰まってしまったからだ。そこでわしは、トンおじさんの頭につかまり、穴底人に「ごきげんよう!」とあいさつした。穴底人たちも口々に別れを惜しみつつ、みんなして箒(ほうき)の穂(ほ)でトンおじさんの頭を突き上げて、わしを穴の底から抜け出させてくれた、というわけだ。」と言いました。
「とても素敵なお話だわ。だけど、間違っているところが一つあるのよ。あなたを落とし穴に放り込んだのは、おせっかいなフクロウじゃなくて、おせっかいな私だったのよ。」
さえが申し訳なさそうに言いました。
「おせっかいなフクロウか、おせっかいなさえか、迷っていたんだが、これですっきりしたな!」
ピコが気にしないようだったので、さえは安心して何度もうなずきました。
「さあ、何もかもうまく行きました。それではみなさん、ズルの城を目指して出発しましょう。」
ブーンが手を叩いてみんなをうながしました。でも、リリィが手を挙げて、「待って、まだチャッキーとの約束を果たしていないわ。ピコ。あなたの帽子を、チャッキーが欲しがっているの。チャッキーはそれと引き換えに、盗んだ名前のない宝石を返してくれたのよ。」と言ったので、グルは跳ね上がるほど喜んで、「聞いたかピコ。サンタの帽子は、もうお前の物じゃないんだぞ!」とはやし立てました。
ピコは赤い三角帽子を脱いで、名残惜しそうにながめていましたが、肩をすくめると、リリィに渡して言いました。
「木こりにとって、一番大事なものは帽子じゃないからな。ほら、さっさと戴冠式を済ませて、ズルのところへ斧を取り返しに行こうぜ。」
そこでリリィは、ポケットから小さな銀のベルを取り出すと、頭の上で「チリンチリンチリン!」と振り鳴らしました。
すると、一匹の子ザルのぬいぐるみが、ビワの木をするすると下りてきて、リリィの前にちょこんと座りました。両目は紫色のつぶらな宝石でできていて、いつも白い歯を見せて笑っている、とてもひょうきんな顔の子ザルでした。
「さあ、これからチャッキーの戴冠式を始めます。」
リリィが、整列したみんなを見回して、おごそかに言いました。


つづく


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 きょうは、オリジナルのナンセンス童話、『忘れかけていた物語』の第9話を、書き進めてみようと思います。

このお話は、これまで『私の物語』というタイトルを付けていましたが、林真理子さんの小説に同じ副題が用いられたので、今回からタイトルを変えてみることにしました。オリジナリティーのあるタイトルのほうが、楽しく書き進めることができますからね。

挿絵も、色塗りがすんでこれで完成です。今回新登場のキャラクターだけ濃い目の色を塗って、見る人の注目が集まるようにしてみました。
それでは、絵の下から、お話の続きをお楽しみ下さい♪


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 トンおじさんは、寄り目でフールを見ながら言いました。
「どんなに首根っこを長くして待っても、お前さんたちは戻ってこない。仕方なくわしはこう考えた。『“遠くの他人より、近くの自分”という言葉もある。幸いわしは頼りになるクスノキだから、大船に乗ったつもりで任せてみよう。』とな。そしたら・・・。」
「大船なんかに乗らなくたって、トンおじさんは水に浮かべるわよ。まがう事なきクスノキだもの。」
フールが口を挟んだので、グルがこぶしを振り上げながら、「だまってろったら、このおしゃべり!」と言いました。
フールが「黙っているって思ったより難しいのよ!」と言って、静かになったので、トンおじさんは、せき払いをしてから、またしゃべり出しました。
「そしたら、わしの頭で、なにやら話し声が聞こえるじゃないか。それも、ずいぶんたくさんの声だ。わしは耳を澄ませたね。すると、ある者がこう言った。『ずいぶん派手に詰まったもんだ。風通しが悪いったらないよ。』それに答えて、また誰かが言った。『日当たりも悪くなるぜ。いや、ここらがとこやみの森になってからは、どこに行ったって日当たりなんかありゃしないんだが。』すると、また別の誰かがしゃべった。『おまけにこの木はさっきまで、首根っこを地中に伸ばしてたんだよ。このまま頭を根っこにするつもりかしら。』『そんなことをされてはたまらん。みんなで力を合わせて押し出すんだ!』」
「わしはピンと来たね。しゃべっているのは、わしの頭の枝葉たちなんだ。だから、風通しが悪くなるだの、日当たりが悪くなるだの、頭を根っこにするだの心配してるんだ。だからわしはこう言ってやった。『そうさ、わしが穴から抜け出せないのは、お前たち自身の問題でもあるんだぞ。早く押し出さないと、わしはこのまま、腹ならぬ、幹をくくって逆さまに根付くぞ!』とな。」
「枝葉たちは、『なんてひねくれたクスノキだろう!』とか、『親木の顔が見てみたいよ!』とか、口々に悪態をついていたが、なあに元をたどればわしの枝葉なんだ、何の遠慮もすることはない。わしが木で鼻をくくった態度なもんだから、枝葉たちもぶつくさ言いながらわしをせっせと持ち上げ始めた。」
「ずいぶん難儀をしたようで、掛け声を合わせてえっちらおっちら押し上げていたが、さすがはわしの枝葉だけあって、この通り、とうとうすっかり、落とし穴から抜け出させてくれたというわけだ。」
さえはトンおじさんの頭を見上げながら、感心して言いました。
「トンおじさんの頭の枝葉は賢いのねえ。」
トンおじさんは、ほくほく笑いながら、
「良い枝葉を持って、わしは幸せ者だわい。」
と言いました。
すると、トンおじさんの頭から、「それはクスノキのかんちがい!」という声が聞こえました。
「かんちがいなものか、お前たちはわしの自慢の枝葉だわい。」
とトンおじさんが答えましたが、さえがトンおじさんの頭を指さして、「いいえ、枝葉じゃないのよ!赤い服の小人よ!」と言ったので、トンおじさんは、自分の頭を見ようと、幹をくねくね動かしてしきりに上を見上げました。
赤い服の小人は、ゆらゆら揺れるこずえの枝につかまって、愉快そうにこんな歌を歌いました。

「さかさまに、
植え付けられた、
ひねくれものの、
クスノキを、
力を合わせて、
押し出したのは、
穴底住まいの、
穴底人さ!」

リリィが拍手しながら、赤い服の小人に言いました。
「ピコ!私たち、あなたを探していたのよ。見つかって、良かったわ!」
「わしも、みんなを探していたから、一石二鳥だな!」
ピコはそう言うと、トンおじさんの幹をつたって、するすると下りてきました。


つづく


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 今日はオリジナル童話、『私の物語』の、第8話を、書き進めてみようと思います。
この物語は、ルイス・キャロルの『不思議の国のアリス』のような、ナンセンス物語にしたいな、と思いながら書いています。

更新の滞りがちな作品ですが、時々思い出して展開を考えていれば、いつか必ずアイデアが浮かんでくるので、ペンが走り出すまで気長に待つことにしています。

あと、この作品のタイトルは、現在林真理子さんが朝日新聞に執筆中の連載小説の副題と同じなので、別のオリジナリティーのあるタイトルに変更しようと思っています。『私が忘れた物語』というのが、元のタイトルに近く、物語の内容にも即しているので良さそうです。
タイトルを決める時は、一度インターネットでそのタイトルを検索して、他の人がすでに使っていないか、確認すると良いです。『私が忘れた物語』は、幸いまだ使われていないようです。



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挿絵は、今回からまた新しい場面を描きはじめました。とこやみの森で迷子になった、高校生のさえとその仲間たちです。
この絵は、線画まで描き進めているので、次回のお話で彩色して完成させる予定です。


以下が、前回のお話までに名前の分かっている登場人物なので、絵と照らして見て下さい。

少女: さえ
大きなカエル: ブーン
小さなカエル: チョコ
緑の小人: グル
赤い小人: ピコ
七色の蝶: フール
クスノキ: トンおじさん
ロバのぬいぐるみ: ローマン
操り人形: ジョージ
熊のぬいぐるみ: リリィ
?(ビワの木の上に居ます): チャッキー



では、さえの仲間たちの、おかしな自己紹介の続きを、またのぞいてみましょう……。

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「僕の名前は……。」
ジョージが名乗ろうとしましたが、リリィが
「こまったわ。ピコがいないと、チャッキーのバケツがこわれちゃうの。」と言ったので、ジョージは言いかけた自分の名前をごくりとのみ込んでから、「チャッキーは何でもこわしたがるもんな。」と言いました。
「どうして妥結がこわれるの?」さえが聞きました。
「チャッキーは、《名前のない宝石》を渡す交換として、木こりの帽子を欲しがったのよ。バケツを守れないと、チャッキーに宝石を取り返されてしまうわ。」
名前のない宝石というのは、リリィが持っている、小瓶に入った光る石粒の事だわ、とさえは思いました。
「わしの帽子はぜったいに貸さんからな!」
グルが帽子を目深にかぶってわめきました。
「チャッキーは赤い木こりの帽子が欲しいの。緑の帽子では、だめなんだって。」
リリィが言ったので、グルは地団太を踏んで、「何てわがままなんだ!」と言いました。
さえは、
「私、ピコを探して来るわ。ええと、私はどこから来たのかしら。」
と言って、あたりを見回しました。ジョージが、「われられがどこから来て、何者で、どこへ行くのか、知っていたのは君なんだがね。しかし、森を歩き回るなら、土地っ子のトンおじさんに案内してもらうのが一番さ。」
と言ったので、さえは、さっきしたように、口を両手で押さえると、「あっ、トンおじさんが落とし穴にはまってたのを、忘れてた!」と叫びました。
すると、後ろから、
「わしを忘れるとはけしからん!」
と言うのが聞こえました。
振り返ると、そこには、クスノキのトンおじさんが、いつの間にか森の木々にすっかりまぎれて、口をへの字に曲げて、立っていました。
「まあ、まだ穴にはまってるものだと思ったわ!」
さえは喜んで、トンおじさんのそばに行きました。
トンおじさんは、顔についた泥を払ってから、
「一年半も待たされた気分だったわい。だがな、あんまり長く待たされたおかげで、わしは自分で落とし穴から抜け出す方法を編み出したのだ。」
と言いました。
「私、マフラーとか靴下とか、編み出されるものがことのほか好きよ!トンおじさんはどんな物を編み出したの?」
フールがトンおじさんの鼻先で、ひらひら飛びまわりながら聞いたので、トンおじさんは嬉しそうに口ひげをひねって、
「じゃあ話すぞ。わしがクスノキだという事は、みんなもご存知の事と思う。」
と言いました。
すると、フールは、「分かった!本当は、クスノキではないんだわ!」と大声で言いました。
トンおじさんはちょっと心配そうに、「そんなことが、あってもらっては困る!」
と言いました。
そこでフールは、「まったくその通りよ。あなたは誰が何と言おうとまがう事なきクスノキだわ。私、大人しくするから、どうぞ落ち着いて話してね。」と言って、トンおじさんの鼻の頭にとまりました。


つづく



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 今日は、オリジナルのファンタジー小説、『私の物語』の、第7話を、書き進めてみようと思います。
この物語は、去年の1月に第6話を書いて以来、ずっと眠らせておいたものです。実に1年半ぶりの更新です。

挿絵は、前回下絵までご紹介したので、今日は色塗りをした完成版をお見せします。

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1年半の間、色んなお話やイラストを書いてきましたが、この絵に戻ってみると、自分の美意識は、基本的に何にも変っていないな、と思いました。それは、けっこう嬉しいことです。

余談ですが、この物語を休止している間に、朝日新聞で林真理子さん作の『マイストーリー私の物語』という連載小説が始まりました。
内容は、自伝を自費出版する主婦の物語のようです。
ありふれたタイトルとはいえ、同じものがあると分かると、ちょっとがっかりしてしまいます。この気持ち、オリジナル作品を創作したことがある人なら、分かってもらえるのではないかな。

では、いよいよ、私の『私の物語』の、第7話を、書き進めてみようと思います。


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「さあ、それでは、みんなで自己紹介をするわね。」
リリィが、さえと手をつないで、言いました。
「私はフールよ。」
さえの目の前を、きらきら光る七色の蝶が飛び回りました。
「人間が付けた名前は、ステンドグラセラ・ランプラ・アカルスギアナっていうのよ。でも私はフールなのよ。」
「ええ、フールの方がぴったりだわ。」
さえが言うと、フールは、
「でも、ステンドグラセラ・ランプラ・アカルスギアナという名前も、嫌いじゃないのよ。まだ見ぬ国の、由緒正しきお姫様みたいでしょう?」
とたずねました。
「もちろん、すごく立派な名前だわ。」
さえは、難しい方の名前で呼んでほしいと言われなくて、ほんとによかったと思いながら、うなずきました。
「わたくしはブーンと申します。」
そう言ったのは、さえよりも背の高い、二本の足で立っている、丸々としたカエルでした。
「こう見えても、この国の王の母ですのよ。悪い魔法使いズルが王を眠らせてこの国を乗っ取った時、勇かんに戦ったわたくしでしたが、あえなく醜いカエルの姿に変えられてしまったのです。」
「まあ、では、その、お鍋で抱えている、小さいカエルが、王様?」
さえは大人しい子ガエルをしげしげと眺めながら尋ねました。
「この子はチョコという名です。王の体から抜かれた魂だから、言葉が話せないのです。」
とブーンが言いました。
子ガエルはそうだと言うように、「グエック。」っと鳴きました。
ローマンが、ひたいをさえの背中に押し付けて、
「僕の名前は、ローマンっていうんだ。みんなはロバって言うけど―――。」
「自分ではポニーだって思うんでしょう。大丈夫、さっき教わったばかりだから、まだ覚えているわ。」
さえの返事を聞いて、ローマンは嬉しそうにプルルッと鼻を鳴らしました。
突然、緑の服の小人が、
「わしは自己紹介なんかせんぞ!」
とわめき出しました。
「どうしてさ。」操り人形のジョージが聞きました。
「わしは同じものが二つあるのが我慢ならんのだ!二回も自己紹介するなんてばかげとる!」
緑の服の小人は、短い手足を振り回して飛び跳ねましたが、もともと二十センチくらいのぬいぐるみなので、さえには可愛らしくお神楽を踊っているようにしか見えませんでした。
「彼はグルって名前よ。本当は木こりなんだけど、斧を魔法使いに取り上げられてしまって、今では自分をサンタクロースだと思うことにしているのよ。」
フールが言いました。
「そして、彼にはピコという双子の弟が居るの。ピコは赤い服を着ていて、グルよりもずっとサンタクロースに似ていて、やっぱり斧を取られちゃったの。でも、ピコは自分をサンタクロースだとは思っていなくて、斧を取り返して、さっさと木こりに戻りたいと思っているのよ。」
さえはそれを聞いて、はっと口を両手で押さえると、
「さっき私が、茂みの向こうに放り込んじゃったのは、そのピコなんだわ。」
と言いました。


つづく



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 今日は、制作中のファンタジー、『私の物語』の、新しい挿絵を描き始めたので、その下絵をご紹介します。
(下絵と言っても、まだトレース紙の上で当たりを付けている状態なので、ちょっと見にくいかもしれません。^^;)


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今現在、お話に出ている登場人物を、おさらいする感じで描いてみました。真ん中の、セーターを着た少女が、主人公のさえで、さえの手を握っているのが、先日イラストを描いた、子熊のリリィです。その他、この絵の中で、名前が分かっているのは、操り人形のジョージ、ちょうちょのフール、それから、ロバのローマンです。
お話を書くうちに、それぞれの顔や姿が、はっきり想像できるようになってきたので、最初の挿絵の時よりも、各キャラクターの個性が描けるようになってきたのではないかと思います。

お話は、まだしっかりした筋が完成していないので、今回はお休みしておこうと思います。
リリィが、上手にみんなをまとめて、さえを助けてくれると良いなと思っています。^^


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 こんばんは。
1月も、残すところわずかになりましたね。知り合いに、体調を崩された方が多かったのと、私自身、しつこい風邪に悩まされた月になったので、2月は、みんなと一緒に、元気に過ごせたら良いなと、心から願っています。

さて、今日は、制作中のファンタジー、『私の物語』の第6話を、書き進めてみようと思います。
まずは、前回下絵をご紹介した、子熊のリリィの挿絵が完成したので、ご覧下さい。


img185 c手の線修正s

線画に、ごく薄く、色を塗っただけなので、前回と、あんまり違って見えないかもしれないですね。リリィのモデルになったテディベアの、まぶしいような、独特のクリーム色を再現しようとしたんですが、色の調合が難しくて、ビクビクしながら塗り進めました・・・。^^;

お話は、今回で、やっとリリィが登場するところまで来ました。
つかみどころのないストーリーだったから、リリィのおかげで、少し書き進めやすくなるのかなと、期待しています・・・。^^

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チリンチリンチリンチリンチリン!
鈴の音が、響き渡りました。
さえ達が、音のした、ビワの木を見上げると、やがて、上の方から、一頭の子熊が、幹を伝って下りて来ました。ミルクティーのような、美しい毛色と、柔らかそうな毛並みをした、ぬいぐるみの、子熊でした。
子熊は、地面に下りると、小さなかわいらしい目で、一同をくまなく見渡してから、
「交渉が、バケツに至りました。」
と言いました。
さえは、
「それって、"妥結"のことかしら?」
と思いましたが、みんなが、盛大に、拍手したので、あわてて、拍手に加わりました。
でも、その子熊を見ているうちに、何だか、見覚えがあるような気がして、一歩前に出ると、その、まん丸な顔を、しげしげと見下ろしながら、
「あなたは・・・、あなたは・・・。」
と言いました。
「あなたは?」
子熊は、きょとんとして、さえの言葉を、繰り返しました。
でも、さえは、やっぱり、何にも思い出せなかったので、魚のように、口をパクパクさせました。
子熊は、めずらしそうに、それを見上げていましたが、やがて、
「バケツしたの、見て。」
と言って、ポケットから、まぶしく光る、小瓶を取り出しました。
その、激しい七色の光に照らされたとき、さえは、幼かったころ、一番仲良しだった、心の優しい、子熊のぬいぐるみが、いたことを思い出して、
「リリィ!」
と叫んで、その子熊を、胸にしっかり抱き寄せました。
リリィは、びっくりして、両手をあげたまま、じっとしていましたが、やがて、さえの頭を、片手で、優しく抱きしめながら、
「さえ、そんなに、喜んでもらえて、私も嬉しいわ。」と言いました。
そこで、ローマンが言いました。
「違うよ。なにもかも、忘れちゃったんだ。思い出を、なくしちゃったんだ。」
リリィは、
「まあ。」と言って、悲しそうなさえと、顔を見合わせましたが、
「大丈夫よ。さえが忘れても、私が覚えているから。」
と言って、小さな胸を、目いっぱいに張ってみせました。
それを見て、ローマンも、得意そうに、鼻をブルブルッ、と鳴らすと、
「ほらね。」
と言いました。


つづく

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 こんばんは。Kobitoです。
1月も、7日になると、普段通りの生活リズムに、戻られている方も多いでしょうね。
お正月、食べすぎた~、><という方は、今日あたり、優しい味のおじやなど、食べたくなる頃かもしれません。
この頃に、七草がゆの日が、用意してあるのは、やっぱり、そういう理由なのでしょうね。^^

今日は、制作中のファンタジー、『私の物語』の、新しい挿絵、”子グマのリリィ”を描きはじめたので、その下絵を公開したいと思います。


img155 cs

リリィは、クマのぬいぐるみの女の子です。物語の主人公、さえが幼かった頃に、一番大事にしていたぬいぐるみです。イラストは、テディ・ベアの画像を参考にしながら描き進めています。純粋で、可愛い感じにしたいなと思っていたんですが、下絵が完成してみると、ちょっとおしゃまな表情になっていました。^^何もかも忘れてしまったさえを、きっと優しく励ましてくれることでしょう。
お話は、ずっと考えているんですが、なかなか良い筋が浮かんでこないので、今日は無理をしないで、お休みしようと思います。『私の物語』は、本当に、書き進めるのが難しいお話です。
きっと、私自身の、幼い日の気持ちに、立ち返らなければいけないからだと思います。



Kobito


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【長編ファンタジー】 忘れかけていた物語|Kobitoのお絵描きブログ 16.846.789.694.647.586.556.517.225.193.182